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平凡サラリーマンの絶対帰還行動録  作者: JIRO
第3章【ナーエ編】
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日々読んで下さりありがとうございます!感想、レビュー、ブクマ、評価、本当に励みになっております。

 

 数分待って起きないことを確認し、そっとクローゼットから出る。警備兵の座る椅子に回り込み、腰に下げられているはずの鍵を探す。幸いなことに鍵と思われる魔石はすぐに見つかった。


 魔石は複数あり、それぞれに紐が通され鎧に結ばれていた。俺は手持ちの鞄からハサミを取り出し、紐を切って魔石を手にする。


 ―― 魔石ゲットだぜ、と。


 そのまま檻のある部屋に向かおうとしたが、迷った末に警備兵の足と椅子の足を、用意しておいた縄で縛り付けることにした。腕にも縄を通し、縄を椅子に結び付ける。多少は時間稼ぎになるだろう。

 寝ている警備兵を起こさないよう、慎重かつ手早く縄を結んでいく。


 ―― よしっ!


 縄を結び終わり、静かに檻のある部屋に向かう。一番奥の扉まで行き、幾つかの魔石錠を試すと何個目かの魔石が淡く光り鍵が開く。


 ―― 早く、早く、早く!


 逸る気持ちを押さえつけ、扉を静かに開く。中の様子を窺うと、地下に続く階段になっていた。

 石造りの狭い階段を降りると、そこにはまた柵のついた部屋が並んでいた。上の階とは違い、悪臭がしない。無臭という訳ではないが、気が滅入るような悪臭がないのは本当にありがたい。


「もち……! もち! いたら返事してくれ!」


 小声でもちに呼びかけながら、檻の中を覗いていく。悪臭がしないとはいえ、上の階のような……何かがあるかもしれない。ゴクリと唾をのみながら、一歩一歩進んで行く。


 1つ目の檻 ―― 空だ。

 2つ目の檻 ―― 空だ。


 3つ目の檻……中には非常に端正な顔立ちの男が、真っすぐこちらを向いて座っていた。


「ひ……と……?」


 あまりに顔が整い過ぎていて、一瞬マネキンや彫像かと思った。ロワの時も感じたが、整い過ぎた顔は人間味を失わせる。ロワは女性的な柔の美しさだったが、この男は男性的な剛の美しさだ。


 歳は俺と同じ位だろうか。20代中盤ほどに見える。銀色の髪が無造作に腰まで伸び、銀髪ロン毛というイケメンにしか許されない髪形を、いとも容易く自分の物にしていた。


 服装は捕らえられた時のままなのか、白銀に輝く立派な鎧を身に着けていた。これだけ立派な鎧を着ていると言うことは、スティードと同じ護衛などの仕事をしていたのかもしれない。


 ―― 銀髪ってことは魔力が弱い……平民だよな?


 あまりのイケメンっぷりに、思わず男を呆然と眺めてしまったが、そんな時間も勿体ない。時間が惜しい。俺は取り敢えず2つだけ質問を投げる。


『……ここから出たいですか? 俺に協力してくれますか?』


『……あぁ』


 少しの間があり、イケメンが低い声で答える。

 イケメンは声までイケメンなのか……と妙なところで感心しながら、俺はイケメンの入った檻の鍵を探す。警備兵から奪った魔石錠の中にこの檻の鍵も入っていたようで、無事檻の扉が開く。


