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平凡サラリーマンの絶対帰還行動録  作者: JIRO
第5章【ロワイヨム編】
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日々読んで下さりありがとうございます。感想やFA、レビュー、ブクマ、評価、本当に励みになっております!

 

 カードルさんに案内されるまま、俺達は馬車を兵士に預け、門の中へ入っていく。やっと門の中へ入れたのは嬉しいが、処刑台に向かう気分だ。


 カードルさんとファーレスを先頭に、手を繋いだ俺とフィーユが続く。もちは鞄の中に押し込んである。


 ロワイヨムの街はノイやナーエと同様、中世ヨーロッパという雰囲気の街並みだったが、全体的にノイやナーエよりも豪華というか、栄えている印象だ。

 ノイやナーエは木造や古びた石造りの家屋も多かったが、ロワイヨムは白く整った石造りの家屋で統一され、清潔感がある。


『ファーレスは迷惑をかけなかったか?』


 街の中を歩きながら、カードルさんがにこやかに笑って話しかけてくれる。


『は、はい! 迷惑なんてとんでもないです……! ファーレスの剣の腕には、本当に何度も助けられました……!』


『はは、そうか。流石はファーレスだな』


 俺の答えに、カードルさんは優し気な笑みを浮かべて頷く。その後もカードルさんは、騎士団でのファーレスの活躍などを和やかに話してくれた。

 お世辞や上辺だけで言っている様子ではなく、心の底からファーレスの活躍を褒めているようで、俺はカードルさんへの好感度がより上がった。






『……さて、着いたな。ここは私達騎士団の屯所……まぁ家のようなものだ』


 そう言ってカードルさんは、一際大きく豪華な建物の中へ案内してくれる。

 この建物の大きさからして、王国騎士団はかなり大規模な組織なのだろう。都心の高級ホテル程の大きさがある。


 しかもこの騎士団の屯所がある場所は、恐らく貴族街だ。

 ロワイヨムもノイ等と同じように、一番外側に城壁、その内側に平民街、柵のような門を挟み、更にその内側に貴族街……という構造になっているようだった。

 そして俺達は城壁から中へ入り、平民街と柵を通り抜け、街並みがより豪華になった貴族街のような場所を通り抜け、この建物まで来た。


 俺は建物の豪華さに緊張感を高めながら、カードルさんの後に続く。

 フィーユは豪華な建物に慣れているのか、特に緊張した様子もなく、いつも通りの様子で歩いていた。


 ―― そっか、フィーユは貴族の子だもんな……


 フィーユの前で格好悪い姿は見せられないな……と気合を入れなおし、背筋を伸ばして歩く。



 エレベーターのような設備を使い、最上階に上がる。

 最上階は丸々1フロアが団長部屋になっているのか、入り口が1つしかなかった。


『さぁ、入ってくれ』


 そう言って、カードルさんが部屋の中へ案内してくれる。

 部屋の構造的には、広い社長室といった感じだった。四方は書類等が詰まった棚に囲まれ、手前に応接セット、奥に大きな執務机が置かれていた。部屋は幾つか分かれているようで、扉があるのも見える。

 ただ構造は社長室なのだが、雰囲気的には城の一室……といった感じで、とにかく豪華だ。


 窓や壁一面に飾り彫りが施され、それぞれの窓にはたっぷりとドレープの入ったカーテンが掛けられていた。棚や机は、魔石と木を惜しみなく使って作られているのか、重厚な雰囲気だ。


『す、すごい……広くて豪華な部屋ですね……』


 俺はぽかんと口を開け、部屋の中を見渡してしまう。


『はは、お褒めに預かり光栄だ。少し豪華すぎて落ち着かないのだがね』


 カードルさんは『私としてはもう少しシンプルな方が好みなのだが……』と笑いながら、応接セットのソファに腰掛ける。

 そのまま『まぁ座ってくれ』と着席を促され、カードルさんの横にファーレスが、向かい合うソファに俺とフィーユが座る。


『さて……まずは何から聞こうか……』


 カードルさんがそう切り出し、俺は胃がキリキリと痛くなる。割と何から聞かれても、アウトな回答になる気がしている。


『そうだな……まずはファーレス。お前はここに来るまで、どうしていたんだ?』


 緊張する俺の様子が伝わったのか、カードルさんは最初にファーレスへ話を振ってくれる。


 ―― ファーレス……なんて答えるんだろう?


 とうとうファーレスが5文字以上喋るところを聞くのか……と別の意味でドキドキしながら、ファーレスの回答を待つ。

 俯き、ソファにもたれ掛かっていたファーレスは、少し顔を上げてカードルさんの方を見る。


『……さぁな』


 いつも通りだった。

 俺は思わず驚愕の声を上げかけた。まさかの団長相手にも、ファーレスはファーレスだった。


 ―― おいおいおいおい、大丈夫なのかよ……


 俺はファーレスの失礼な態度にビビりながら、そっとカードルさんの様子を窺う。


『ファーレス……回答を面倒臭がるなといつも言っているだろう……』


 カードルさんは慣れた様子で、溜息をついていた。


『怪我はなかったのか?』


『……あぁ』


『問題は起こさなかったか?』


『……あぁ』


 カードルさんとファーレスの会話を聞きながら、俺はちょっと突っ込みたかった。牢屋に囚われてたのは、問題じゃないのか……?


『トワ達と何処で知り合ったんだ?』


『……さぁな』


『……トワ達と何故ロワイヨムへ?』


『……さぁな』


 ファーレスは説明が必要そうな回答は、全て『さぁな』で返していた。

 因みにこの『さぁな』はこれまでの経験上、回答を面倒臭がっているパターンの『さぁな』だ。


 カードルさんもそれが分かっているのか、深く溜息を吐き、こちらを向く。


『すまないが……ファーレスはこんな様子だ。トワ、君の口から聞かせて貰っても構わないか?』


『は、はい……』




 とうとう運命の時が来てしまった。俺は唾を飲み込み、大きく深呼吸してから、意を決して口を開く。





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