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平凡サラリーマンの絶対帰還行動録  作者: JIRO
第3章【ナーエ編】
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日々読んで下さりありがとうございます。感想、レビュー、ブクマ、評価、本当に励みになっております!

 

 見向きもされなかったら『試食ありますよー! 一口食べるだけならタダですよー! 食べてみて下さーい!』と声を掛けようと思っていたが、最初に食いついてくれた人達のおかげで、呼び込みをせずに人だかりが出来た。


 俺は自分の名前を売るため、試食を差し出しながら『旅をしている行商人のトワです。よろしくお願いします』と次々に挨拶していく。


 人が人を呼びかなりの人数が集まってくれ、大量に蒸しておいたじゃがいもがとうとう底をつく。現在も蒸かしている最中だが、蒸かし終わるまで少し時間が空いてしまう。


 ―― さぁ、リバーシのターンだ!


 じゃがバターで人を集め、第二計画リバーシの宣伝に移行する。


『すみません! じゃがバターは作ったものが全部売れてしまって……現在新しい物を調理中です! 少し時間が空いてしまうので、良ければ異国の遊びで時間を潰しませんか?』


 これも俺の故郷の物で、ノイで大流行したんですよと付け加える。

 集まっていた人達は『売り切れ』という言葉を聞いた瞬間、落胆したり顔をしかめたが、続く俺の言葉に再び興味深そうな目でこちらを見る。


 俺は準備しておいたリバーシ盤を見せ『2人でやるリバーシと言う遊びです。実際の遊び方をお見せしたいので、どなたか協力して貰えませんか?』と声を掛ける。

 ノリの良さそうな男性が『俺が協力してやるよ!』と手を挙げてくれたので、お礼を言いつつ、観客にも聞こえるように大声でルール説明をする。


『……というルールになります! ルールは大丈夫そうですか?』


『おう! 楽勝、楽勝!』


『じゃあ、実際にやってみましょう!』


 俺の声でナーエでの初リバーシが開始される。



 ……


 所々で解説や説明を入れつつ、交互に石を置いていく。

 多少人数は減ったが、殆どの人は残ってリバーシの様子を眺めている。

 何人かの人は盤面を見ながら一緒に手を考えているのか、俺や対戦相手が石を置く度『ん?』『そっちか?』『あっちの方は良くないか?』等とぶつぶつ言っている。


 ―― いい感じだな。


 ……そしてリバーシを開始して数十分。

 対戦相手が叫び声を上げる。


『……はぁっ!? いやいやいや、嘘だろうっ!?』


 中盤までは、黒石を持った対戦相手が盤面の殆どを占めていたのだが、後半は白石を持つ俺の一手により、縦横斜めと凄い勢いで石がひっくり返されていく。


『ふふふ、すみません。俺、結構リバーシやり込んでるので……』


 にやりと笑い、最後の白石を打つ。これで相手は石の置き場所がなくなる。


『あー……! ここは置いちゃいけないんだよな……? くぅー……俺の負けかぁ……』


 途中まではいい感じだったんだけどなぁ……と協力してくれた男が悔しそうに呟く。案の定『もう1回だ!』と再戦を申し込んでくるが『また今度お願いします』と笑顔で流し『やってみたい方いませんかー!』と声を掛ける。


 20個ほどリバーシ盤を用意しておいたので、見ていた人達が次々に『ちょっとやってみようぜ!』と知り合いを誘って参加してくれる。

 俺に挑戦したいと意気込む人も結構いたので、話し合って1人選んで貰い、俺も再びリバーシを打つ。


 流石に40人は敷物の上に座りきれなかったので、直接地面に座って貰ったりしながら、小さなリバーシ大会が開かれる。

 リバーシの素晴らしい点は、場所も時間も道具も最小限な上に、老若男女問わず遊べて中毒性があるところだ。


 子供から大人まで、数十人もの男女が広場の端に座っているのだ、そりゃあ目立つ。新しく広場に来た人や一度離れた人も『何だ、何だ?』と集まって来る。


 新しく来た人には俺が声を上げて説明したり、最初からリバーシを見ていた人が説明してくれたりする。


 じゃがいもが蒸かし終わるまで、小さなリバーシ大会は盛況が続いた。


 セットしておいたタイマーの時間になり、スマートフォンがバイブレーション機能で震える。俺はそっとタイマーを止め、周囲に声を掛ける。


『じゃがバター完成しましたー! リバーシは一旦終わりでーす!』


 そしてすかさず『リバーシも売ってまーす! 気に入って頂けたら購入お願いしまーす!』と宣伝を続ける。そのまま購入してくれる人もいれば、こそこそと『これ、作れるな……』と呟いている声も聞こえる。


 リバーシの模造品が出るのは想定の範囲内だ。

 模造品でも良いので、是非とも広まって欲しい。

 リバーシと共に俺の名前が広まれば、情報収集もしやすくなる。


 ナーエで商売をするのは、お金を稼ぐためと言うよりは情報収集のためだ。

 顔と名前を売り、人脈を作る。ノイでは得られなかった情報も、ナーエにはあるかもしれない。


 人脈は大事だ。情報の入り口がそれだけ増える。

 人脈がないと全て自分が動いて情報収集をしなきゃいけない上、知らない人に情報をくれる人は少ない。


 しかし人脈を広げれば『トワが探してた情報、XXで耳にしたぜ』『XXがこんなこと言ってたぜ』と誰かが教えてくれたり、重要な情報をこっそり流してくれたりする。情報だけでなく、有力な人や場所の紹介をして貰える等、様々な利点がある。


 ―― ま、名前が知れ渡るのはリスクもあるけどね。


 ノイで貴族に目をつけられたことを思い出しながら、気を引き締める。



 ……



 今日のために準備しておいた分のじゃがいもが、全て売り切れた。

 馬車の荷台にじゃがいもがあるので、取りに行けばまだ作れるが1日で売り尽くす気はない。


 ―― あまり儲けすぎて、他の店の人に恨まれても嫌だしな。


 予定より少し早いが『すみませーん、売り切れでーす! 明日またお店を出すので、是非お立ち寄りくださーい!』と声を上げる。ついでに『この後じゃがいもの新しい調理法を教えまーす! 気になる方は俺に声かけて下さーい!』と続ける。

 売り切れと聞いて離れようとしていた人達が即座に戻って来る。


『お、おいおい……そんなに大々的に教えていいのか? 明日から売れなくなっちまうぞ?』


 最初に話を持ち掛けた隣の店の主人が、心配そうに問いかけてくる。


『大丈夫です!』


 俺は自信満々に断言する。

 バターはうちだけの売りだ。ホクホクのじゃがいもだけでも美味しいが、バターを付けた美味しさには勝てない。


 ―― ふふふ、塩や砂糖じゃあのバターの深みは出せないからな。


『そ、そうか……? まぁ、あんたがいいならいいけどよ……』



 ……



 翌日。

 広場にはバターの小瓶を買った人によるじゃがバターもどきや、リバーシもどきが大量に売り出された。


『……だから言ったじゃねぇか……』


 異世界生活452日目、隣の店の主人は同情しているような呆れているような、何とも言えない表情で俺に声を掛けた。


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