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平凡サラリーマンの絶対帰還行動録  作者: JIRO
第5章【ロワイヨム編】
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日々読んで下さりありがとうございます。感想やFA、レビュー、ブクマ、評価、本当に励みになっております!

 

 俺が目を見開きファーレスの顔を見ていると、ファーレスは兵士の問い掛けに答えるよう、いつも通り無表情のまま『……あぁ』と一言返事をする。


『や、やはり……! ご無事だったのですね……!』

『団長にお知らせしろ!』

『ファーレス様……! お噂はかねがね……!』

『お会い出来て光栄です!』


 俺のことをほっぽり出し、兵士達は大騒ぎだ。話を聞く限り、ファーレスは何やら人気者のようだ。


 ―― 何で……? イケメンだから……?


 ファーレスの美貌なら、女性に人気があるのは納得出来る。しかし兵士達は皆男だ。


 ―― イケメンの人気は性別も超えるのか……。


 阿呆なことを考えながら、騒ぎが落ち着くのを少し待ち、ファーレスに近付く。


『ファーレス……お前、何者?』


 俺が小声で問い掛けると、ファーレスはいつも通り無表情のまま『……さぁな』とだけ答えた。これまでの経験上、これは回答を面倒臭がっているパターンの『さぁな』だ。


 取り敢えず、ファーレスはロワイヨムで顔が知られているようだし、俺達の疑惑は晴れるだろう。


『あのー……ファーレスが俺達の身元を保証してくれるってことで……もう通ってもいいですかね?』


 へへへ……と愛想笑いをしながら、俺はさっさと門を通り抜けようとする。しかし、兵士はまたも俺を引き止める。


『ファーレス様のお知り合いと言うことは分かりました。しかし、何故平民がファーレス様と共に? 何故貴族の子を連れて観光に?』


『ファーレス様は任務中、不幸な事故にあわれて行方が分からなくなったと聞いております。ファーレス様と貴方のご関係は?』


『ファーレス様はこれまで何処に?』


『ファーレス様の剣さばきを見ましたか? やはり噂通り、鋭い疾風の如き早さなのですか?』


 次々と質問を投げ掛けられ、中にはただのミーハーなファンのような質問も混ざっていた。俺は下手な回答をしてまた怪しまれないよう『あー……』『んー……』と誤魔化しながら、必死にファーレスに向けて『何とかしてくれ!』と目線を送る。


 しかしファーレスはファーレスで兵士に囲まれ、色々と質問されている。ファーレスは空腹が限界なのか、話し掛けられても無視して俯いている。


 ―― つ、使えねぇー……!


 何とかこの場を切り抜けないとと、空腹に耐えながら必死に頭を働かせていたその時。


『ファーレス、無事だったか!』


 弾んだ声を上げながら、背の高いがっしりとした体付きの男性が、門の内側からファーレスに駆け寄る。


 ―― 今度は誰だよ……


 どうやらファーレスはロワイヨムでとことん人気者らしい。


 俺は新たに登場した男性を、こっそりと盗み見る。

 短髪の紺色の髪に、意思の強そうな真っ直ぐな瞳。年齢は40代前半くらいだろうか。立派な鎧とマントを身に着け、兵士というよりももっと上の立場……騎士といった雰囲気の男だ。


 立派な鎧は、ファーレスが身に着けていたものと同じデザインだ。ファーレスの護衛仲間なのだろうか?


 俺がそのまま騎士風の男とファーレスの様子を見守っていると、騎士風の男がこちらを振り返る。


『おぉ! 貴公がファーレスをロワイヨムまで?』


 突然にこやかに話し掛けられ、俺は慌てて『は、はい!』と返事をする。


『はは、こいつは喋らないから、道中大変だったでしょう?』


 そのまま笑顔で言葉を続けられ、『あー……そう、ですね、はは……』と愛想笑いをしつつ、頭をフル回転させる。

 どうやらこの騎士風の男はファーレスの知り合いで、兵士達よりも立場が上の様子だ。取り敢えず敬語は使うべきだろう。


 ―― あれ……? そういえばこの人の髪色……


 ふと、前にアルマが教えてくれた、魔力別の髪色一覧表を思い出す。紺色は……確か紫の下。2番目に魔力が強い髪色のはずだ。


 ―― てことは、貴族か……!?


 俺は思わず目を見開き、じっくりと髪色を観察する。やはり……青よりも濃く、紺色に近い。青色だとしても、4番目に強い魔力……国家魔術師であるアルマよりも魔力が強いはずだ。かなり上の立場の人なのではないかと思う。


 ノイとナーエでの反省を生かし、ロワイヨムでは貴族と関わらないようにしようと思っていたのに、早速関わってしまった。兎に角失礼がないよう、注意して対応するしかない。


 幸い、見た感じではとても人当たりが良く、雰囲気の良い人だ。ソルダとスティードを足して2で割った感じで、何となく親しみやすい。


『あぁ、すまない。名も名乗らず失礼した。私はヨム・ディレクシオン・カードル。ここロワイヨムの王国騎士団、団長を務めている』


『あ、初めまし……お、王国騎士団、団長……!?』


 俺は名乗り返す前に、驚愕の声を上げてしまう。


 ―― お、俺……翻訳間違えてないよな……? 王国、騎士団、団長……


 俺はエネルギーの足りていない脳みそを必死に働かせ、自身の翻訳を確認する。単語の意味は間違えていないはずだ。


 ―― つ、つまり、ファーレスも騎士団の団員ってことか……


 何故魔力の弱いファーレスが入れたのかは分からないが、同じ鎧を身につけているということは、ファーレスも騎士団の団員なのだろう。

 そこまで考えたところで、挨拶の途中だったことを思い出し、必死に頭を下げる。


『し、失礼致しました……! 俺、あ、いや、私は渡永久と申します』


『はは、そう固くならないでくれ。見ての通り、私は剣を振ることしか能のない男だ。礼儀作法は苦手でな』


 カードルさんは俺の失礼な態度を笑って流してくれる。


『それにしても……兵士から聞いた通り、本当に面白い……あ、いや珍しい組み合わせだな。良ければファーレスのことも含め、色々と話を聞かせて欲しい』


『えっ……』


 良くない。全く良くない。

 尋問される相手が兵士から、王国騎士団の団長になってしまった。


 救いを求めるようにファーレスの方をそっと見る。ファーレスは相変わらず俯き、負のオーラを発していた。本当に頼りにならない。こんなにも頼りにならない奴が王国騎士団で大丈夫なのか、ロワイヨム……。


 ―― カードルさんいい人そうだし……ファーレスの知り合いなら……だ、大丈夫だよな……?


 カードルさんはこれまでの貴族と違い、きちんと説明すれば話を聞いてくれそうな空気を感じる。魔力の弱いファーレスを差別している様子もないし、魔力のない俺に対しても見下した様子はない。

 どちらにしろ、ここで断るという選択肢はないに等しい。覚悟を決め、俺は震える声で頷く。



『は、はい……よろしく、お願いします……』




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