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日々読んで下さりありがとうございます。感想やFA、レビュー、ブクマ、評価、本当に励みになっております!第5章スタートです。
『ロワイヨム、とうちゃーく……!』
『わー……』
『きゅー……』
俺が弱々しく声を上げる。フィーユともちも喜びの声を上げるが、声に力がない。ファーレスは俯いたまま荷台に座り込んでいる。
皆もう空腹が限界なのだ。
森を出て10日……森で必死に採取した食料は3日程で底をつき、残り7日間は水や塩で飢えをしのいだ。
『わたし……あの時ほど、魔物に襲いに来て欲しいって思ったことないよ……』
フィーユが遠い目で振り返る。
森を出てすぐロワイヨムの魔力圏内に入ってしまい、魔物が一切出て来なかった。そのせいで魔物肉を確保することも出来なかったのだ。
『いや……魔物肉は色んな意味で危ないし……魔物、出なくて良かったよ……』
『そっか……そうだよね……』
『早くロワイヨム入って……まずは皆で飯を食おう……』
俺は腹を鳴らしながら、ロワイヨムの通行許可証を取り出す。馬車を門に横付けし、ふらふらと門にいる兵士の所へ向かい、ナーエに入った時と同様に許可証を差し出す。
『あの……ナーエから来ました。ギルドマスターから通行許可証と商売許可証も貰っています』
『……確認致します』
兵士が許可証に魔石のようなものをかざすと、許可証が淡く光る。
『許可証は問題ありません』
『ありがとうございます』
確認が終わり、これでロワイヨムに……飯屋に入れる! と思い馬車に戻ろうとすると、『お待ち下さい』と兵士に引き止められる。
『……へ?』
ナーエの時にはなかった状況に、俺はポカンと兵士の顔を見る。
『失礼ですが、あなた方は何故ロワイヨムへ?』
兵士数人がさり気なく俺と馬車を囲み、質問を投げ掛けてくる。兜で顔は見えないのだが、妙に敵対的な雰囲気というか、警戒されている空気を感じる。
見たところロワイヨムは、ノイやナーエよりもかなり大きな街なので、警備がしっかりしているのかもしれない。
『商売と……観光のためですね』
俺は特に問題ないだろうと、素直にロワイヨムへ来た目的を答える。
『商売と観光……』
俺の回答を聞き、数人の兵士が集まって何か話をし始める。何やら揉めている様子だ。
―― 何だ……?
何か俺の答えが不味かったのだろうかと、心配になる。
『……い……なんて……嘘に……ろう!』
『……が、た……に許可証が……』
『……の魔力は……説明……!』
聞き耳を立てていると、所々不穏な単語が聞こえる。
―― 嘘、許可証、魔力、説明……?
『あ、あの……許可証に、何か不備でもあったんでしょうか……?』
俺が恐る恐る問い掛けると、兵士はこちらを向き、硬い声で告げる。
『許可証は両方問題ありません。ただ……』
少し口籠った後、兵士が言葉を続ける。
『……単刀直入にお聞きします。あなた方の中に、貴族級の魔力を持つ方がいますね? その様な方が、何故魔力の弱い貴方と?』
『あ……』
『加えて貴方が持ってきた通行許可証は、ギルトで発行される平民用の物です。平民であの魔力量は有り得ません。このようなことはこれまで前例がなく……こちらとしても通行を許可して良いか、判断がつきかねています』
兵士の言葉を聞き、俺は頭を抱える。兵士が言っているのは、十中八九フィーユのことだろう。
何故フィーユと旅をすることになったのか……正直に話した場合、こうだ。
『ナーエで魔力暴走を起こし、牢屋に閉じ込められていた貴族の子供を、勝手に連れ出して一緒に旅しています』
魔力暴走、脱獄、誘拐……犯罪ワードのオンパレードだ。 こんな理由を語り『なるほど、分かりました。通行を許可します』なんて言う兵士はいないだろう。
とにかく誤魔化すしかないなと思い、しどろもどろになりながら、俺は必死に嘘を吐く。
『あー……えっと、貴族級の魔力を持つ子は、その、知り合いの……子で、その、仲良くなって……ちょっと一緒に観光に行こうかー……みたいな?』
『貴族が……? 娘を平民に預ける……?』
俺が言葉を重ねるたびに不信感が募っていくのか、周りを囲む兵士達の警戒レベルが上がっていっている気がする。
『やはり怪しいのではないか……!?』
『誘拐では……!?』
ざわざわと兵士達が声を上げる。非常に嫌な空気だ。
『一度きちんと調査した方がいいのでは?』
兵士の1人がそう言うと、他の兵士達も『そうだ。問題が起きてからでは遅い』と同意し始める。
『ちょ、ちょっと待って下さい!』
俺が慌てて声を上げるが、兵士の1人が『きちんと調べ、問題がなければ解放されますので』と言って俺の腕を掴む。
しかし思い返してみれば、俺はノイでも貴族と問題を起こしているし、ナーエでも貴族と問題を起こしている。きちんと調べられると問題しかない。
必死に『いや……』『あの……』と言い訳を考えながら抵抗していると、兵士達の不信感を益々煽ってしまったのか、どんどん対応が厳しくなっていく。
『馬車の中にいる者も捕らえろ! 貴族の可能性が高い。丁重にな!』
別の兵士が馬車の方へ行き、荷台の扉を叩く。あとはもう、フィーユが俺に話を合わせて、上手く誤魔化してくれることを祈るしかない。兵士のノックに応えるかのように、荷台の扉が開き、ゆっくりとファーレスが出てくる。
そういえば理由は分からないが、ファーレスも牢屋に囚われてた人物だ。
行く先々の街で貴族と問題を起こしている俺、何か問題を起こし囚われていたファーレス、そして魔力暴走事故を起こしたフィーユ、更に魔物のもち。
冷静に考えてみれば、俺のパーティーは問題児の集まりな気がする。問題がないのはエクウスくらいだ。
―― ファ、ファーレス……あいつも色々調べられたら不味いんじゃないのか……? 大丈夫なのか……?
不安げにファーレスの方を窺うが、ファーレスはお腹が空いて力が出ないのか、俯いて負のオーラを発している。
『……ん?』
ふと、ファーレスの顔を覗き込んだ兵士が、目を見開く。
『ファ、ファーレス様!? ファーレス様ではございませんか!?』
異世界生活510日目、驚愕の声を上げる兵士よりも、俺の方が驚愕の声を上げたかった。ファーレス『様』ってどういうことだ……!?




