ずーっと以前に書いた創作怪談シリーズとショートショートシリーズ
大丈夫?
「大丈夫?」
私がそう聞くと、妻は笑顔になって答えた。
「うん、大丈夫よ。時々、急に立つとふらついちゃうの。」
妊娠6ヵ月の妻は、そう言うと夕食の後片付けを始めた。
「いいよ、今日は僕がやろう。休んでなさい。」
私は、妻のとなりに立ち、腕のシャツをまくった。
「大丈夫よ、あなたこそ、ゆっくりしていて。今日も仕事、大変だったんでしょう?」
「よし、それじゃあ、二人でやろう。」
「大丈夫?」
妻がふらついて、倒れそうになった。
「大丈夫。お腹の中で、この子も大きくなっているのね。もっと栄養をとらなくちゃ。」
定期検診で、女の子だと分かった、と妻が報告した後のことだった。
「本当に大丈夫?」
「うん、大丈夫。だって温かいの。お腹の中にいつもこの子がいて、とても温かいの。」
そう言って、妻は微笑んだ。
思い出すのは、そうやっていつも大丈夫、大丈夫と言っていた場面だ。
けれども、妻は予定日を二ヵ月に控えて死んでしまった。病院から帰る途中で交通事故だった。
あの時の笑ったその笑顔は、わたしの妻だったようにも娘だったようにも思えるのだ。