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平凡サラリーマンの絶対帰還行動録  作者: JIRO
第3章【ナーエ編】
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【番外編】トワからの手紙(SIDE:ティミド)

日々読んで下さりありがとうございます。


リクエスト頂いた『トワの手紙を受け取った話』です!

誰視点にしようか迷いましたが、『ティミド視点』になりました。


お楽しみ頂ければ幸いです(*´ω`)

リクエストありがとうございました!

 

『はーい、本日のパンはここで売り切れー、売り切れでーす! また次の販売日に来て下さーい!』


『……お疲れさま、フレド。……今日もパン、いっぱい売れたね……』


『ティミドもお疲れ! 手伝ってくれてありがとな』


 お客様の相手をしながら、フレドが私に笑いかける。私はその眩しい笑顔に、少し照れながら精一杯の笑みを返す。



 ……



 私の名前はティミド、ノイ・マスル・ティミド。

 今笑いかけてくれたフレドと……一応、お付き合いをしています。


 少し前までは、フレドとお付き合いするどころか、まともにお話しすることも出来ませんでした。フレドや街の皆と沢山お話し出来るようになったのは、本当に最近。トワのおかげです。


 私はいつも、パンを食べたり、リバーシをしたりすると、トワのことを思い出します。パンも、リバーシも、トワが残していってくれたものだから。


 トワは何だか不思議な人でした。


 フレドが皆の中心で明るく輝く人なら、私はそこに入れない真っ暗な影。仲間に入りたいけど、いつも輪に入れず、皆の周りに1人でぽつんと取り残されているのが私。


 トワは……そのどちらでもない感じ。


 皆の中心で光り輝く人でもないけど、決して輪に入れず暗くじめじめしてる私みたいな人でもない。そう、例えるなら中間くらいにいる感じ。


 そんなトワだから、私とフレドの間に入って、私達を結び付けてくれたのかもしれません。


 トワがノイに来る前、私はずっとひとりでした。

 ううん、本当はひとりじゃないんだけど、私に勇気がなくて、ずっとひとりだと思い込んでました。


 フレドや皆が話しかけてくれても、話したいのに何を話したらいいのか分からなくて。頭が真っ白になって、逃げてしまって。そんな自分が嫌で、だから話しかけられるのも嫌で、ずっとこそこそ遠くから、皆のことを見つめてました。


 そんな時、トワがノイにやってきました。ノイに来たばかりの頃、トワは全然言葉を知らなかったみたい。今じゃあんなにペラペラなのに、なんだか不思議。


 フレドがトワに沢山話しかけて、トワも皆の輪に入ったけど、トワはよく私のところに話しかけに来てくれました。トワ曰く、皆との会話は早くて疲れちゃうんだって。


 トワはよく『ティミドと話すのは落ち着く。ありがとう』と言ってくれました。私はそんなことを言われたのは初めてで、凄く嬉しかったのを覚えています。


 私も不思議と、トワと話す時は落ち着いて喋れました。多分私がゆっくり喋った方が、トワには聞き取りやすいから、私も安心してゆっくり喋れたのかも。


 最初の頃の私とトワの会話は、他の人が聞いたらそれはもう、頭を抱えるものだったと思います。


『ティミド、ハレ、いいね』


『……ハレ?』


『……えーっと、ソラ、ハレ!』


『……本当だ。……天気、いいね……』


『うん。天気、いいね』


 もうずっとこんな感じでした。

 でもちょっとずつちょっとずつ、トワに言葉を教えたりしながら、ゆっくりゆっくりお話し出来るのが楽しかったです。こんな私でも、トワのお話相手になれるんだ、トワに言葉を教えてあげられるんだ、誰かの役に立てるんだって毎日喜んでました。


 それから段々と、私も人と話すことに緊張しなくなって、トワがリバーシを教えてくれて、トワに負けて、勝てなかったのが悔しくて、トワに勝つぞってお父さんとリバーシの練習をいっぱいして、トワともう一度戦ったらいつの間にか皆に囲まれて、突然沢山の人に話しかけられて、頭が真っ白になって……


 気付いたらフレドに抱きしめられてました。


 あの時は本当に本当にビックリしました。ずっと憧れだったフレドに、眩しい世界で皆の輪の中心にいるフレドに、突然抱きしめられているんだもん!


