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平凡サラリーマンの絶対帰還行動録  作者: JIRO
第5章【ロワイヨム編】
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日々読んで下さりありがとうございます。感想やFA、レビュー、ブクマ、評価、本当に励みになっております!

 

『ま、まず、ファーレスとはナーエの街で会いました』


『ナーエ……!? ふむ……なるほど』


『そこで……えーっと……まぁ、その、色々と話しているうちに……俺がロワイヨムに向かうことを話して、ファーレスもついて来てくれることになりました』


 俺は迷いながらぽつりぽつりと語り始める。自分に都合のいい部分だけを抜き出して。


『ふむ……色々、か。そちらの子供は?』


 カードルさんは低く相槌をうちながら、フィーユの方に目線を移す。


『こ、この子はフィーユと言います。え、えっと……ナーエの貴族の子で……俺に懐いてくれて、ロワイヨムまで一緒に観光に行こうと……』


 魔力暴走のことを隠すため、俺は兵士に話したように曖昧な嘘をつく。


『……ふむ。観光、か』


 カードルさんは鋭い目つきでこちらを観察するように見つめ、また低く相槌をうった後、低い声で言葉を続ける。


『トワ。ナーエからロワイヨムまでの道のりは険しい。観光で気軽に行くような場所でも、ましてや貴族が子供を預けて行くような場所でもない』


『は、はい……』


 やはり俺の適当な嘘には無理があったようだ。カードルさんの顔をまともに見れず、俺は俯き床を見つめる。


『私は立場上、色々な人間を見てきた。トワ、貴公は善良な人間なのだろう』


『あ、ありがとうございます……?』


 嘘をつくような俺を、善良と評してくれる理由が分からず、俺はビクビクとしながら少しだけ顔を上げる。


『しかし、貴公は今嘘を吐いている。いや、真実を誤魔化し、都合の悪い部分を隠している』


 ―― 鋭いー……その通りですー……


 俺が気まずさからまた俯きそうになった時、カードルさんの強い言葉が響く。


『真実を包み隠さず、全て教えて欲しい。私はこのロワイヨムを守る者として、真実を知る義務がある』


 カードルさんが『覚悟を決めてくれたと思ったのだが、私の勘違いかね?』と言葉を重ねる。


 そうだ、城壁の前でこの人に全てを話そうと決めたのに。俺は場の空気や権力の気配にビビり、卑怯な嘘をついた。


 どうせ調べられてしまえば、色んなものが明るみに出るのだ。まだカードルさんと会って短いが、カードルさんが嘘や誤魔化しを嫌う性格だと言うことは分かる。


『……何処から……話せばいいんでしょうか……?』


 俺は顔を上げ、やっとカードルさんと目を合わせる。


『全てを。何故貴公がロワイヨムに来て、何故貴族の子と共にいるのか、そして何故ファーレスに会ったのか』


『はい……』


 カードルさんは少し雰囲気を和らげ、俺の背中を押すように語る。


『ファーレスは性格上、人と共に行動するような男ではない。貴公らをロワイヨムまで連れてきたということは、そうするだけの理由があったはずだ』


 カードルさんが俺の嘘を見逃してくれたのは、きっとファーレスを信頼しているからなのだろう。

 俺の行為はファーレスを信頼するカードルさんにも、そして多分俺を信頼してくれたファーレスにも失礼だ。


 ファーレスが俺達とロワイヨムに来てくれた理由とやらは分からないが、俺はカードルさんの言う通り、初めから全てを語ることにした。


『……俺は、遠い遠い故郷から、自分の意志に関係なく、突然ノイに来ました。俺は故郷に帰るため、必死にお金を稼ぎ、故郷へ帰る方法を探していました』


 ミーレスに語った時のように、自分の故郷は別の世界……空の彼方にあるのだということも説明する。

 そしてレアーレの冒険に出てくる女神様が使った、家に帰る魔法。この魔法の詳細を調べるため、レアーレの子孫に会いに、ロワイヨムまで来たのだと話す。


『ふむ……。別の世界、 "イセカイ" か……。信じられん話だが……嘘を吐いている様子ではないな……』


 カードルさんは俺をまじまじと見つめたあと、納得したように何度か頷く。


