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食事を終え、皆で後片付けをしながら、そっとフィーユの魔法について問いかけてみる。今馬車を止めている場所は、周囲に何もない平野なので、魔法を使ってもいいだろう。
『フィーユ、魔法で水を出したり出来る?』
『……うん』
『じゃあ俺達が巻き込まれないように、あっち側に向かってちょっと水の……球体みたいなものを出して貰ってもいい?』
『……うん』
俺は手でバスケットボールくらいの大きさを示しながら、フィーユに水を出すよう指示する。水を指定したのは、万が一魔法が暴走した時に、炎等よりも一番危険が少ないと思ったからだ。
『……んっ!』
可愛らしい掛け声と共に、フィーユが俺達のいない方向に向かい、手を伸ばす。そして俺の指示通り水で出来た球体を出現させる。
ただ、大きさが滅茶苦茶デカイ。大きすぎて全体が把握できない程だ。ざっくりとした目算だが、恐らく半径10メートル程の大きさがある気がする。
『す、ストップ! フィーユ、1回その水消そう!』
『……うん』
フィーユが俺の指示通り水を消す。まさかあんなに馬鹿でかい水の塊が出てくるとは思わず、滅茶苦茶焦ってしまった。
『いやー……フィーユ、すごいな……あんなに大きな水が出せるなんて……』
『……えへへ』
俺が呆然としつつ褒めると、フィーユは少し照れながら嬉しそうに表情を崩す。
『あんなに魔力使って体は辛くない?』
『……平気』
『あのくらいの水を1日に何回くらい出せる?』
『……一瞬なら、10回くらい。ずっとなら……もうちょっと少ない』
『凄いな……水じゃなくて炎や風、土も出せるの?』
『……うん!』
俺の質問に、フィーユが少し得意げに答える。魔力暴走が原因で牢屋に閉じ込められたなら、自分の魔力や魔法を嫌っているかと思ったのだが、魔法を褒めると思いの外反応がいい。
『フィーユは魔法が得意なんだね』
『……うん』
『いっぱい練習したの?』
『……うん』
フィーユが小さく頷いた後、珍しく沢山言葉を続ける。
『……お父様がね、魔法をうまく使えると、褒めてくれるの。……でも、失敗すると、すごく……怒るの。……だから、いっぱい練習したの』
『……そっか』
『……前に、すごく大きな失敗をしちゃって……私はいらない子になっちゃったけど……でも、もう失敗しないから! 私、頑張るから!』
フィーユは何度も俺に『本当だよ? 失敗しないよ?』と言葉を重ねる。その必死な姿が、俺にはとても痛々しかった。
『フィーユ、失敗してもいいんだよ。最初から全部成功する人なんていないんだよ。例えば俺の料理だって、焦がしちゃったり、味が変だったり、沢山失敗して、今みたいに美味しく作れるようになったんだよ。今だっていっぱい失敗するよ』
だからフィーユだっていっぱい失敗していいんだよと何度も言い聞かせる。
『……失敗しても、いいの?』
『いいよ!』
俺は強く強く断言する。何だって失敗を恐れて固くなればなるほど、上手くいかないし、楽しくないはずだ。フィーユにはもっとのびのびと魔法を使ってほしい。
『一緒にいっぱい失敗しながら、いっぱい練習しよう?』
『……うん』
小さく頷くフィーユの頭を撫でながら、魔力制御について考える。なんとなく、フィーユの父親は自己顕示欲が強そうなタイプに思える。
『フィーユは、大きな魔法をいっぱい練習したの?』
『……うん』
やはりそうだ。恐らく、フィーユの父親は魔力をめいっぱい使うような大きな魔法ばかり練習させたのだろう。
アルマやミーレス曰く、大きな魔法は体内の魔力をごっそり持っていかれるため、身体への負荷が大きいそうだ。また、大量の魔素変換を行う必要があるため、精神的な負荷も大きいらしい。
小さな魔法で慣れてから、大きな魔法を練習していくのが一般的な練習法だと言っていった。そもそも負荷のかかる大きな魔法は、子供に使わせないようにするのが常識らしい。
『フィーユ、小さな魔法は練習したことある?』
『……ない』
失敗して小さくなっちゃうことはあると、悲しそうに答える。
『小さくていいんだよ。小さな魔法、一緒に練習しよう?』
『……?』
フィーユは不思議そうに『……大きな魔法じゃなくて?』と俺に問いかけるので、俺は『小さな魔法!』ともう一度言い、理由を説明する。
『えーっと……俺の知り合いの、魔法が凄く上手な人がね、大きな魔法を上手く使うには、まず小さな魔法を上手く使える必要があるって言ってたんだ』
基礎は大事だよと言いながら『フィーユは大きな魔法があんなに上手いから、小さな魔法もすぐ上手くなるよ』と付け加える。
『……うん』
フィーユが小さく頷いてくれたので、俺は早速小さな魔法の練習に取り掛かることにした。
……
まずは水だ。精霊石に魔力を与え、手の平一杯分の水を作り出す。
『フィーユ、これくらいの水、出してみて?』
『……う、うん』
恐らくこんなに少ない水を出したことがないのだろう。何度も何度もかなり大きな水の塊を作ってしまい、フィーユは悲しそうに言う。
『……また、失敗しちゃった……』
『だ、大丈夫だよ! 俺も丁度いい水の量出すの、かなり苦戦したし!』
俺も最初、精霊石にどれくらい魔力を与えればいいのか分からず、何度も試行錯誤した。その時の練習を思い出しながら、フィーユにアドバイスする。
『凄く凄く小さな……本当に欠片くらいの魔力を使うイメージ……かな? 本当にちょびっと。それでどれくらい水が出来るのか分かったら、その魔力の欠片を少しずつ増やしていくんだ』
俺は自分の魔力を使った訳ではないので、魔石を使った時の感覚になってしまうが、まぁ似たようなものだろう、多分。フィーユが今100ずつしか魔力を変換出来ないのだとしたら、1ずつ変換出来る感覚を覚えさせるイメージだ。
フィーユは集中しているのか、目を瞑って眉間にしわを寄せながら『むむむぅ……』と唸っている。
『……あっ、出来た! 出来たよ、トワ!』
少しずつ水を変換するイメージが掴めたのか、手の平一杯分の水を作り出し、嬉しそうに俺に見せてくる。
『おぉ、凄いぞフィーユ!』
『……えへへ』
もう一度バスケットボールくらいの大きさで水を出してもらうと、今度はピッタリその大きさになった。大きな魔法の練習により、魔力を使う感覚は慣れているのだろう。一度少なめに出す感覚を掴んでしまえば、簡単そうだった。
『……トワ、私、もっと頑張るから……そしたら、ずっと一緒にいてくれる?』
フィーユが綺麗な水の球体を出しながら、俺に問いかける。俺は少し迷った末、笑顔で答える。
『勿論。ずっと一緒だ』




