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平凡サラリーマンの絶対帰還行動録  作者: JIRO
第4章【ベスティアの森編】
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日々読んで下さりありがとうございます。感想やFA、レビュー、ブクマ、評価、本当に励みになっております!

 

 翌朝。


 結局夜中ずっと入り口を警戒していたが、魔物は現れなかった。付近にいた襲い掛かってくる魔物……狼のような魔物は、昨日の戦いで全て倒し尽くしたのかもしれない。


 ―― 生態系のバランスとか……責任取れないけど大丈夫かな……?


 野生動物を勝手に何十匹も殺すなんて、日本だったら大問題だ。まぁ、やってしまったものはどうしようもない。自分達が生き残ることに必死だったのだ。


 フィーユが目覚め、近くに魔物がいないことを確認してもらう。


『じゃあフィーユ。俺も休むから、もし魔物が近くに来たら遠慮なく叩き起こしてくれ』


『分かった! おやすみなさい、トワ』


『うん、おやすみ』



 ……



 夢を見た。

 嫌な夢だ。


 真っ暗な空間で、フィーユが魔物に襲われていた。

 俺はとにかくフィーユを助けようと、必死に銃で魔物を倒した。


 何匹も何匹も、撃って撃って撃ちまくって、次々と魔物が倒れていく。


 やっと魔物がいなくなり、俺がフィーユに近付こうとすると、今度はノイで出会った嫌な貴族がフィーユに襲い掛かろうとする。


 俺が必死に嫌な貴族をフィーユから引き剥がそうとしていると、今度はナーエの警備兵達が現れ、またフィーユに襲い掛かろうとする。



 ―― トワ、助けてっ!



 フィーユの悲鳴が響く。



 ―― フィーユを放せっ!



 俺はそう叫び、右手に銃を構え――



 ……



 ―― PiPiPiPi、PiPiPiPi、PiPiPiPi……



 耳元で鳴る電子音に釣られ、意識が浮上する。設定しておいたスマートフォンのアラームが鳴ったようだ。


『ん……』


『あ、おはよう、トワ!』


『おはよう、フィーユ……』


 フィーユに挨拶を返しながら、身体を伸ばす。

 異世界に来た当初は山の中で寝る日々が続き、地面で寝ることには慣れたと思っていたが、数ヶ月間良い暮らしをしてしまったせいで、また体が贅沢を覚えたらしい。疲れは取れたが、至る所が凝り固まっている。


『魔物は来なかった?』


『うん!』


『そっか、良かった』


 俺が寝ている間も、やはり狼のような魔物は来なかったらしい。

 他の魔物も縄張りの範囲外なのか、はたまたこちらに気付いていないのか、特に近付くものはいなかったようだ。


『トワ、今日はあんまり魘されてなかったね。怖い夢、見なくなった?』


 フィーユが笑顔で俺に問いかける。


『んー……怖い夢は見なかった、かな? ただ嫌な夢は……見たかな……』


『そっかぁー……うーん、どっちもやだね……』


 心配そうに俺の顔を覗き込んでいたフィーユから「ぐぅ……」と小さな音がする。その瞬間、フィーユは顔を真っ赤にしてお腹を抑える。


『ちっ、違うの! 今のは……その、お腹の音じゃないの! えっと、あの、せ、咳、みたいな!』


『……朝ごはん、食べようか』


 俺の言葉に、フィーユが静かに頷く。

 俺は昨日、魔物肉や採取した果実類が食べて問題ないか検査するために食料を口にしていたが、フィーユは水オンリーになってしまったのだ。


 昨日食料を口にした後、お腹を壊したり、身体に違和感が出たりしていない。本当はもう少し時間をかけて調べたかったが、恐らく昨日食べた魔物肉と果物は、食べて問題ないと判断してよいだろう。


