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世話焼き魔王の勇者育成日誌。  作者: 鬼まんぢう
復活と出逢い編
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第八話 お約束とは形式美である。


              


 最初の演出をどうするか。これが一番の問題だった。何事も始めが肝心。そこさえ上手くいけば、その後はノリと流れでなんとかなるもんだ。

 乱暴な話、最初と最後さえ上手く収まれば、その間がどんなにグダグダでも誤魔化せる。


 え?何の話かって?


 そんなの、勇者一行との初顔合わせに決まってる。


 勇者の存在を知った日から、色々と準備を押し進めてきた。手出し厳禁を通達するだけではなく、侵入者用の(トラップ)を全部取っ払ったり、城門を補修したり城内の模様替えをしてみたり。


 魔王たるこの俺の居城なのだ、品が無いのはいただけない。とは言え、訪れる者の疲れを癒す心地よい空間、なんてのじゃ魔王っぽくない。

 やり過ぎない程度に不気味に、そこはかとなく恐怖を煽るようなデザインで。


 そんなこんなで壁やら扉やら調度品やらを換えたり据えたり増やしたり。


 そうやって完成したヴェルギリウスさんのお宅は……………

 なんということでしょう!そこに住む家族の快適さはそのままに、来客には程よい畏怖を与える幻想的な空間に生まれ変わったではありませんか。



 ………………………ううーん。気が付けば、なーんか夢の国のライド型お化け屋敷みたいな感じになってる……ような?


 ………ま、いいか。勇者は千葉の夢の国なんて知るはずないし。


 そんなこんなで勇者を迎える……あいや、迎え撃つ準備を着々と進めてきたわけだが、そして何故かギーヴレイが何かを言いたそうにしていたりしたのだが、設備面は完成したものの、肝心のもてなし(ホスピタリティ)面のことを考える前に勇者来訪の一報がもたらされてしまったのだ。


 いやだからさ、来るのが早すぎるんだって。しかし悩んでいても仕方ない。ベタかも知れないけど、ここは王道でいくか。



 俺は玉座の間の松明に細工を施す。滅多に使わない魔導術式を敷いて、最初に魔力(マナ)を流してやれば一定の時間差で明かりが灯るようにしておいた。

 で、勇者一行が城内へ入ったという知らせを受け、臣下たちをその進路上からどかす。おそらく寄り道せず真っ直ぐ此方へ向かうだろうから、離れた場所で大人しくしているよう厳命。万が一エンカウントしてしまった場合は、上手く誤魔化して玉座の間へと誘導するように言ってある。


 これでよし。後は勇者たちを前にしたときに緊張して噛まないよう、頭の中で台詞を反芻しながら待つとしよう。




 そうして待つこと数刻。一直線に玉座の間へと向かっているにしてはちょっと時間がかかりすぎじゃないか。いや、罠とか警戒しながら慎重に進めばこんなもんか。魔王城って門くぐってからもやたら広いし。


 悶々としていると、ようやく扉の前に侵入者の気配を感じた。


 おおう、いよいよか。いよいよだな。あ、やべ、ちょっと緊張してきた。しょっぱなからコケたらどうしよう。


 扉の向こう側の勇者一行は姿こそ見えないが、逡巡している気配がこちらまで伝わって来る。緊張しているのは俺だけじゃないと知ってちょっと安心。


 しかし逡巡も束の間。勇者たちは意を決したのか、扉を開いた。


 重苦しい音が、暗闇の中に響く。雰囲気作りのためにわざと蝶番の油を注さずにおいたのだが、正解だったな。


 やがて扉は開ききり、三つの人影が用心しながら近付いてくるのが分かった。


 フッフッフ。とうとうこの時が来たか。俺はタイミングを見計らい、魔導術式を発動させる。


 順に灯っていく松明の火に照らされて、勇者たちの姿が顕になった。




 それは、女性だった。少女と言っても差し支えない。女勇者もありだと思っていたが、そして美少女を期待していたが、正しく正統派の「女勇者とその一行」だった。


 玉座に座る俺の姿を認めた瞬間、彼女らがおののくのが分かった。


 先頭に立ち、剣を構えるのが勇者か。年齢は……前世の俺と同じくらい……十代半ばといったところ。

 緩く波打つ赤みがかったブロンドが松明の明かりに揺らめいている。意志の強そうな碧の瞳。すっと通った鼻梁に、薄紅色の唇。俺に気圧されているのか表情はこわばっているが、凛とした面持ちの、正統派美少女だ。

 纏う鎧は、純銀(おそらくは魔導金属)を基調に青のアクセントが上品で、動きやすそうなデザイン。盾は持っていない。手にする武器は神授の聖剣だろう。


 勇者の後ろには、白い法衣を纏った神官とおぼしき妙齢の女性。銀の髪に涼しげな水色の瞳。顔のパーツはおとなしめだが、神秘的なクールビューティーだ。


 神官の隣に、と言うか神官の背後に半分隠れるように此方を窺うのは、勇者よりも若い少女。紺色のローブといい、手にした杖といい、魔導士と見て間違いないだろう。燃えるような赤い髪に琥珀色の瞳は気性の荒さを思わせるが、その表情からは感情の動きが見て取れない。



 ふむ。全員女子の三人パーティーか。意外だな。勝手な想像だが、てっきり5~6人くらいの男女比4:2くらいで来るかと思ってた。


 つか、三人って、少なくないか?


 まあいい。とうとうこの瞬間がやって来た。さあ俺、魔王としての最大の見せ所だぞ!今こそ「あの言葉」を‼



 「よくぞここまで辿り着いた、人の子の勇者よ。待っていたぞ」



 おっしゃーーーーーー!決まったーーーーーーーーーーー‼

 

 ね、これ、いいんじゃね?完璧じゃね?声色(トーン)抑揚(イントネーション)話す速度(スピード)も!

 もう、これぞ“ザ·魔王”じゃん⁉


 気を良くした俺は、ついついノリで続けてしまった。


 「どうだ?その心意気に免じ、我に忠誠を誓うのであれば世界の半分をくれてやろう」


 ………………………………。

 ……………………し、しまった……………!


 言っちまった。世界征服の予定(つもり)なんてないのに、よって半分なんてあげられるわけないのに、つい調子に乗って、言っちまった………!


 これ、勇者が「マヂっすか?じゃお言葉に甘えさせていただきまーす」なんて言い出したらどうしよう?


 背中に冷や汗ダラダラだったが、どうやらそれは杞憂だったようで。


 「見くびるな!そんな戯言で我らの決意が揺らぐとでも思ったか‼」


 毅然と言い放つ勇者に安堵する俺。まあ、ここで魔王の誘惑に引っ掛かるような人間だったら、勇者なんて呼ばれてないよな。


 「ククク…流石は勇者、面白い。ならばその力、示してみせよ!」


 俺の言葉に反応したかのように、勇者一行は銘々の得物を手に身構える。


 


 さあ、戦闘開始だ。

 

 

 

やっぱりド〇クエですよね。世界の半分を~のくだりは、幼心に衝撃でした。

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