6. 自己紹介、何も聞いてませんでした!!
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焼きたてのパンに野菜が入ったコンソメスープ。それと肉を使ったきっとカタカナのオシャレ名前の料理。デザートにフルーツのジュレ。
今世の僕からしたら少し粗食だが前世の僕からしたらとても豪華な朝食。
スタンツも豪華な朝食にとても満足した様子だ。
そうか、スタンツと仲良く出来るのは前世の僕のおかげか。
そう僕は前世では庶民も庶民。夫婦仲が冷めきった両親を持ちほどよい干渉を受けるだけのただの善良なる一般市民だったのだ。
まぁ朝ご飯を食べてちょっとだけ元気をもらい今日のイベントを消化しようではないか!!と意気込んでいる。
生きている中で避けられないイベントというのは存在する。それが前世であろうが今世であろうが。ならばイヤなことはさっさと済ませてしまおうと考え直してみた。
どうせ少なくとも3年間同じメンツと初等部を過ごすのだ。
教室に入ると黒板には席は自由、但し自己紹介は席順ですると書かれていた。
20人しか居ないクラスに席は当然20席。縦5席横4席だ。幸い僕らは来るのがそこまで遅くもなく半分ほど席が空いていた。真ん中の席に人気が集まる中、窓側1番前にランが座っていた。そのブレなさかっこいい。
「グリムどこ座る?」
「やっぱ空いてるし前よりは後ろかな?」
そう言って僕は窓側1番後ろを選択しその横にスタンツが着席する。
「後ろが空いてるってことは皆最後に自己紹介するのもイヤなんだろうな。まぁ女の子ばっかだしここはオレたちが引き受けようぜ」
その理屈で行くと真ん中の列に位置するスタンツには最後は回ってきそうになかったが、そうか最初に自己紹介もイヤ、最後もイヤ、男子の隣もイヤということか。スタンツの隣にはポルト、その横にはヒューイットが座っていた。最後列は男子が占領していた。
あらかたの席が埋まったときガラガラっと前のドアが開き先生がやってきた。
「はーい、お前ら席につけ」
先生の登場により悩んでいた生徒も穴埋めのように席についた。
「はい、おはよう」
「おはようございます」
「じゃあ早速自己紹介でもするか。まぁ、そうだな。まずは俺から。名前は昨日も言ったがガストール。得意魔法は火属性魔法。こう見えて32歳、独身。以上」
ええっ?得意魔法以外はどうでもいい情報しか得られなかったぞ。しかもかなり短い。
「いいんだよ、お前らとはこれから仲良くなって行くから。最悪名前さえ覚えてくれればいいし名前忘れたら先生って呼んであとで友達にでも確認しろ」
わりとクラスがざわついたがガハハと笑いながらガストール先生は豪快に言った。
「じゃあ先生の次は窓際1番前から後ろに順番に行くか」
予想通り自己紹介はランからだった。おそらくだがランが廊下側1番手前に座っていれば自己紹介は廊下側手前からになっただろう。さすがに真ん中に座っていれば違っただろうがどちらか一方となった場合やはり新入生代表挨拶もしてこういうことには慣れているランからになったのだろう。
「では僭越ながら私から自己紹介をさせていただきます」
ランが席を立った。
「名前はランです。得意魔法はまだないです。趣味はリボン集めとアロマです。大勢での学園生活楽しみにしておりました。ぜひ仲良くしてくださいませ」
そう言ってランは皆の方を向いて綺麗に笑う。
僕は小さい頃からランのことを知っているが、(まぁ、いまも十分小さいんだが)このラン・ノア・ハーミンクという少女は幼女の頃からリボンをこよなく愛している。
いつだったか風に飛ばされたリボンを僕が取ってあげたときもそれはそれは見事な笑顔で感謝されたものだ。
順番に順当に僕の番がやってくる。
「僕の名前はグリームです。よければグリムって呼んでください。妹が2人いるのでもしかしたらちょっとだけしっかりしてるかもしれないです」
前世の記憶があるせいか少しだけしっかりしている伏線を張っておく。まぁランもスタンツもしっかりしているからそんなものは必要ないかもしれないが。それに今世でもうすぐ10歳で前世との年齢差もだいぶ縮まりつつある。
「2歳下なので2年後入学して来るなら皆の可愛い後輩になると思います。妹共々仲良くしてください。とりあえず以上で」
なんだかどっと疲れたが意外となんとかなるものである。
よく考えたら自己紹介なんて僕はすでに前世で何回も経験している。まぁ何回経験しようが苦手なものは苦手だ。喉元過ぎればってやつかな。
「ボクの名前はヒューイット。得意魔法は風属性魔法です。この年にしては結構使える方だと思います」
あまりにもほっとしたせいかそれともこの後に控える魔力値測定が気がかりなのか僕はほとんどの自己紹介を聞き逃してしまった。
まさかランとヒューイットの自己紹介しかしっかり聞いてないとは。あとでスタンツに教えてもらおう。