2-26. 実験開始!!
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家族揃って朝食を食べ終わった後ジークと合流し広い庭の端の方へと赴く。
アズニエル家の屋敷は小高い丘に建っており周囲をぐるっと高い塀で囲まれている。堀はないものの中々厳重である。
周囲にここよりも高い建物はないので風魔法で空を飛ばない限り中を覗くことはできない。
また、使用人に見られても余程近くで見ていない限りは魔法を相殺しているだけに見えるだろう。専門家であるティアナさんですら誤魔化せたのだから。
僕は馬車で相談し使用人に聞かれないようにしたのだ。事が事だからあまり知っている人間を増やすのはよくないだろう。
下手したら一生実験動物扱いされかねない。そこはおそらく父が守ってはくれるだろうがティアナさんみたいな人が研究したそうにこっちを見ているということにはなりそうだ。
「ではグリーム様、準備はよろしいですかな?」
ジークが僕の2mほど前に立って尋ねてくる。本来なら近いと言いたいところだがこじんまりと実験したいのでこの距離は適正なのである。
「うん、いいよ」
「まずは弱めの魔法から参ります」
そう言って手を僕に向けたが何も起きない。
「ジーク?」
「今のは風魔法でございます。グリーム様の御髪は揺れませんな」
「風魔法だと風で揺れたのか揺れてないのかわかりにくいよ。他の属性にしてみて」
「仰る通りでございますな。では次は水魔法を使用致します」
仕える主の息子である僕に対しケガなどしないようにという配慮を感じる。
再びジークが僕に手を向け水がゆっくりとこちらに向かってくる。それは蛇口を弱めに捻ったときのような水量だ。この勢いではコップ1杯満タンになるのにも時間がかかりそうである。
やがて僕のところに辿り着き僕へと当たる。当たった水は地面へと落ちていく。まるで壁に当たったときのように。
目視をしていないと当たったことすらわからないくらい何も感じない。確かに当たったのに僕は濡れていない。当たるときの衝撃もなかった。
ジークが僕に2歩ほど近づき服を凝視したあとに水が当たった場所に失礼と言って触れる。
「ふむ。本当に濡れていませんな」
今の今まで半信半疑だったんだろう。ハーティットと対峙したときにもそれは発揮されていたと思うのだが傍から見る分には魔法が効かないとかよくわからないから仕方ない。