 必死にお礼を言って、フレドとお話して……正直、あの時何を話したのか全然思い出せません。私が皆の輪に入りたがってるって、フレドが気付いていたことに、凄く凄く驚いた気がします。



 ……



『ティミド―? パン、食べないのか?』


『……へ!? ……あ、食べる、食べるよ!』


 私がパンを握りしめたまま過去に思いを馳せていると、突然フレドが顔を覗き込んでくる。慌てて握ったままのパンを一口かじる。


『もしかして俺のこと考えてた?』


『……え!? えっと……そ、そうじゃなくて……! トワ、トワのこと……思い出してたの!』


 ニヤニヤと笑いながらフレドに対し、私は慌てて否定する。これまでの経験上、ここで肯定してしまうとフレドが恥ずかしいことを仕掛けてくるので、肯定するわけにはいかない。


『あー……ティミドもやっぱ、パンを食べるとトワのこと思い出す?』


『……うん』


 私の半分嘘で半分本当の答えを聞き、フレドは少し寂しそうに笑う。


『あいつ、元気かな……? 無事にナーエに辿りつけたのかねー……?』


『……きっと、大丈夫だよ』


 フレドは私に問いかけるでもなく、ぽつりと呟くように言いながら、空を見上げる。私は自分にも言い聞かせるように、『……トワなら、大丈夫』ともう一度フレドに告げた。


『そうだな……。あいつは貴族に捕まっても生きて帰って来るような、幸運な奴だもんな』


『……うん!』



 ……



 フレドとそんな話をした数日後。

 いつものように10日に1度のリバーシ大会が開かれた。


 私はくじ運が悪く、早々にお父さんと当たってしまい、一回戦で敗退した。やっぱりお父さんはまだまだ私よりずっと強い。


 フレドに慰められながら一緒に屋台を回っていると、大会の司会をしているペールの大きな声が聞こえてくる。


『第24回リバーシ大会、優勝者は――ソルダ、ノイ・ゲリエ・ソルダッ! おめでとう、ソルダ。とうとう念願が叶ったな!』


 どうやら大会の優勝者はソルダのようだ。

 ソルダはずっとお父さんのことをライバル視していて、いつか絶対に優勝してやると意気込んでいた。きっと今頃大喜びだろう。


『おー、とうとうソルダが勝ったのか! ティミド、優勝者インタビュー聞きに行こうぜ!』


『……うん!』


 フレドと共にソルダの立つステージへ急ぐ。ソルダは満面の笑みで堂々とステージの中央に立ち、集まった人達の顔を見渡している。


『もったいぶるなー、ソルダの奴!』


『はは、皆に優勝した喜びを伝えたいんだろう』


『よっ、マスター! 流石は執念の男ッ!』


 ステージに近付くと、まだソルダは話し出していなかったようで、周りから色々と野次を飛ばされていた。


『あー……ごほんっ! 皆、集まってるな?』


 ソルダはそう言いながらもう一度集まった人達の顔を見渡し、1枚の板を取り出す。


『今日、俺は絶対に優勝しようと心に決めていた。俺の元にこの板が届いたからだ。やはりこの板の内容を話すなら……特訓の成果を示したいからな!』


 ソルダが板を天に掲げながら、大声で喋る。


『何だ、あの板?』


『特訓の成果?』


 集まっていた人達もあの板に心当たりがないようで、不思議そうに板を見つめる。勿論私もフレドも何か分からず、互いに顔を見合わせる。


『ふっふっふ……! 皆、この板が気になるようだな……!』


 ソルダは上機嫌に笑いながら、そこで一度言葉を溜める。皆『何だ、何だ?』とざわつき始める。


『この板は先日、ナーエから届いた物だっ! そして板の表面には……トワからの言葉が刻まれているっ!!』


 ソルダの発言に、ざわついていた大会の会場が、水を打ったように静まり返る。


