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平凡サラリーマンの絶対帰還行動録  作者: JIRO
第1章【遭難編】
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009【107日目】ペール夫妻の魔法講座

引き続き、異世界の説明が多めの回になります。

あとがき部分に説明した内容をざっくりとまとめております。

 

 俺はタブレットのお絵かきアプリを立ち上げ、山の絵とその近くに棒人間を描く。続けて山から道を描き、道の途中に棒人間を3人と馬車を描く。


 山の近くの棒人間を指差した後に自分を指差し、馬車付近の棒人間を指差した後にペール達を指差す。


 ペール達は絵の意味を理解してくれたようで、何度か首を縦に振り、続きを促してくれる。


 ここからはひたすら絵や身振り手振りで、俺が山を降りてきたこと、遠い場所から来たことを伝える。

 うまく伝わっているか不安だが、とにかく遠い場所から来たことは伝わったようだ。


 スマートフォンに残っていた元の世界の写真も何枚か見せ、俺が日本出身だということも説明した。


 ちなみに日本を含め、様々な国の名前を上げてみたが、全て知らないと首を振られてしまった。写真の景色にも見覚えがないようだ。まぁ、これは仕方ないだろう。



 ……



 地名の話をしたからか、ペールが布の地図をとりだし辺りの地名を教えてくれる。地図は手描きで、かなり狭い範囲しか記載されていないようだった。


 俺がいた森は『ディユ』、ペール達の街は『ノイ』、隣街は『ナーエ』というらしい。


 ペール夫妻はノイの街とナーエの街を行き来する商人のようで、馬車に積んである積荷は商品らしい。今はノイの街へ帰る途中だったそうだ。



 ……



 話が一区切りついたところで、ペール達は助けてくれたお礼として、俺に角……お金を渡してくれようとした。


 しかし俺からしてみれば、盗賊を倒したのはスティードで、俺は殆ど役に立っていない。何とか身振り手振りで必死に辞退する。


 するとペール達は、俺の持つ少しの食料と引き換えに、お金を渡してくれた。その金額はペール達が教えてくれた物の価値よりかなり多かったので、きっと色を付けてくれたのだろう。



『あ、あの……ありがとう……』



 ペール達の優しさに泣きそうだ。正直、こちらの世界ではほぼ一文なしの俺には、とてもありがたい。だいふく達がくれたお金は、あまり人前で出さない方がいいようだし、この先何があるか分からないので、いざという時に備えて隠し持っておきたい。


 帰る方法を探すにしても、生活するにしても、お金は必須だ。街についたらまず、お金を稼がないとな……と考え、溜息を吐く。


 情報収集にも、お金を稼ぐにも、言葉が通じなくては話にならない。いや、本当に物理的に話にならない。こんなに優しく言葉を教えて貰えるのはこれが最後かもしれないので、俺は必死にペール達に言葉を教えてもらった。



 ……



 言葉だけでなく、文字も教わった。


 タブレットのお絵かきアプリで、互いに文字や数字を書き、物の数え方の認識を合わせていく。


 まずは数字。

 これは幸いなことに十進法だった。やはり指の数が一緒だからだろうか?

 ローマ数字に近い表記で表されるようだ。数字の読み方も併せて教えて貰う。


 次に文字。

 最初に俺がタブレットに平仮名の50音を書き、「わ、た、り、と、わ」と声に出しながら文字を指差す。2人の名前も声に出しながら、対応する文字を指差す。


 2人は納得した様子で頷き、同じように50個ほどの記号……恐らくこちらの世界の文字を書いてくれた。


 そして俺を真似て、名前を声に出しながら、文字を指差してくれる。どうやら平仮名のように、1音1文字が割り当てられているようだ。


 1文字ずつ読み上げて貰いながら、俺は文字の横に平仮名でルビを振っていく。全て振り終わった所でスクリーンショットを撮り、画像として保存する。


 数は少ないので、覚えるのは簡単そうだ。言葉さえ分かるようになれば、対応する文字も読めるようになるだろう。



 ……



 言葉や文字を教えて貰っていたら、日が暮れて辺りが暗くなってきた。今日はここで野宿をするようだ。馬車を止め外に出て、食事の準備が始まった。そしてその時、俺は驚愕の事実を目の当たりにする。