『一応量は少なめに……これで問題なかったら、夜は沢山食べよう』


 そう言って、俺は燻製にした魔物肉や、皮を剥いた果物をフィーユに差し出す。フィーユはお礼を言って受け取った後、『いただきます!』と元気よく食べ始める。しかし、咀嚼し始めて数秒後、フィーユの笑顔が消える。


『……このお肉、固いし味も美味しくない……』


 何の味付けもしていない、しかも固い燻製肉だ。フィーユは一口食べた後、がっかりしたように肩を落とし、黙々と咀嚼する。


『……あ、果物はちょっと酸っぱいけど美味しい!』


 果物は期待値が下がっていたのか、一般的に店で売られているような甘い果物ではないが、満足そうにもぐもぐと食べていた。


『……早く馬車、戻りたいね……』


『……そうだな』


 フィーユの言葉に、俺も固い燻製肉を噛みながら同意する。やっぱりせめて、塩が欲しい。



 ……



『トワ、トワ、早くっ!』


 フィーユが坂道をとことこ走っていく。土砂を避け、迂回する形にはなったが、すこしなだらかな斜面を見つけ、無事俺達は山を登っていた。


『ファーレス達、昨日から動いてないみたい。よかった!』


 俺達が休んでいる間にファーレス達が動いてしまわないか心配だったが、昨日の声が届いていたのかいないのか、ファーレス達は昨日と同じ場所にいるらしい。フィーユと共に斜面を登りながら、俺は少し安堵する。


 フィーユの魔力感知によると、もうかなり近いそうなので、日が暮れるまでには馬車に着けそうだ。昨日のように魔物に襲われることもなく、順調に距離を稼いでいく。






『あ、馬車見えた! 馬車見えたよ、トワ!』


 それから休憩を挟みながら歩いていると、フィーユの明るい声が聞こえ、俺の視界にも馬車が見えてきた。


『おぉーい! ファーレス、もち、エクウスー! 聞こえるか―!?』


『ファーレスぅー! もちぃー! エクウスぅー! 』


 俺とフィーユは大きく手を振りながら、馬車の方に駆け寄る。

 俺達の声が聞こえたのか荷台の扉が開き、干し肉をかじるもちを頭に乗せ、同じく干し肉を噛んだファーレスが馬車の中から姿を見せる。


『って、おい!? その干し肉、残り少ないから節約して食うぞって言ったよな!?』


『……さぁな』


 駆け寄った俺が目ざとく干し肉の存在に気付き、ファーレスを問い詰めれば、無表情のままファーレスがしれっととぼける。


『もちっ! お前にも、勝手に盗み食いするなよって注意したよな!?』


『……きゅ?』


 もちが干し肉をかじりながら目を逸らし、ファーレスと同様にとぼけたような声を上げる。


『ず、ずるいっ! 私達は固いお肉だったのに!』


 フィーユが頬を膨らまし、ファーレスをぽかぽかと叩く。ファーレスはそっと干し肉を取り出し、フィーユに渡す。


『あ、ありがとう……』


『……あぁ』


 ファーレスから干し肉を受け取ったフィーユが、『食べていい?』と伺うように俺を見る。


『……フィーユ、俺達はもっと美味しく食べよう』


『もっと美味しく?』




 異世界生活495日目、干し肉をそのままかじるファーレスともちを尻目に、俺とフィーユは馬車に積んだ食材をたっぷり使い、デザートを果物オンリーに変更した永久スペシャルディナーを堪能した。







なんと!すずみ様より永久&もちのイラストを頂きました!

本当にありがとうございます!!\(´ω`)/嬉し過ぎます!!


折角なので、この機会に「絶対帰還行動録」に関連するイラストをまとめました。


■絶対帰還行動録【イラスト集】

https://ncode.syosetu.com/n4742ep/


「頂き物」に今回頂いたイラストを含め、これまで頂いたイラストをまとめさせて頂きました!

是非こちらのページも見て頂ければ幸いです!(*´ω`)


本当に素敵なイラスト、ありがとうございましたっ!!!


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