プロローグ
初めての作品です。
拙いですが少しでも気に入って頂ける方が居ましたら嬉しいです。
あぁ、言葉って難しい。
熱に浮かされながらそんなことをオレは考えていた。
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うだるような暑さ、今年もいつもの異常気象だとテレビのニュースでやっていた。
毎年毎年同じことを言っているような気もするがとにかく今年も例年よりも暑いらしい。
もういっそこの猛暑はいつものことだと認めてしまった方が潔いのではないか、などと考えながらオレは帰路についていた。
本来なら学生のオレの帰宅時間は夕方頃なのだが明日から夏休みなのである。今日は終業式と簡単な連絡事項のみで帰宅できた。おかげさまで日差しが1番強い時間帯に帰る羽目になっているわけだけど。
普段なら早めに帰宅できるのは喜ばしいことなのだが今日は体調も崩していて暑さとの相乗効果であまり芳しくない。
「うー、暑っつい」
独り言を言うのは周りの視線が気になるもののそれすら凌駕するほど暑いのだ。
とはいえその言葉を口に出したところで別段涼しくなったりはしないのでそれ以後言葉にすることはなくただ上を見て燦々と照らす光を細目で一瞬だけ睨みつけ汗を手で拭った。
太陽が真上にあるせいで日陰も存在せずただひたすらアスファルトに照り返す熱にその身を焼かれていることを自覚する。
頭がずきずきするのは朝から続いている体調不良なのかこの暑さによる脱水症状なのかさえもうわからない。わからないならとりあえず水分を補給するべきか。原因は追求されるべきである。
幸い夏休みに入るわけだし帰り道買い食い禁止の校則も適用外ということでいいだろう。そもそも倒れてまで校則を守ったとして褒めてくれる人など存在しない。
ここはジュースよりもスポーツドリンクにしておくべきか。そう思って鞄から財布を取り出そうとしゃがんだ時、
────あ、死んだ────
どうしようもなくしかし直感でそう思った。
ブレーキを踏んだ気配もないむしろ加速した外車がオレに突っ込んできた。
正直オレはまだ車を運転できる年齢でもないので車に興味もないがエンブレムを見てなんとなく高そうな車だな、とっても丈夫そうだなと思ったくらいだった。
そしてその数瞬後には自販機と高級外車にサンドイッチされた…らしい。
こうしてオレこと田嶋昂生の人生は14歳で幕を閉じた。
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ふわふわとなんだか浮いているような感覚になっていた。
『その感覚は間違ってはいませんよ』
頭の中に急に声が響く。
それは直接声が響いたわりにはとても優しく包み込むような声だった。
『ふふっ』
声の持ち主であろうその人物は柔らかな笑顔を浮かべまるで人ならざる美貌の持ち主であった。
天使の輪が幾重にも出来ているプラチナブロンド、髪より少し濃い虹彩はまるで宝石のよう、白い肌は陶器のようであまりの美しさにオレは彼女から目を逸らせなかった。
『残念ながら私には性別は存在しないのです。私にはとういか私たちにはと言いますか。そしてありがたいことにとても綺麗な容姿で私を認識して頂けているみたいですがその姿は貴方の神への認識が作り出している姿に過ぎないのです。まぁ非常に嬉しいですけれども』
ふむ、要するに人ならざる美貌という認識は間違ってはいないのか。そしていまこの人(人っていうのは間違っているみたいだけどまぁ便宜上ね)自分のこと神って言ったのか?
『神とは名乗っていませんよ。ただ貴方が思う神の姿に私は変換されるのです。私は概念だけの存在で本来姿を持ちませんから。』
というかさっきからオレは言葉を発していないのだが会話が成立している…。
『気づいて頂けて嬉しいです。そうなんです。実はこの次元では物質は存在出来ないのです』
?
