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平凡サラリーマンの絶対帰還行動録  作者: JIRO
第3章【ナーエ編】
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日々読んで下さりありがとうございます。感想、レビュー、ブクマ、評価、本当に励みになっております!

 

「はぁー……つっかれたぁ……」


 あの後ミーレスと共に広場に行き、旅に必要な物が買える店や、俺が店を出していい場所を教えて貰った。

 あらかた街の中を案内して貰ったところで日も暮れて来たため、ミーレスと別れ俺は宿屋に戻って来た。現在は宿屋のベッドでゴロゴロしている真っ最中だ。


「あ、もち!」


 俺はふともちを布袋に入れっぱなしだったことを思い出し、慌ててもちを布袋から引っ張り出す。

 もちは半日以上布袋に入りっぱなしだったため、かなり機嫌が悪そうだった。頬を膨らまし、いつも以上に丸くなっている。


「ごめんな、苦しかったか?」


「きゅー……」


 よしよしと頭を撫でてみるが、不機嫌そうな表情のまま低い声で鳴いている。


「困ったな……」


 何とかもちの機嫌を取ろうと、俺はカルネ特製の干し肉をそっともちの前に差し出す。この干し肉は本当に美味しくて、俺の大好物でもあるのであまり上げたくないのだが……背に腹は代えられない。


「ほら、もち。これ好きだろ?」


「きゅ? きゅーっ!」


 先程迄の不機嫌さが嘘のように明るい鳴き声を上げ、もちが干し肉にかぶりつく。もう一度頭を撫でてみれば、今度はいつものようにすりすりと体を擦り寄せてくれた。


「……お前、結構現金だな」


 もちの機嫌も直ったので、俺は安心して明日から始める商売の準備をする。


「何をどう売るか、だよなー……」


 俺はノイで売った時の様子も思い出しながら、考えを巡らせる。

 突然よそ者が見慣れぬ食品を売り出しても、手を出しにくいだろう。


 手始めに馴染み深いであろうじゃがいもを使った、じゃがバターを売る。その横でリバーシの販売もしてみよう。ノイでの流行り具合から、ナーエでもこの2つは結構売れると思っている。


 この2つが受け入れられ、市場に「美味しい物、面白い物を売る行商人がいる」という認識が出来たところで、満を持してパンと音楽を投入だ。

 因みに音楽を流すホールと音楽プレイヤーの護衛はミーレスに依頼済みだ。抜かりはない。


 パンに関しては、火の管理をしてくれていたフレドがいないため、自分で火を起こしてもう一度試行錯誤するしかない。まぁフレドと試行錯誤した経験もあるし、一人でもなんとかなるだろう。


