2-20. ウサギさん!!
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ジークが僕の名前を呼ばないということはそこに名前を知られてはいけない誰かがいるということ。
ワイバーン相手にそんなことをする必要はない。
誰がいるのかとても気にはなるものの馬車とワイバーンまでの中間地点5mほどのところで止まった。
倒れたワイバーンの背中の辺りから人が出てくる。
それは白い肌白い髪に赤い瞳をした僕よりも少し年上のウサギを思い出させる容姿の少年だった。
「わぁ、お爺さん強いんだね。ワイバーンを一撃とか凄いや」
本当に賞賛しているといった感じでパチパチと拍手をしている。
僕と謎の少年の直線上にジークが立つ。
「そんなに警戒しないで。別にぼくはあなた方に危害を加えようとは思っていないよ。それにこの子も別に危害を加えるつもりは無かったと思うよ。まぁでも人間からしてみれば脅威だからね。先制攻撃も仕方ないね」
そう言って倒れているワイバーンを撫でる。
「なんとなく気になってこっちの方に飛んでもらったけど失敗だったかな」
「ごめんね、じゃあ」
そう言って少年は自身とワイバーンを浮かせてその場を立ち去ろうとした。
「待って」
呼び止めたのは僕だった。
それはいままで僕の周りにはいなかった人種。ただの興味本位だった。でもこの世界にはパソコンもスマホもインターネットもない。こんなに目立つ容姿の少年でも一度別れればもう二度と会えないかもしれない。
僕もこの少年がとても気になるのだ。
「君は何?名前は?」
それは下手なナンパのようだった。
イタズラっぽく少年は笑い言った。
「ぼく?うーん、神の子とでも言っておこうかな」
「え?キリスト?」
僕は何も考えずにその言葉が口を出ていた。本当に何にも考えていなかった。
瞬間。彼は笑う。
「あははははっ。あー、まさかこんなところで出会うとは。いやぼくの勘はやっぱり正しかった」
僕の周りの空気が動く。それはおそらく僕自身に使われたであろう風魔法。しかし僕は浮かない。
「君本当に面白いね。ぼくの名前はハーティット・ヴェルニエ。君は?」
僕が浮かないので謎の少年ハーティット自身が僕のところに飛んで来る。
ジークがすかさず僕と彼の間に入る。
「ジーク、大丈夫だよ。僕の名前はグリーム・フォン・アズニエル。グリムって呼んで」
ジークに呆れられるだろうか。彼の配慮を無に帰したことになる。しかし名前を聞いたのは僕だ。それに対し答えてくれたのに本当のことを言わないのはフェアじゃない。ここは学園でもないしね。
「そう。ぼくのことはハーティでもハーティットでも好きに呼んで。君の護衛が怖いから今日はもう退散するね。あ、ぼくの母はマリアじゃないよ。じゃあね」
そう言って彼はワイバーンと共に去っていった。