よくわからない。
『えーとですね、周りを見渡して頂いても誰も何も居ないように見えますがここには意外と存在しているんですよ』
辺りを見渡して見ても彼女が言うようにただだだっ広い空間があるだけで何も存在しない。本当に何もない。真っ白な空間があるだけである。いや存在を感知出来ないだけでいろいろ居るらしいが。
『まぁひしめき合っているわけではないですが果てが見えないほど何もないわけでもないですよ。ただここは精神だけの世界で貴方の担当は私なので貴方には私しか見えず身体が存在しないので声も発することなく思念だけで会話が出来ているのです。逆に言えば考えていることは全て筒抜けになってしまいますが。そしてだからこそ貴方が想像する神の姿に私は変換されているのです。わかりやすく信じる気になってくれるでしょう?』
この世のものとは思えない美しい微笑。もうそれだけで信じるに値する。それこそ例えこれが口を塞がれ手足を縛られたことによる勘違いだったとしても目の前にいるこの人が言うならうん、この人は神なんだろうと信じられるくらいに。
なるほど、とても合理的だ。
ということは直感通りあのままオレは死んだのか。
『話が早くて非常に助かります!!』
ここに身体さえあればオレの手を握ってくれそうな雰囲気だった。少し涙ぐみながらいかほど過去苦労したのかを滲ませている。
『そうなんですよね!!いやー、やっぱりこんなだだっ広いなんにもない空間に居ても何故か死んだということを受け入れてくれない方っていうのはいるんですよ!!まぁでもそれはきっと残してきた家族や恋人、心残りがあるからこそなんでしょうけど』
家族はいるけど夫婦間が冷めきっていたせいか親子間もまぁまぁ冷めていた。そもそも中二にもなれば進路のことで口うるさくなる時期だし。兄弟も恋人もいなかったし未練も特にない。
『もう本当ありがとうございます!!実はですね、この空間、次はどんな感じで転生したいか希望を聞くところなんですよ。1人辺りの手続き時間も決まっていましてきっかり1時間。ただ死んだことを認めて頂かないと希望も聞けないし本人にとってあまり望ましくない形での転生になってしまう方もいるんですよ。というわけで田嶋さん!!次はどんな形で転生したいですか?一応ですね次の世界は程度の差はあれど魔法が使える世界になるんですが』
魔法、よくあるやつだな。
異世界転生ものか。
『よくあるけどしょうがないんですよ。逆にこれから行く世界の方が記憶を持って田嶋さんの元居た世界に転生した中でそれを発表しちゃった方が中には居たみたいで』
わりと爆弾発言。
『まぁ、田嶋さんはもう元居た世界には関われませんから』
なるほど。
『ところでどうしますか?いまなら希望出し放題ですよ。貴方は生前校則違反未遂くらいしか悪いこともしていないですし若くして死んでいますから希望は結構通ると思いますよ。それこそこの世のものとは思えない美貌とかも』
残念ながら絵画からそのまま出現したかのような人ならざる美貌を持って生きていく自信はない。そもそもオレ好み的には可愛い系の方が好きだし。
『ふむふむ。他には?』
いや、他っていうかいまのは希望じゃないです。
ついうっかり敬語が出た。転生後の希望を叶えてもらうんだからむしろ敬語は使うべきだ。うーん、この流れだと女の子にされかねないのでできればいまと同じ性別でお願いします。あとは魔力要らないです。
以上2点できれば叶えてください!!
あ、あとやっぱり人として生まれたいです。犬のオスとして生まれても困るし。
『はい、わかりました!!では次の転生は人の男性体で魔力はなしでということですね。しかし本当に魔力はなくていいんですか?』
はい、もう能力は要らないんです。
『そうですか、では────』
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あー、そんなやり取りしたのか。そういえばしたんだよな。熱に浮かされて思い出さなくてもいい記憶を思い出した。
いや今生では思い出してよかったのかもしれない。魔力が弱いかもしれないことを気にしていたから。そりゃ神様?に自分から頼んだならそのはずだよ。弱いどころか無いんだよな。こちらの世界からの転生者が小説書いた話を聞いていたせいでてっきり生まれた時から記憶あるかと思ってたんだよね。
ごめんね、母さん。風邪をひいたオレを寝ずに看病してくれていまもせっせと額の布を変えてくれている母ステラに心の中で謝った。30年ぶりに生まれた直系男子ということで大切に育ててくれたのに。まさか魔法が使えないとは思ってもいないだろう。
まだ5歳で初等部入学前だから魔法が使えなくても今は大丈夫だけどこの前入学前までには少しは教えなきゃって父さんと母さんが話してたな。どれだけ教わっても使えないのかと思うと申し訳なく思う。
はー、憂鬱だなぁ。でもあの時は能力要らないって思ったんだよ。
ううっ、ただでさえ熱で頭が痛いんだからもう考えるのはよそう。
5歳児の病人らしく少し寝よう。