『……トワ!?』


『トワだって!?』


『ナーエからってことは……!』


『トワ、あいつやりやがった!』


『無事ナーエに辿り着いたんだッ!』


『うおおおおぉぉぉぉぉおぉぉぉ!!!』


 そして次の瞬間、皆が興奮したように大声で叫ぶ。


『ふ、フレド……! トワが……トワが……! 無事に……無事にナーエに着いたって……!』


『あぁ……! あぁ……っ!』


 私は思わず泣きそうになりながら、フレドにしがみつく。フレドも私を抱きしめながら、喜びが隠せないように力強く頷く。


 フレドに抱きしめられながら、ハッとペールとメールの方を見れば、2人とも喜びのあまり腰が抜けたのか、地面に座り込み、抱き合って泣き崩れていた。


『なんて……なんて書いてあったんだ!?』


 フレドが大声でソルダに問いかける。


『よし、読み上げるぞ! えー……「無事、ナーエに着きました。皆のおかげだ、本当にありがとう。ナーエでも商売を始めるつもりです。体に気をつけて。トワ」……以上だ!』


『そ、それだけか!?』


 ソルダの読み上げた内容に、皆驚きの声を上げる。


『おいおい、トワ! もっとあるだろう!?』


『あんなに心配かけておいて……!』


『まったく、あいつは!』


『トワったら……もう!』


 皆不満そうに『本当にそれだけなのか?』とソルダに詰め寄る。ソルダも困ったように『これだけだ。俺もミーレスの奴に確認したさ』と詰め寄って来た人達を宥めている。


『……皆、トワの言葉……物足りなかったみたい、だね』


『だろうよ。俺だって物足りねぇよ、あんなの!』


 私が苦笑しながらフレドに話しかければ、フレドも憮然とした表情で吐き捨てる。私もトワの言葉がもっと聞きたかった。




『……トワ、またあの板、送ってくれるかな?』


 私の問い掛けに対し、フレドが拳を握りしめながら答える。


『送らなかったら、次に会った時ボコボコにしてやるっ!』


『……そうだね』


 クスクス笑っていると、フレドも明るく笑いながらナーエがある方向を見つめる。


『今頃、ナーエで商売でもしてるのかねー?』


『……また、貴族に目をつけられたりして』


 私が冗談のつもりで笑いながら答えれば、フレドが少し固まり、呆れたように言う。


『……ティミドの冗談はいつも笑えないんだよなぁ……』


『……えぇー?』


 私はあんまり冗談なんて言わないのに、いつも笑えないなんてちょっと失礼だ。





 ―― 私達はまた、トワの手紙を待つのだろう。


 トワが残してくれたレシピの料理を食べたり、リバーシをしながら。










読んで頂きありがとうございました!

いつかどこかで書きたいなと思っていたティミド視点でした。笑


ほぼティミドの独白で、あんまり手紙に触れてないですね…すみません(;´Д`)


あと本当に本当に馬鹿やらかしたんですが、64話を投稿した時、永久が書いた手紙の内容本文に書いていたんですね。


でもその後、やっぱり書かない方がいいなと思い、手紙の内容を本文から消したんですね。


バックアップ取らずに←←←


案の定、最初に書いてた手紙の内容がどこにも残ってなくて、記憶を頼りに手紙の内容書きました…(えない)


『あれ? 永久が書いた手紙の内容変わってない?』と思った方がいたら申し訳ありません…!

気のせいということでお願い致します…!←


明日も番外編の更新になります。

リクエスト頂いた「悪役達の心の在り方」…ナーエの警備兵達の番外編になります!


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