 こちらも宿のかまどを貸して貰えるよう、帰宅時に宿屋の主人に話を通した。

 俺がミーレスの連れてきた客ということもあるのだろう。宿屋の主人は快く許可してくれた。


「ふふふ、焼き立てパンの匂いに抗えるものはいないからな……ナーエでも主食の座をゲットしてやるぜ!」


「きゅ?」


 ベッドで材料を広げながらにやにやと笑う俺を見て、もちが不思議そうな声を上げる。俺は予めノイで準備していた商品の在庫を確認し、整理しながら布袋に詰めなおす。

 レギュームの畑で収穫させて貰ったじゃがいもや、子供達と一緒に作ったバターが大量にあるので、当面の間材料に困ることはないだろう。


「よし、明日から頑張るぞー!」


「きゅー!」



 ……



 翌日。

 緊張しつつも広場に行き、お手製の蒸し器をセットする。地面に敷き物をしき、その上に売り物であるリバーシ等を並べていく。


 ―― 作戦開始だ。


 両隣のお店に軽く挨拶をして、広場に人が増えてきたところで、蒸かし終わったじゃがいもを笑顔で差し出す。


『ナーエに滞在中、ここでお店を出させて頂く、トワと言います。お近づきのしるしに、良かったらどうぞ』


 危険な物ではないということを示すため、蒸かしたじゃがいもを半分に割り、バターを塗って俺も一緒に食べる。

 隣の店の主人も、俺が食べたのを見た後『じゃがいも、かね? 見慣れない調理器具だねぇ……』と話しながら一口かじる。

 その瞬間、訝しげだった相手の表情が一気に変わった。


『うっ、うまいっ! 何だこれは!? こんな美味いじゃがいもは初めてだっ! 上に載っているこのぬるぬるした物も、マイルドでありながら絶妙な塩気もあって、じゃがいもの甘さを引き立てているっ!』


 隣の店の主人は、手渡された残りのじゃがバターを一気に食べながら感動したように叫ぶ。

 俺は満面の笑みで『遠い故郷の調理法なんです。上に載っているのはバターと言います。俺の店の看板商品です』と宣伝する。


『買おう、買わせてくれっ! 朝飯は広場で調達しようと思ってたんだ。あと3つほどくれ!』


『お買い上げ、ありがとうございまーす』


 値段を伝えて魔石と交換に蒸し器からじゃがいもを3つ取り出す。皿代わりの綺麗に洗った大きめの葉っぱでじゃがいもを包み、バターを塗って手渡す。この葉っぱも事前に沢山集めておいたものだ。


『いや、本当に美味いなこれは……』


『よかったです』


 じゃがバターを食べながら、隣の店の主人が感心したように言う。俺はもっと大声で叫んでいいだぜ! と思いながら、笑顔で相槌を打つ。


『……駄目元で聞くが、調理法を教えてくれないか?』


 隣の店の主人が少し遠慮しながら問いかけてきたので、チャンスだ! と出来る限り親し気な笑顔で頷く。


『構いませんよ、店を閉めた後にでも教えますね。ただバターの作り方は教えられないですね。うちの目玉商品なので……』


『おぉ! じゃがいもをこんなにホクホクにさせる調理法だけでも、教えて貰えるなら儲けものさ! 俺も商売人だ。教えられないことなんて幾らでもある』


 やはり美味しいものは人の心を開かせる。

 最初より大分打ち解けた様子で隣の店の主人と会話していると、会話が聞こえたのか他の人達も少し集まってくる。


 ―― 計画通りだ。


『新顔かい? 新しい調理法だって?』


『俺も丁度朝飯を探してたんだ、美味いのか?』


『会話が聞こえてきて……私も新しいじゃがいもの調理法、気になるわ』


 新しい調理法をタダで知れるのだ。皆、隠しきれない下心を覗かせながら話し掛けてくる。

 俺は笑顔を深め『今日和、トワと言います。お近づきのしるしに一口どうぞ』と小さく割ったじゃがバターを差し出す。


『おう、悪ぃな』

『ありがとよ』

『どうも』


 皆軽く礼を告げながら、ジャガバターを口にしていく。

 口に入れた瞬間、 隣の店の主人と同様に目を見開く。


『こりゃ美味い!』

『おぉ! この甘さとしょっぱさがたまらん!』

『こんなに美味しいじゃがいも、初めてだわ!』


 口々に感想を言いながら、すぐにじゃがバターを食べ終える。

 そのまま『俺も3つ買おう』『俺は2つだ』『私は1つ頂戴』とじゃがバターを買い求めてくれる。


『お買い上げ、ありがとうございます! バター単体も売ってるので、じゃがいもさえあれば、家でこの味が楽しめますよ!』


 俺は小瓶に入ったバターの値段も伝えながら、宣伝を重ねる。

 隣の店の主人も含め、全員バター単体も購入してくれた。


 人が集まっていると気になってしまうのが人の性だ。

 しかもそれが普段見かけない新顔の店となれば、何を売ってるんだ? と覗きに来てくれる。俺は覗きに来てくれた人全員に試食を差し出していく。


 ―― そう、ノイではあまり活躍の場がなかった試食作戦だ。


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