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フィーユも覚悟を決めて頷いてくれたので、俺は安心させるようにフィーユの頭を撫で、タイミングを見計らい『頼むっ!』と声を掛ける。
俺の掛け声に合わせ、フィーユが防御壁に小さく穴を開ける。
俺は穴から銃身を出し、周りにいる狼のような魔物に向けて牽制するように、とにかく撃ちまくる。案の定、狼のような魔物は魔力弾を避け、警戒するように距離を取る。
『フィーユ、今だっ!』
『うんっ!』
防御壁の穴が大きくなる。
俺はその穴に飛び込むようにして防御壁の外に出ると、一目散に距離を開ける。
魔物達が飛び出した俺に気付き追おうとするが、1匹が大きく鳴き声を上げる。すると俺を追ってこようとしていた魔物達が、再びフィーユの方に戻っていく。
―― やっぱりな、予想通りだ。
恐らく魔物にとって俺は、魔力が一切なく、警戒に値しない生き物なのだ。あの鳴き声は、群れのリーダー格による「そんな雑魚は放っておけ」といった鳴き声だったのだろう。
狼のような魔物は、魔力の強いフィーユから逃げることをせず、逆に襲い掛かって来た。俺はその行動から、あの魔物が強い生き物にこそ勝負を挑む性質だと予想したのだ。
だからこそ、魔力がない俺は狙われないはずだと踏んだ。
フィーユを囮にするようで申し訳ないが、フィーユを狙う魔物達を、俺が後ろから狙撃する。俺の思いついた中で、最も生存率の高い方法がこれだ。
魔物が俺を追わないかどうか、もし追われた時に返り討ちに出来るかどうかは、正直賭けだったが、俺は賭けに勝った。
―― フィーユ、もう少しだけ耐えてくれ!
俺はある程度距離を取った後、心を落ち着かせてスコープを覗き込む。
―― 狙いを定め、引き金を引く。
鋭い銃声が響き、狙った魔物が倒れる。
―― 次ッ!
再度引き金を引く。
―― 次ッ!
恐怖も忘れ、スコープから目を離さず、何度も何度も狙いを変えて引き金を引く。ここで俺が躊躇えば、フィーユが死んでしまう。
―― 次ッ!
恐ろしい程の集中力で、俺は魔物の頭を撃ちぬいていく。
それほど距離が離れていない上、使用しているのは魔石銃だ。魔石弾は通常の弾と違い、放物線を描かずほぼ直線に飛んでいく。
―― 恐怖さえなければ、本当は当てるのなんて容易いんだ。
俺の対魔物に対する命中率の低さは、恐怖のせいで引き金を引く直前、無意識に狙いを逸らしてしまうせいだ。手が震えているせいもあるだろう。
―― 今は恐怖なんかいらない。生き残るために、俺は最善を尽くす……!
自身の覚悟が恐怖を上回ったのか、手が震えない。
―― あぁ、そうだ。俺はもう、何度も何度もこの魔物を殺してきた。今更恐怖なんて、するはずがないっ!
無意識に狙いを逸らしていたのは、手が震えていたのは、恐怖しなくなった自分を認めたくなかったからだ。自分が生き物を殺すことに慣れたなんて、認めたくなかったからだ。
―― 認めなきゃいけない。認めないなんて、許されるはずがない。俺はもう、自分の意志で何度も生き物の命を奪っているのだから。
……
数十発もの魔石弾を撃ち、視界にいた魔物を全匹仕留めた。
前方の強い敵……フィーユを警戒していた魔物は、突然無警戒の背後から狙われ、混乱しているようだった。その混乱に乗じて、俺は撃って撃って撃ちまくった。
魔物達はその攻撃もフィーユが行っているかと勘違いしたのか、フィーユを警戒して距離を取る。フィーユの方を睨み、唸り声を上げる魔物達は、停止していていい的だった。
―― 魔物だからこの戦略でいけたけど、対人戦は無理だな……。
俺は冷静にこの戦闘を振り返る。
単純な思考の魔物だから、魔力を持たない俺に一切興味を向けなかった。そんな魔物相手だったからこんな無茶な戦略をとれたが、これが人間相手だったらまず真っ先に俺が警戒されるだろう。
―― この世界にはいない、ステルス機能持ち、みたいなもんだもんな……。
いつだったかアルマが、多かれ少なかれこの世界の人は、皆魔力を持っていると言っていた。お前みたいに魔力を一切感じない奴は初めてだと、そんな奴もいるんだなーと、最初はちょっと驚いたぜと笑っていた。
その後、気遣うように『魔力は少しずつ体内に取り込まれていくもんだ。いつかきっと魔法も使えるようになるさ』と励まされた。
今のところ、魔力が体内に取り込まれている感覚はないし、魔力感知も出来ない。魔法も使えないままだ。
―― 中途半端に魔力を持つより、一切魔力を持たなくてよかったのかもしれない……。
俺が魔力を持たないことに触れたのは、アルマだけだ。他の人は魔力が弱いので、感知出来なかったのかもしれない。
―― いや、気を使ってくれてたのかもな……
色んな人達の言葉の端々から、この世界は「魔力至上主義」という空気を感じた。まぁ当たり前と言えば当たり前だろう。この世界の魔力は、魔法は勿論、力にも、寿命にも、エネルギーにも、全てに関わってくる。
―― 魔力を持たないなんて、同情や蔑みの対象なのかもな……。
それにしても、魔物との戦闘を終え、すぐに「対人戦だったら」と考えてしまった自分に嫌気がさす。
「……平和に暮らしたいんだよ、俺は。平和な世界に帰りたいんだよ……」
溜息を吐いてしゃがみ込む。
「今度は絶対貴族に狙われないように、街の人にも敵対されないように気を付けよ……」
ノイとナーエでの失敗を、次に生かそうと心に決める。
『トワッ! 魔物、もういないよっ!』
フィーユの明るい声が聞こえる。俺はフィーユの元へ戻り『よく頑張ったな』と再び頭を撫でる。
『トワ……すごい! 私、トワがいなくて、置いてかれちゃったのかなって怖くて……でも、トワを信じて、ずっと目を瞑って防御壁を出してたの……! そしたら周りの魔物の反応が、どんどんなくなってくんだもん……! ビックリしちゃった!』
興奮したように、フィーユが俺に抱きつく。
そういえば、フィーユに色々と注意するのを忘れていた。もしフィーユが目を開けていたら、そりゃあトラウマ物の光景が目に入っただろう。フィーユが目を瞑ってくれていて良かった。
『フィーユのお陰だよ。フィーユが無事で、本当によかった……』
俺もフィーユを抱きしめ、人の温もりに心が落ち着く。
『トワ……守ってくれて、ありがとう』
『……うん』
フィーユの一言に、俺の心は救われた気がした。