2. 初めての友達、決してぼっちではありません!!
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別に僕がぼっちだったとかではなくそもそも周りに同い年の子供が居なかったのである。
家には使用人が把握出来ない人数いたが全員成人していたし外界から少し隔離された屋敷に住んでいたから近所の友達というものが存在しなかった。
ランは唯一会える同い年だったが家の用事で年に2回程しか会えず友達という感じではなかった。
そしてさらに同性の友達というのはとても貴重である。
別に僕は男女間の友情が成立しないとかいう思考の持ち主ではない。ただ僕が男であるということにより男友達は貴重なのだ。
現在アズニエルでは男女の出生比率が2:8なのだ。単純に2割しか居ないので男である僕が同性の友達を持つのは中々難しい。
逆に僕が女の子であったら同性の友達を作るのも易しかったのかもしれない。
女の子同士は女の子同士で難しい可能性もあるので一概には言えないが。
だから僕は決してぼっちではない。
うん、決して。
ランが非の打ち所のない新入生代表挨拶をして入学式は終わった。教室へと移動しまだ来ない先生とランを待つ。
斜め後ろの方から自慢話が聞こえてくる。女子数人を侍らして机に座り足を組み手を広げて話す人物が居た。
「僕の家にはパティシエが居て中々美味しいお菓子を作るんだ。休みになったらぜひ遊びに来てみればいいよ」
ふむ、華麗である。さらりと自分の身分が一般市民ではないこと何人かの使用人が居るレベルの家庭であることを披露しさらに上から目線も忘れない。パティシエがいてシェフがいないなんてこともないだろう。
中流貴族てところだろうか。
「僕の家にはママが居てとっても美味しいお菓子を作ってくれるんだ。できたてだし美味しいよ。よかったら遊びに来てよ」
スタンツが言う。
友達の家にお呼ばれ!!
素敵な響き。
行きたい。
「ぜひ」
家庭料理っていいよね。
「えー、ママが作るとか有り得ないよね?ママは笑顔で見守る係でしょ?」
本気でわからないと言った声でヒューイットが言う。名乗ってもいないのに周りの女の子たちの声で覚えてしまった。女の子たちも大変だなぁ。数少ない男子でしかもおそらく貴族ともなると少しくらいは持ち上げてあげなきゃいけないらしい。まぁ見た目は悪くないしな。金髪に青みがかった翠の目。悔しくもちょっと取り巻き女子の気持ちがわかる。
「人の家庭に口を出すことの方がありえませんわ。そもそもそこは座るところではなく勉強するところです。座席が決まっていない中で座るということは私に貴方のお尻が乗った場所で勉強しろと仰いますの?」
そこに新入生代表の挨拶を済ませ1人後から教室にやってきたランが入ってきた。
完璧なるお嬢様が乱入だ。
ヒューイットとランのバトル勃発かと思いきやあっさりと
「ほんとですよねー。ごめんなさい」
引いた。どうやら彼にも明かされていないながらもランの方が家柄が上なのがわかっているらしい。
とそこでガラガラガラと教室の前の扉が開きいかにも体育会系という見た目の男性教師が入ってきた。
この世界でジャージのような服を初めて見た。いやそもそも今日は入学式で全員正装だからわざわざ着替えたのか。
「あー、生徒諸君。とりあえず適当に席についてくれ。好きなところに座っていいぞ」
ヒューイットはそのまま座っていた机の席に着いた。特に何も考えていないのかもしれないがランの手前他の席に着くのは憚られたのかもしれない。
僕はスタンツの横にそしてランは僕の後ろに座った。
「諸君入学おめでとう。俺は君たちのクラス担任になったガストールだ。君たちはアズール学園1年火組だ。地水火風光の5クラスあるので覚えておくように」
1クラス20人、5クラスで1学年100人程度しか居ないが初・中・高、一貫なのでこの学園にはそれだけで1000人近くの学生がいることになる。それとは別に担任、学科担当、警備としての騎士、魔法士などが常駐しているためこの陸の孤島には1500人ほど人が居る。
「今日は入学式とこの後の入寮で終わりだ。自己紹介などは明日やるので各自考えておくように。それでは解散」
はーいと皆で返事をしてガストール先生が教室を出るのを見送る。
「はぁ、入寮とか緊張するなぁ。僕実は人と共同生活ってしたことなくて」
「そんなんオレだってないよ」
「まぁ、そうだよね。9歳だもんね。僕前…」
僕前世でも14歳で死んだから共同生活したことないんだよね、と言いかけて言い淀む。一応前世があったことをこの世界の住人には秘密にしているのだ。今のところ自分以外の転生者にも会ったことがないし。
「前…?」
「前日から寝れなくて。2人部屋なんでしょ?なんか失礼なこととかしないか心配で」
「そうね、貴方には配慮が足りないときがあるから気をつけた方がよいかもしれませんわね」
ランが僕とスタンツの会話に入ってくる。新入生代表挨拶のことを根に持っているようだ。
「お前どんなナンパしたんだよ」
スタンツが小声で話しかけてくる。
笑って誤魔化すしかない。
「私寮でも早く来るように言われてますの。それではごきげんよう」
ランは颯爽と去っていく。
はえーとスタンツは完璧なお嬢様ランを目で追いながら感嘆としている。
「隠しててもお嬢様ってわかるなぁ」
「あの子は代表挨拶とかもしてるからあんまり隠れてないよね」
「そうだな。まぁこの学園では身分とか関係ないしな」
「そうだね。それに身分を笠に着るような行為は恥じるべきだ」
僕はまだ教室に残っているヒューイットに聞こえるように言った。
「そろそろ僕らも男子寮に向かおうか」
スタンツに寮へ向かうように促してヒューイットからの口撃を躱すことに成功した。