 なんと、メールが何もないところから火を出したのだ。



「ま、魔法!?」



 俺が思わず声を上げると、その様子にメールも驚く。


 身振り手振りで俺は火が出せないことを伝えると、メール以外のペールやスティードも驚いた表情でこちらを見ている。


 どうやらこの世界で魔法は、誰にでも使える物のようだ。


 ただ、魔法の強さには個人差があるようで、3人が同じ火を出す魔法を使って見せてくれたところ、スティードの火が最も勢いが強く、大きかった。



『すごい! すごい!』



 俺は興奮して、今日覚えた現地語の『すごい』を何度も叫ぶ。


 ペールは何かに気付いた顔をした後、お金……小さな角を手に握った状態で再び火を出す。


 すると今度はペールの出した火が、先ほどよりも激しさを増し大きくなった。更に今度は角を2つ持って再び火を出す。火は更に激しさを増し、大きくなる。


 どうやらお金代わりだと思っていた角は、魔法の燃料のようだ。これだとお金というより、魔石の方が俺の中のイメージに合う。


 その後、ペールは生み出した火をランプのようなものに移し、火の中に魔石も一緒に入れてみせた。すると、ランプの火は消えずにずっと燃え続けていた。


 その火を3人が触れてみせる。


 ペールとメールは熱さを感じていない様子だったが、スティードが火に触れると、その部分が少し火傷になり熱そうな様子だった。


 俺の理解が正しいなら、魔法で火を生み出した人と、その血縁者? は火に触れても平気だということだろう。


 ペールが火の中から魔石を取り出すと、火は消えてしまった。


 見せてもらったことを整理すると、魔石はやはり魔法の燃料で間違いないだろう。


 魔石の中に含まれる魔力量で、価値が変わるのだと思われる。多分通貨の価値を教えて貰った時の様子からして、紫色が濃ければ濃いほど魔力が沢山含まれているようだ。


 ―― と、言うことは。もしかして魔石があれば、俺も魔法使えるんじゃないか?


 やはりオタクとして魔法は憧れだ。俺はワクワクした表情で「火を出したい」と身振り手振りで訴える。ペール達は笑いながら、頭と火を交互に指差し「イメージしろ」のようなジェスチャーを繰り返す。



「うおおぉぉおぉおぉッ!!」



 俺はイメージした。燃え盛る炎を、持ちうる全ての想像力を使い、イメージした。



 しかし、俺の手から火が出ることはなかった。



 俺の叫び声だけがこだまし、その場に気まずい空気が流れる。思わず縋るような表情でペール達を見れば、ペール達はそっと俺から目をそらす。


 その後も30分程、ペールやスティードが火の出し方を教えてくれたが、俺の手から火が出ることはなかった。


「畜生ッ! ぬか喜びかよッ!」


 その際気付いたのだが、どうやらペール達は体内に魔力があるようだ。その魔力を使って火を出し、魔石はあくまで補助燃料のように使用するようだ。


 多分俺の体には魔力がないから魔法が使えないのだろう。落ち込む俺に対し、ペール達は励ますように肩を叩いてくれた。


 もう一つ気付いたのは、恐らくだが魔力を持つ人が魔石を持つと、魔力保有量が分かるのだと思う。俺には見た目、感触共に同じに感じる魔石も、ペール達にはどちらが価値が高いか分かるようだ。


 ちなみに俺が魔法の練習をしている間に、メールはこっそり食事の用意をしてくれていた。俺は魔法に夢中になっていて全く気付かず、本当に申し訳なかった。



 ……



 メールが「食事の準備が出来たわよ」と声をかけたのか、ペールもスティードも魔法を教えるのを止め、俺を引っ張ってメールの元へ向かう。用意してくれた食事は、茹でたじゃが芋のような野菜と、焼いた肉というシンプルな物だった。


 メールが「召し上がれ」と声をかけたようで、皆が一斉に食べ始める。俺も『ありがとう』と覚えたばかりの現地語でお礼を言い、食べ始めた。



 食事中、言葉は殆ど分からないが、皆が俺を気遣ってくれているのは分かった。


 メールは何度も俺におかわりをよそい、ペールやスティードは俺に色々と声をかけてくれた。雰囲気的に「美味いか?」「もっと食えよ」と言ってくれているようだった。


 もちは皆から果物を貰い、嬉しそうに飛び跳ねていた。皆そんなもちを『かわいい、かわいい』と言いながら撫でていた。



 ワイワイと賑やかな時間が過ぎていく。



 俺はふと、森の中で1人孤独に食べた食事を思い出す。


 何日も、何日も、何日も何日も何日も何日も……誰の話し声もしない静かな空間で、ただただ機械的に食べ物を口に運んでいた。途中からは、何の味も感じなかった。



「…………美味しい」



 メールが用意してくれた食事は、塩のみのシンプルな味付けだった。しかし、こんなに美味しいと感じた食事は初めてだった。



 ……



 夕飯をご馳走になった後は、メールがくれたミントの葉のような物を噛み、口をゆすいだ。歯磨きの代わりのようだ。因みに森の中では木の枝を歯ブラシ代わりにしたり、髪の毛を歯間ブラシ代わりにしていた。


 ―― 原始人の生活かな?


 歯を磨き終わったあとは、濡らした布で体を拭き、メールが貸してくれた柔らかな布に(くる)まり、横になる。スティードが不寝番をしてくれるようだ。




 異世界生活107日目、俺は暖かな布に(つつ)まれ、穏やかな眠りについた。




■地名について

・主人公がいた森 = ディユ

・ペール達の街は = ノイ

・隣街は = ナーエ


■数字について

・元の世界と同じく十進法。ローマ数字に近い表記で表される。


■文字について

・平仮名のように一音一文字が割り当てられている。


■魔法について

・魔法は基本的に誰でも使えるもの(※主人公は使えない)

・魔法の強さは個人差がある(スティード>ペール>メール)

・体内に魔力があり、その魔力で魔法を使用する。

・魔法で生み出した火は、本人(とその血縁者?)は触れても熱くない。


■魔石について

・お金 = 角 = 魔石

・魔石に含まれる魔力を、魔法の補助燃料のように使用可能。

・お金の価値 = 魔石に含まれる魔力量。

・魔力を持つ人には魔石の魔力保有量が分かる。

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