『貴公から魔力を全く感じないのが不思議だったのだが……成程、貴公の世界には魔素が存在しないという訳か……』


 カードルさんは顎に手をあて、考え込むように話の続きを促す。俺は促されるままポツリポツリと話を続ける。


『ノイは優しく、温かく、俺を受け入れてくれました。しかし……異世界の物を売る俺は目立つ存在となってしまい、貴族に目をつけられました』


『ふむ……。貴族には魔力のない者を、見下す者が多いからな……』


 カードルさんが眉間にしわを寄せ、憐れむように俺を見る。


『俺は逃げるようにノイを出て、ナーエに向かいました。気を付けてはいたのですが……そこでも異世界の物を売る俺は、貴族……ナーエの警備兵に目をつけられてしまいました。更に……』


 話をしながら、そっと鞄からもちを出す。

 もちについても、後で見つかって問題になるより、今のうちに事情を話しておいた方が良いと思ったのだ。


『この白い魔物……この子はもちと言って、俺の大事な仲間です。もちがナーエの警備兵に見つかってしまいました』


 カードルさんは再び顎に手を当て、興味深そうにもちをじっくりと眺める。


『見たことのない魔物だな……。このもちとやらは、トワの世界から来たのか?』


『いえ、こちらの世界で会いました。あ、あの……街に魔物を連れ込んでしまい、申し訳ありませんでした……』


 カードルにじぃ……っと見つめられ、もちは体を固くしている。緊張しているようだ。

 俺も緊張しながら、もちを街へ連れ込んだことを謝罪すれば、カードルさんはニヤリと笑いながら答える。


『危険はないのだろう? ならば別に構わないさ。まぁ、もしもロワイヨムに危険をもたらすようであれば、容赦なく斬らせてもらうがね』


 この発言から、カードルさんの実力の高さが窺える。カードルさんには、魔物が街に入ってきても、自身の力で鎮圧出来るという自信があるのだろう。


 もちは怯えたようにぷるぷると震えながら、俺とフィーユの間に潜り込み、身を隠してしまった。


『そ、そして、警備兵に見つかったもちは、そのまま捕らえられてしまいました……。ナーエの警備兵は、俺の売上や金品……大事な物を奪っていき、もちを人質にして、更に売上や金品を要求しました……』


『ふむ……。本来、主人のいる害のない魔物は、預かるだけの決まりになっているのだが……捕らえるだけではなく、主人に金品を要求するとは……』


 カードルさんは低く唸り、眉をひそめる。


『お、俺は……もちを助けるため、そして大事な物を取り返すため、ナーエの牢屋に忍び込みました……』


 俺の言葉を聞き、カードルさんは目を見開いた後、愉快でたまらないといった様子で大笑いする。


『はっはっは! 貴族の守る牢屋に、忍び込んだ!? なんともまぁ……命知らずなものだ!』


 ナーエに連絡されたらどうせバレると思ったので自分から話したが、正直怒られると思っていたので、少し拍子抜けだ。


『そ、そこで……ファーレスとフィーユに出会いました』


『ファーレス……やはり問題を起こしていたか……』


 俺の言葉を聞き、カードルさんは頭を抱えて首を振る。


『ファーレスが何で捕まっていたのか、理由は分からないんですが……よく問題を起こすんですか?』


 俺の問いかけに対し、カードルさんは溜息を吐きながら答えてくれる。


『まぁファーレスが捕まった理由は、どうせしょうもないことだろう。よく貴族に失礼を働いただとか、貴族に逆らったという理由で捕まることが多いな。道に迷い、立入禁止区域に押し入ろうとして捕まったこともある』


『あー……』


 ファーレスは相手が貴族だろうと態度を変えないだろう。敬語も使わないだろうし、腹が減っていれば多分話しかけられても無視だ。


『ファーレスの外見は目立つからなぁ……』


 貴族の女性がファーレスに惚れて問題になったり、ファーレスが女性に囲まれ騒ぎになったり、これまで色々とあったらしい。


『その都度、私が身柄を引き取りに行っていたんだ……』


『た、大変でしたね……』


 深い深い溜息を吐くカードルさんに対し、俺は心から同情の声を掛けた。




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