1. いきなり4年後、学園生活開始です!!
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あれから4年、僕は結局魔法を使うことはできなかった。それも残念ながら当然である。測っていなくてもわかる。僕の魔力値は0なのだから。
まぁ父母には申し訳なく思うので少しでも良い子になろうと努力中である。その一環での僕なのだ。そもそも初等部に入ってすらいない子供がいきなり一人称オレとか言い出したら両親可哀想だしね。
こちらの世界の両親は元いた世界の両親とは別でラブラブだし。おかげさまで妹が2人。
兄妹というものがこんなにも可愛いものだとは思わなかったが本日から僕は寮生活である。
ちょっと早くないかい?と思いつつもこの世界では常識らしい。9歳までを家庭で教育し9歳からは全寮制生活。初等部と言っても元の世界での小学4年生である。
でも2歳下の妹は2年後には入学してくるということでもある。お兄ちゃん頑張ってくるよ。とはいえ同い年の共同生活は実は少し気が重い。
まぁいじめられるようなことはないだろうけどね。
なんてったってこちらの世界で僕は五大家の一家だから。
ただおかげさまで同い年の子供と接する機会がほとんどなくて若干不安なんだけれど。
あの神様はやたらスムーズに手続きが済んだからかそれともステータス魔力値0にしたことにより他に振り分けられたせいなのか僕にとてもよい環境を与えてくれた。
こちらの世界つまりベルクのアズニエル王国では国を支える五つの家がある。五つの王様を出したことのある家系ということである。
僕の名前はグリーム・フォン・アズニエル。現王家ではないものの初代王を排出した家系で、だからこそ国名と家名が一緒である。
そして僕は実は神様にお願いした男に生まれ変わらせてもらったのも少し後悔している。30年振りの直系男子の誕生と言ったが正確には五大家で30年振りの直系男子なのである。つまり父さんが生まれて以来である。
あそこでもし神様にお願いしなかったら僕は美少女で生まれてきたんじゃないのかなって思う。あのお願いによりこちらの世界の自然法則を少しねじ曲げたのではないかと懸念している。
まぁ過ぎたものはしょうがない。
優しい父母になんの心配も要らない家柄。元の世界ではいなかった可愛い妹たち。
まぁなんだかんだで今日から新しい生活頑張ります。
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アズニエル王国はお城があって王様や貴族、騎士が居て魔法が使えるベルクという世界の一国である。アズール学園はアズニエル王国において初・中・高等部における一貫教育をしている学園である。
また五大家の子息子女はここに通う慣例である。今年は僕の他にもう一家入学する。
ラン・ノア・ハーミンクである。彼女とは仲良くやりたい。
「あら、グリムじゃありませんの」
金色に光る柔らかそうなボリュームのある髪に赤いリボンをつけて如何にもなお嬢様ラン・ノア・ハーミンクは立っていた。
噂をすれば影というやつか。いや心で思っていただけで噂なんかしていないけど。
厳重に警備された荘厳な門扉をくぐった学園内部には西欧に似た景色が広がっていた。
桜の樹の下で髪をかきあげながら僕に話しかけたランの姿はまるで1枚の絵画のようだった。
「どうしましたの?」
「あー、ごめん。見蕩れてた」
素直にそんな言葉が口から出た。
「久しぶりだね、ラン。と言っても半年ぶりくらいかな?」
ランはしばらく目をパチパチしたが気にも留めず返答する。
「そうね、丁度それくらいですわね」
五大家同士交流がありそれが大体半年前だったのだ。
「ところで今日新入生代表の挨拶をするらしいね?」
キッという効果音が似合う表情でランが一瞬僕のことを睨んだような気がする。しかしそこは本物のお嬢様。気のせいかと思えるくらいの一瞬でにこやかな笑顔を作る。
「ええ、噂なんですけど本来やるべき方が辞退したらしくって」
なんと、バレている。
まぁ五大家で30年振りの男子というこの僕にやらせたい大人がいるのはわかる。そして僕が辞退したことにより必然的にランに役割が回ったのも。
「そういうわけで私、皆様よりも早く行かなければなりませんの。それではごきげんよう」
怒気を孕んだ声でしかしなが見蕩れるほど端正な笑顔で入学式が行われる講堂の方に去っていった。
ランは本当に9歳なのか。自分と同じ転生者なのではないかと思いながらも若干9歳の女の子に大役を押し付けて申し訳ない気持ちもある。ただ今後の学園生活を思うと魔力値0の無能がやるよりはいいと思うのだ。
「うわぁ、めっちゃ美形。あの子知り合いなの?」
いきなり現れてとても返答に困る質問である。
彼は木の影に隠れていたのか急に現れた。
そこには僕よりも10cm以上身長が高い日に焼けた赤茶色の髪にそばかすの男の子が立っていた。髪は日に焼けているのに肌は黒くはなく少し赤くなっている。そういう体質なんだろうなと思った。
アズール学園に於いて生徒は身分の上下なく平等であるという理念をもって学園ではファーストネーム、つまり名前しか名乗らない。
しかしながら新入生代表を務める生徒が一般市民でないことは学園生は気づくであろう。それもあって僕は辞退したのだし。
そして今年の新入生代表と知り合いということは何かを勘ぐられても仕方ないのである。
逡巡しつつも、
「ナンパ失敗しちゃった」
と言ってみた。まぁ実際華麗にスルーされたし。
「まぁナンパするにはちょーっとレベル高すぎたよね。てかどうせ同じ学校なんだからもうちょっと徐々に攻略すればいいのに」
まったくもって正論である。
「いやー、実は僕魔法使えなくて。それバレる前に仲良くなろうかと思って」
「?僕も使えないよ?むしろ皆ここに習いに来てるんだから使えなくて当然だと思うけど」
謎の少年が首を傾げながら不思議そうに言う。
父さん?母さん?あんなに必死だったのにまだ覚えてなくてもいいってそれ例えるなら小学校入る前の漢字や算数じゃん。
まぁ皆と一緒に習ったところで魔法使えないことは確定しているけど。
「美少女ナンパ失敗した無能なんだけどちなみに君は名前教えてくれたりする?」
「オレはスタンツ。よろしくな。えーと」
スタンツは言いながら手を差しだしてくれた。
「僕はグリーム。グリムでいいよ。仲良くしてね」
謎の少年ことスタンツのナンパには成功した。
僕も手を差し出し彼と握手をした。
アズール学園で初めての友達である。
そして今生でも。