5-43. 終わり!!
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「グリムは王様にはならないと思っていましたわ」
書斎を後にして馬車に乗ってからそう言われる。僕もそう思っていた。
「なりたいとは思っていなかったんだけどね。けどいずれ回ってくる役回りなら利用しようと思ったんだ。今その役目を引き受ける代わりに彼らの命を救いたい」
危害を加えられ尊重もされいていないのに手を差し伸べるのは愚かな行為かもしれない。それとも傲慢だろうか。王様になりたくはなかった。だけどこの国の現状を変えるには1番いい立ち位置なのかもしれない。
「そうですの。あなたが自分で決めたことなら私はそれに従いますわ」
「ありがとう。だけど僕に従う必要はないんだ。ついてくる必要も」
「わかっていますわ。私は私の意思で自分のしたいように行動しているだけですもの。あなたの行動が理解出来なければついていくつもりはありませんわ」
¨私たちは一蓮托生ですわ。例えグリムにその覚悟がなくとも私の気持ちはもう決まっていますもの¨
うーむ。僕がこれからやることに巻き込むことになるのは心苦しい。それこそ後世で愚王と呼ばれることになるかもしれない。せめて先に知らせておくべきか。
「僕はね、王になったら王制を終わらせようと思うんだ」
目の前に座るランはその大きな瞳を更に大きくして瞬き驚いた表情をしたものの一瞬で取り繕い言葉を発する。
「私もそれに賛成致しますわ」
¨何故王制を廃止しようとしているのでしょうか。王になりたくないからでしょうか。グリムはそんなに浅慮ではないですわ。王制を廃止すれば身分差がなくなります。すぐには難しいかもしれませんが学園の理念が国の理念になるのも素敵ですわね¨
そう。学園の理念のように身分の上下なく分け隔てなく仲良くなれるなら素晴らしいと思う。現実には厳しいかもしれない。だけど僕は身分差なんて存在しない世界を知っているから。飢えることなく最低限の生活を保証してくれる世界を。少なくとも売られることなく王族に危害を加えたからといって審議もなく処刑されない世界を。
「僕は入院したら友達にお見舞いに来てほしいんだよね」
本人が左右することが出来ない生まれによって差別するような制度はよくないと思うんだ。貴族だから王族だから特別扱いされるのもそうだし平民だから敷地にすら入れないなんてことはあってはならない。
「私の気持ちは変わりませんわ」
¨例え王でなくなってもグリムについていくと決めていますもの¨
何がここまで頑なに彼女の気持ちを決定しているのかはわからないが彼女がそう決めたのなら僕が守ろう。彼女に降りかかる火の粉は僕が払う。
ゆったりと進行していた馬車が止まる。病院に着いたようだ。時間の経過とともに全快したとはいえ僕は一応入院患者だからね。先に馬車を降りランに手を差し出す。
「お手をどうぞ、僕のお姫様」
目を細め破顔しているというのにそれでも可憐だった。僕の手を取り馬車を降りる。
こちらに気づいた妹たちとスタンツが笑顔で駆け寄ってくる。
幸せだな、と思いながらも彼との友情を維持するためにも僕はこれから頑張ろうと心に誓った。