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平凡サラリーマンの絶対帰還行動録  作者: JIRO
第5章【ロワイヨム編】
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日々読んで下さりありがとうございます。感想やFA、レビュー、ブクマ、評価、本当に励みになっております!

 

『あの、そういえば、ファーレスは何故ひとりでナーエに? 兵士の1人が「任務中、不幸な事故にあって行方が分からなくなった」と言ってましたが……』


 このしっかりしてそうなカードルさんが、そんな問題ばかり起こす危ない奴を、野放しにするとは思えない。そう思い質問してみると、再び深い深い溜息と共に簡潔な答えが返ってくる。


『あぁ……魔物の討伐任務中、行方不明になったんだ』


『行方、不明……』


『まぁ……迷子と言う奴だな』


『迷子……』


 何となくファーレスは迷子になりそうなタイプだなーと思っていたが、俺の勘は当たっていたようだ。いるよな……地図とか見ないで適当に歩くやつ。方角とかも気にしないし。


『迷子になった時は、その場に待機しろと言い聞かせてあるのだが……恐らく討伐中の魔物を追って、ナーエの方まで行ってしまったのだろう』


『は、はぁ……』


 どの辺りではぐれたのか分からないが、ロワイヨムからナーエまでかなりの距離がある。物凄く盛大な迷子だ。

 そういえば森でファーレスとはぐれた時、ファーレスはその場で待機してくれていた。あれはカードルさんの教えを守っていたのかもしれない。


 カードルさん曰く、その時討伐対象だった魔物は、力も強いがとにかく足が速く、ファーレスと魔物の後を慌てて追ったが、見失ってしまったらしい。


『それでファーレス、追っていた魔物は仕留めたのか?』


『……あぁ』


『ふむ、流石だな』


 カードルさんとファーレスの会話を聞く限り、ファーレスはその魔物を1人で仕留めたようだ。凄い話だ。


『っと、すまないな。話が脱線してしまった。それで、トワ。フィーユも牢屋に囚われていたのか?』


 何故こんな幼い子が……とカードルさんは訝し気にフィーユの顔を覗き込む。カードルさんの目線から逃れるよう、フィーユがぎゅっと俺にしがみついてきた。


『フィーユは……その、魔力暴走事故を起こしてしまったみたいで……』


『ふむ……。その魔力量ではな……何が起こってもおかしくない……』


 俺の言葉にカードルさんが静かに頷く。

 フィーユは驚いたように俺とカードルさんの顔を見た後、より一層強く俺にしがみついてきた。もしかしたら、また牢屋に入れられるかもと、怯えているのかもしれない。


『で、でも、フィーユと共に旅をして40日程になりますが、魔力をしっかり制御出来てます……! もう暴走事故を起こす心配はないかと……!』


 俺もフィーユを庇うように抱き寄せ、カードルさんに必死に訴える。


『ふむ……フィーユ、二度と魔力暴走を起こさないと誓えるか?』


 カードルさんはフィーユの方を見つめ、真っすぐと問いかける。


『……はい。絶対に起こしません』


 フィーユはぎゅっと俺に抱き着きながら、カードルさんの方を見て、しっかりと答える。


『……貴公の覚悟を信じよう』


 カードルさんは優しくフィーユの頭を撫で、また俺の方に目線を戻す。


『……で、トワはもちと共に、ファーレスとフィーユも牢屋から連れ出したというわけか』


 俺はカラカラに乾いた口内を潤すよう、唾をゴクリと飲み込み、頷く。


『は……はい……』


 ここまでの話は、ギリギリ牢屋への不法侵入までだった。こちらの世界の法はよく分からないが、牢屋への不法侵入は笑って許して貰えた。

 しかし、ここで頷くということは、脱獄の補佐を認めるということだ。罪人を逃がすことは、どう考えても流石に罪になるだろう。


『ふむ……本来私の立場では、トワを罰するべきなのだろうな』


『は、はい……』


 やはり俺の予想通り、処罰の対象のようだ。俺は裁判結果を待つような気持ちで、言葉の続きを待つ。


『しかし私自身、今の貴族の在り方に疑問を覚えている……』


 カードルさんはそう言った後、表情を緩め言葉を続ける。


『トワ、貴公がファーレス達を牢屋から連れ出さなければ、彼等は牢に囚われ続けていただろう。私達はファーレスの居場所も分からず、再び会うことも叶わなかったかもしれない』


