5-18. よくあること!!
□□□□□□□□
商店街を通り抜け外周エリアも素通りし門へと到着する。王都アーノルンを外界から閉ざすために存在している門。
「通行許可証の提示をお願いします」
今更ながら通行許可証はどうするのだろうか。当初の予定ではノッカーさんとティアナさんと僕だけだった。3人の通行許可証はあるが増えた4人分はどうするのだろうか。ティアナさんが御者席に通じている小窓を開け自分の分の通行許可証をノッカーさんを経由して門兵に提示する。
「これで通っていいよね?」
許可を取るというよりも当然のことだけど一応聞いてみようといった感じの一言。外側の小窓から見えるのはティアナさんの顔のみだろう。他の窓はカーテンが閉じられていて馬車内の様子はわからない。わからないけど今の時間なら人影くらいは見えるかもしれない。
「はい、結構です」
それでも通行許可が下りた。思えば僕はそうして誘拐されたじゃないか。貴族の馬車に乗り中身を確認されることなく輸送された。状況は違えどこれが貴族の持つ強権ということか。どこまでこの国は腐っているのだろうか。頂点から腐れば下にも感染していく。父が奔走したところで根腐れしているのであれば根本は変えられない。
貴族の特権を使うところをスタンツに見せてしまい居た堪れない気持ちになる。エルバドで突如スタンツが爆発して以来彼は僕に突っかかってこない。不満がなくなったのか溜め込んでいるのかはわからない。彼は元々不満を表に出すような性格をしていなかったのでどちらなのか判断出来なかった。横に座るスタンツの顔が見られない。僕が何かをしたわけでもないのに後ろめたさを感じる。それは貴族社会というものを作り上げた一族の一員だからだろうか。ここに居るほぼ全員が先程のやり取りに違和感を覚えない。彼女たちもまた権力を行使する側だからだ。
「こういうことはよくあるんすか?」
「うん?まぁね。一々待ってられないからね」
一応列には並んだので一々待っていられないというのは許可証を取りに行くのを待ってられないという意味である。
「そうなんすか」
スタンツがティアナさんに話しかけた。僕は冷や冷やしながら見守るしか出来なかったが2人の会話はこれだけで終わってしまった。馬車内ではルチカが騒いでいるが僕はそれよりも黙ってしまったスタンツの方が気になっていた。