2-16. 手の内は明かしません!!
□□□□□□□□
僕の認識は甘かった。
毎回認識の甘さに後悔するんだからそろそろ僕も用心深くなるべきなんじゃないだろうか。
水魔法なら濡れるだけ?
そんなわけはない。そもそも最初から攻撃魔法を使うという前提だったじゃないか。手加減をやめたノッカーさんの水魔法は攻撃魔法と称するに十分な威力だった。
先程とは威力もあからさまに桁違いであろう水魔法。
なんで僕さっきどうぞとか言っちゃったんだろう。
これ当たったら絶対大怪我するよね。必死になって水の向きを変える。
ウォータージェットという存在を忘れていた。
通販でよく売っているあれのことだ。
全ての水の方向を変えたと思ったらノッカーさん両手使いだした。
もう勘弁してください。
先程までは連なっている水の塊だったのに細切れの水がこっちに向かってくる。これは当たっても濡れるだけっぽいがとりあえず全ての方向を変える。
ノッカーさんが右手を上に上げ斜めに水を放出する。僕は上を向き水を目で追う。
そして。
こんなにも簡単な陽動に引っかかる。圧倒的実戦不足。
上を向いたことにより左手から放出された低い位置の水に当たる。
当たるはずだった。
いや確かに当たったはずなのに僕は濡れなかった。
視界の端で捉えた映像は水の塊が僕に当たって弾け飛んでいたところだった。
触ってみるが服は濡れてない。
ん?どういうことだろう。確かに当たったはずなのにどうして濡れてないんだろう。あからさまな陽動に引っかかり水を逸らすことができなかったのに。
「ちょっと待って」
ティアナさんから声がかかる。
ノッカーさんの攻撃が止まる。
「ねぇ、いま水に当たらなかった?私が見てるとこからだとよくは見えなかったけど、でもいま当たってたよね?」
見られていた。確かに僕も当たったと思う。
「いえ、防ぐのがギリギリになってしまいましたが当たってないですよ」
さらりと嘘をつく。
当たったのに濡れてないとなると物凄く面倒な展開になることが予想出来たからだ。
あとは一応誘拐などされやすい身分なので自分の手の内を明かしたくないというのもある。
今後の実験動物扱いが嫌だったというのが一番の理由ではあるが。
「見間違いだったのかな?隅に居るせいで距離があってよく見えなかったんだよね。やっぱりもっと近くで見るべきか」
ティアナさんが近づいてくる。
「あの、その位置に居ると僕が水を逸らしたのに当たっちゃうんじゃあ...」
2mくらいの距離まで近づかれた。
「うん。でもせっかく検証中なのに見えないなんて嫌だししょうがないよね。水に濡れるくらいどうってことないよ。まぁできれば違う方向に逸らしてくれるとありがたいけど。濡れても文句言わないからいいよ」
「近過ぎて集中できないんでできればもうちょっと離れてください」
これも本音。ただ近すぎてさっきと同じ現象が起きたときに誤魔化しきれないと思っているというのもある。自分でも把握できていない現象がティアナさんにバレてさらに興味を持たれても困る。
「できればってことはできなければ離れなくていいんだよね?ということでできません」
「危ないので離れてください」
「ちぇー、せっかく近くで見れると思ったのにな。やっぱりあたしが攻撃する側に回って近接攻撃を仕掛けるべきだったかな」
ティアナさんは残念そうに離れていく。
「グリーム君。このまま終わりにしようか。自分も魔力を結構使って疲れてきたしね」
「そうしましょう」
間髪入れずに返事をする。
後ろでティアナさんがじゃあ続きはあたしがと言ってるが無視をする。僕だって疲れている。休憩を入れたとはいえ検証実験をした後に対魔法戦である。相手がその場から移動をしていないとはいえギフトを使うだけで疲れるのに連続使用しているのだから当然である。
「ノッカーさんはさっきの見てた?あたしからは当たったように見えたんだけどどうだった?」
「自分が放った水が弾幕になって見えなかったな」
「そっか。うーん。まぁまた来週もあるしね。早くこのモヤモヤを解消したいけど1週間も考える時間があるのかと思うと楽しみでもあるな」
来週もティアナが居ると宣言されてしまった。
この宣言はさっきの宣言とは違い信用できるけどできればしたくない。