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第17話 高貴なる者の招待

「 王宮から召喚状が来ています。 」

「 なんですって…… 」


 召喚状は王宮勤めの貴族と王族にしか出せない。そして私に王宮勤めの貴族に知り合いはおらず。成人していないアドルフには召喚状を作る権限はない。これが指し示す事態は一つしかない。


 成人王族の一人に呼び出されたのだ。気分は赤紙が届いたような感じだ。


「 だれからかしら? 」

「 第一側妃からでございます。 」

「 意外……でもないわね。 」


 第一側妃、リリエル=レギ=リリエラ、温和で優しく虫も殺さないと言われる人物だ。だが、実物はそんなものではないだろう。もっと悪辣で卑劣なものだと思う。正妃をおして寵愛を受けている彼女だ、周りからの妨害や嫌がらせを山ほど受けていることだろう。だが、それらをなんなくやりこめているはずだ。少なくとも腹に黒い物をかっているだろう。


 そうなるとこの召喚状にも必然、意味が出てくる。おそらく第二王子との婚約についてだ。それ以外の理由は思いつかないのだ。引きこもりは基本的に外様とは争わないのだ。


「 気が重いわ 」


 どうせ何かをいわれるのだ。面倒な限りである。


「 影で応援しておりますので頑張ってください。 」

「 ありがとう、そう言ってくれると頑張れそうよ。 」


 ミケラは本当に主思いの侍女である。普段は見守り、つらい時にはそっと優しい言葉や行動をくれる。彼女がいてくれてどれだけ心が救われたことか。


( 明日は脅迫されるだけですむだろうか。 )


 暗殺はされないだろう。する理由がない。婚約でメリットを得ているのは第一王子側、つまり側妃陣営なのだ。私を殺すことで起こる厄介など考えなくとも分かる。わざわざ国に爆弾を持ち込もうとする馬鹿もそうそういない。


( 頭痛くなってきた。 )


 考えれば考えるほど私を取り巻く環境は複雑だ。第二王子側は私を殺したがっている貴族と都合良く利用したがっている貴族に分かれているだろう。前者は私のことが嫌いだから、立身出世の邪魔だから、という理由だと思う。後者は私を兵器として育て第二王子の功績にするため。


 この世界は武力が重視される。要は武勲がかなりの名誉なのだ。強くしてから帝国にでも放り込んでいくつか業績を上げさせて第二王子の武勲とするつもりだろう。部下の功績は上司の功績と同じ理屈だろう。



 それに加えて第一王子派。憎いけど利用できるから放置する。そんなスタンスだろう。


 これらの他に面倒だから関わろうとしない不干渉派、ぶっ殺したくて仕方が無い聖霊教陣営もいる。


 ただ一つ共通してるのは私をよく思っていないということだけだろう。よく、まだ暗殺者を差し向けられないものだ。


 宗教というのは実に厄介だ。信者でなくとも汚染された価値観の影響をうけてしまう。もちろん良い側面もあるだろうが、たまたま私が負の面にさらされているだけだ。


 大半の人間が混沌の精霊を嫌悪して、それを宿す私を嫌悪している。それが彼らの当たり前だ。まさに”坊主憎けりゃ袈裟まで憎い”の理屈だ。くそったれ、死ね。鏡に映る自分をにらみつける。そんな私にのほほんとした顔でミケラが話しかけてくる。


「 明日のお召し物を今日のうちに見繕っておきましょう。 」

「 え、適当で良いじゃない。 」

「 だめです 」


 即答された。悲しい。


 着せ替え人形にされるのは5分10分ならまだ我慢できる。だが数時間もとなると死ぬ。


 初期症状としてはまず足が痛くなり、だんだんと肩部にヒリつく痛みが発生する。末期になると思考が消え、ただツライという感情のみが残る。


 あれは一種の拷問である。断言できる。本当にツライ。あれが楽しいとか頭おかしいとしか思えない。


 私が服の着合わせが大嫌いなことを知っているはずのミケラは妥協しない。それどころか嬉嬉として取りかかる。今も楽しそうに服を選んでいる。


 曰く、かわいらしいお方を着飾るのは楽しい、らしい。


 精神が女男にとっては理解できない。つい適当で良くないか?と考えてしまうのだ。クローゼットを開けてぱっと取った物で良いだろ。言うと怒られるので口にはしないが心中いつも思っている。


「 これはどうでしょうか? 」


 ミケラが服を笑顔で店てくる。その顔をみているとなんだか耐えられるような気持ちになった。まぁ、いいやと意識を服に向ける。


















 二時間後、私は死人のような眼をして姿見の前に立っていた。




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