3-38. 落ちる
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「やぁ、グリム。今日はお父様に会いに来てくれたんでしょ?王都で暮らすようになってから初めてじゃない?うれしいなぁ」
いつもと変わらないテンションで僕に抱きついてくる父。だけど僕はいつもと同じ対応はできなくて。無言で父を押しのける。
「グリム?どうしたの?」
「グリーム様、如何なさいましたか?」
父とジークが僕の心配をしてくれる。こんなにも優しい人たちが誘拐の主犯なんて嘘だって言ってほしい。
「嘘ですよね?お父様が誘拐を容認してるなんて嘘だって言ってください。僕はその言葉を信じますから」
「グリム誰からその話を...」
「憲兵隊のおじさんがそう言ったのをアーデおじさまに確認したんです」
僕がアーデおじさまの名前を出した瞬間、父の顔から笑みが消えた。まるで誤魔化すのはやめにしようと諦めたのかのように。
「残念ながら本当だよ。グリムここじゃなんだから屋敷で話そう」
父からの肯定の言葉に信じていた足場が崩れさったような気分だった。気づかずに落とし穴に落ちたような。
その場にへたり込み立ち上がれない僕をジークがお姫様抱っこをして移動させ馬車へと乗せる。広い敷地内を馬車で移動するのは普通のことだった。
「どうしてそんなことをするんですか?」
頭を突っ伏して顔を上げられないながらも質問する。
「これはどうしようもないことだったんだよ。前王の父の時代戦争があった。でもこの国は女の子ばかり生まれるから戦力にはならなかったんだ。隣国に少女を輸出することにより守ってもらってたんだ」
「じゃあ今はもう必要ないんじゃないですか」
「うん、もう戦争はしてないね。だけど一度始まった習慣は簡単には終われない。それに今はエルバドには伴侶としてサシュハには労働力として少女たちは買われていく」
「そんな。家族だっているのに止めれないんですか」
「だから平民の少女だけなんだ。攫われてもお金を渡せば大概丸く収まる。そして長年誘拐されているせいか市民たちはあぁまたかと諦観してくれる」
「そんな。守るべき国民に諦めさせるなんて間違ってます」
「だけどね出生率の問題もこの方法なら解決できるんだ。男女比率2:8。何の対策もしなければ女の人の人数が増えすぎてしまうんだ。だから誘拐が許可されているのは平民の少女のみなんだよ」
父が何を言っているのかわからない。いや言っている意味はわかるのにこの目の前に座る人物は本当に僕のよく知る父なのだろうか。
「グリムのクラスメイトの女子は全員貴族だから誰も欠けなかったでしょう?」
頭を殴りつけられたようにガンガンと痛みが走る。クラスメイトが欠けなかったんだからそれでいいじゃないかと言われたような気分だ。いや、これは正しくそう言っているんだろう。
「でもファナは攫われました」
「あぁ、攫われたあとに選別するからね。攫った後に貴族だと確認が取れたら返すんだよ」
それじゃあ僕のしたことは全て無駄だったのか。馬鹿みたいじゃないか。誘拐犯に憤り攫われたファナを助けに行ったのに誘拐犯の黒幕の黒幕は父やアーデおじさまでファナは助けに行かなくても解放されただなんて。
なんて道化だろう。