『は、はい……』


『だから、ここは王国騎士団団長としてではなく、ファーレスの一人の友として礼を言わせて貰おう。ありがとう、トワ』


『は、はい……!』


 俺は返事をしながら、驚きのあまりバッと顔を上げ、カードルさんの顔を見つめる。


『先程のトワの発言は、ただのファーレスの友人、カードルとして聞いたものだ。ただのカードルに、人を罰する権利や権限など持ち合わせていない』


 遠回しな言い方だが、これは見逃してくれるということだろう。


『あ、ありがとうございます……!』


 俺はカードルさんに向かって、勢いよく頭を下げる。


『おかしな話だと思わないか? ただのカードルには、人を罰する権利も権限もない。当然だ。しかし、王国騎士団の団長、ヨム・ディレクシオン・カードルにはその権利と権限がある』


『は、はぁ……』


 俺はカードルさんの言葉の意味がよく分からず、曖昧な相槌をうつ。カードルさんは、人が人を裁くことを疑問視しているのだろうか?


『あ、あの……俺には正直……こちらの世界の考え方とかは……よく分かりません』


 俺は迷いながら、言葉を続ける。


『でも……人を裁く人は、多分必要なんだと思います。そして、その人を裁く人が、カードルさんのような人で良かったと……俺はそう思います』


 そう告げた後、慌てて『あ! 自分が見逃して貰ったからとかではなくて……その、カードルさんのような、優しくて……不正とかを良しとしない、善良な人がそういう立場で良かったという意味で……!』と付け足す。


『はは……そうか。うむ、そうだな……。自分が善良であるかは分からないが……そうあろうと日々思う』


『は、はい』


『ふっ……つまらん話をしたな。忘れてくれ』


 カードルさんは小さく笑ってそう言った後、呆れたような顔でファーレスを見る。


『しかし、ファーレス……。お前は所属や役職をきちんと伝えていれば、牢屋に囚われるなど、まずないのだがな……』


 カードルさんが『何故毎回捕まるんだ……』と頭を抱える。

 俺が『そうなんですか?』と問いかければ、『ロワイヨムの王国騎士団には、それだけの権力があるということだ』とカードルさんが苦笑いで答える。


 カードルさん曰く、ロワイヨム内ならば騎士団の存在も、ファーレスの顔も知られているので、問題を起こしてもまず捕まることはないらしい。


 ロワイヨム近隣の街だと、騎士団の存在は知られているが、ファーレスの存在までは知れ渡っていない。

 通常鎧等で王国騎士団だと判断されるのだが、ファーレスは魔力が弱い。鎧を似せた偽物ではないかと疑われ、団長に連絡が行くらしい。


 ナーエの警備兵は、面倒がって連絡しなかったのだろう。

 ただ万が一本物の騎士団だった場合のため、『連絡が上手く行ってなかった』等と言い訳をするつもりで、生かして牢屋に捕らえていたのだろうとのことだ。


『はぁ……魔力が弱いとそんな弊害があるんですね……』


 俺はそう相槌をうちながら、ふと気になり『騎士団にはファーレス以外、魔力の弱い人がいないんですか?』と問いかける。

 カードルさんは若干苦い笑みを浮かべながら、『……あぁ、そうだな』と答えてくれる。

 魔力が弱いのにここまで強いファーレスは、なかなか異質な存在なのかもしれない。


 ―― しかし権力さえあれば、問題を起こしても捕まらないのか……。


 世知辛い世の中だ……と考えていると、どこからともなく「ぐううぅぅうぅうぅ……」と獣が低く鳴いたような音が、部屋中に響く。



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