『……急いで出て下さい。すみませんが、外に出るまでは俺の指示に従って貰います。いいですか?』


『……あぁ』


『俺は白くて丸い魔物を探しています。これくらいの大きさなんですが……見かけませんでしたか?』


『……さぁな』


 質問を投げながら、イケメンがいた部屋を隅々まで見渡す。もちはいないようだ。


 そして4つ目の檻。

 部屋の隅に丸くて白い塊が見える。


「もち……!? もちっ!」


 俺はもちの姿をこの目に捕らえ、慌てて檻の鍵を開ける。焦りで何度か魔石を落としそうになりながら、なんとか扉を開けもちに駆け寄る。


「もち……! 無事だったか? 大丈夫か? 助けに来たぞ!」


 俺はもちを力の限り抱きしめる。

 昨日時点の無事は確認していたが、もちが警備兵を噛んでしまったりして、殺されることだって十分に考えられる。


「……きゅ?」


 抱きしめられたもちはうっすらと瞳を開き、俺の顔を見つめる。


「きゅっ……! きゅーっっ!」


 もちも抱きしめているのが俺だと気付いたのか、嬉しそうな鳴き声を上げてすりすりと体を擦り寄せる。


「よかった……! もち……! 本当に良かった……!」


「きゅーっ!」


 俺は安堵と嬉しさで涙目になりながら、もちを撫でる。もちもつぶらな瞳からポロポロと涙を流しながら、俺に甘えてくる。


「っと、マズイ……! もちも救出したし、警備兵が目を覚ます前にここから出ないと……!」


 俺はあまり時間がないことを思い出し、慌てて出口に向かう。

 するともちが俺の髪を口に咥え、ぐいぐいと出口と逆方向に引っ張る。


「ん? 何だよ、もち。そっちは出口じゃないぞ?」


「きゅっ!」


 もちが鳴きながら再び髪をぐいぐい引っ張る。もちが示す先には、もう1つ扉があった。


「あの扉に行きたいのか?」


「きゅっ!」


 急がなくてはいけないが、もちがこんなに奥の扉を示すのだ。何かあるのだろう。これまでの扉とは雰囲気が異なり、なんというか……重厚で異様に頑丈そうな扉だ。覗き窓のような物がついていたので、そっと中を覗く。


 ―― おんな、のこ……?


 覗き窓から見えたのは、窓一つない石造りの薄暗い部屋と、その中にしゃがみ込んでいる女の子らしき人影だ。


 ―― あの子も囚われてるのか……!


 恐らくもちは隣の部屋に女の子が囚われていることを知り、助けてあげたいと思ったのだろう。

 女の子が囚われている部屋にも鍵が掛かっていたため、俺は急いで魔石錠を取り出し鍵を開ける。魔石錠が光り鍵が開いたので、扉を開けようとすると、扉は異常なまでの厚みがあり、非常に重かった。


『くそっ、開かない……! すみません、手伝って貰えますか?』


『……あぁ』


 イケメンに声を掛け、共に扉を押す。

 イケメンはスラっとした見た目に似合わず力が強いのか、今度は簡単に扉が動く。ゴゴゴゴゴ……と石と石が擦れる音がし、ゆっくりと扉が開く。


 扉の開く音で女の子もこちらに気付いたのか、ふと顔を上げる。女の子が顔を上げた瞬間、長い髪がさらりと落ち、その顔が目に入る。


 ―― かわいい……


 時間を忘れて思わず見入ってしまうほど、整った顔立ちをしていた。およそ人とは思えない程の神聖さと透明感を持つ、正に天使や妖精と例えるのが相応しい美少女だった。


 ―― こんな可愛い子、初めて見た……


 憂いを帯びた表情さえも愛らしい。

 歳は恐らく10代前半くらいだろうか。牢屋内が暗くて分かりにくいが、濃い髪色をしていた。紺か……紫。どちらにしろかなり魔力が高い髪色だ。腰の辺りまで伸びた髪は、今は少しぼさぼさだが、ちゃんとお手入れすれば、それはそれはさらさらで美しい髪だろう。


 服装は黒を基調としたフリルたっぷりの可愛らしいワンピースだった。髪の色といい、平民街では見かけない豪華な服といい、貴族の子供なのだろうか。


 ―― 貴族の子なら……何で牢屋に?


 食い入るように女の子を見つめていると、女の子が小さく何か呟く。


『……し……て……』


『え……?』


『……だ……して……』


 俺が聞き返せば、少しだけ大きな声で再び女の子が呟く。


『……ここから……出して……!』


 今度はちゃんと聞き取れる声量で、女の子が泣き出しそうな声音で小さく叫ぶ。その声はまるで悲鳴のようだった。


『大丈夫、出してあげるよ』


 女の子を怖がらせないよう、俺は同じ目線までしゃがみ、そっと頭を撫でる。頭部にこぶのようなものがあり、慌ててそこは撫でないようにする。もしかしたら牢屋に閉じ込められ、何かで殴られたのかもしれない。


『出して……くれるの……?』


『勿論! 急ごう。こんな場所、君も早く出たいだろ?』


 呆然と問い返す女の子を安心させるよう、出来る限り優しい笑顔で語り掛ける。『静かにね?』と注意すれば、女の子はコクリと頷く。


『詳しいことは外に出てから話します。とにかく今はここから出ましょう!』


 女の子とイケメンにそう語り掛けると、二人とも異論はないようで小さく頷いてくれた。


 ……


 元来た道を静かに駆け上がり、全員で無事待機部屋の前まで戻ってくる。途中の死体がある部屋は、俺が女の子を抱き上げて目を瞑ってもらい、手で鼻を塞いだもらった。流石にあれを子供に見せるのは可哀想だ。


『……横の部屋に警備兵がいます。見つかったら多分……また囚われます。気を付けて下さい』


 囚われるのではなく殺されるかもしれないが、女の子を怖がらせないように表現に気を付ける。待機部屋からはまだ大きないびきが聞こえてくる。


 ―― まだ、寝てるな……。


 よし、と気合を入れ、そっと扉を開く。女の子は俺が抱いたまま、足音を殺して出口まで急ぐ。


 ―― 起きるなよ……起きないでくれ……。







とうとう…!とうとうこの二人を出せました!

長かった…!ここまで70話かかりました…!

もちも無事救い出しました!


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