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ミーレスは一度頷くと、苦笑交じりに言葉を重ねる。
『ソルダの言っていた通りだな。貧弱そうに見えて、なかなか意志が固い』
『そんなこと言ってたんですか……』
ミーレスの言葉を聞き、俺も思わず苦笑してしまう。まぁソルダなら言いそうだ。
『あの、ちょっと気になったんですけど、ソルダとどうやって連絡取り合ったんですか?』
俺はずっとノイの平民街にいたので、こちらの世界の通信技術を知らない。
もし連絡を取る手段があるのなら確保しておきたい。
『ん? あぁ、ギルドマスター同士の場合なら、共鳴する魔石を使った簡単な言葉のやり取りが可能なんだ』
そう言ってミーレスは簡単に仕組みを説明してくれる。
どうやら予め1つの魔石に共鳴する刻印を刻み、その魔石を割ったものをそれぞれのギルドマスターが所持しているらしい。
その魔石に魔力を流すと、相手の魔石が共鳴する。後は魔力の流し方にルールを決めおき、連絡を取り合うそうだ。
『へー……便利ですね』
『いや、なかなか不便だよ』
ミーレス曰く、この共鳴する魔石の仕組みは、緊急事態をいち早く共有するために作られたものらしい。
そのため細かいことを伝えられるほどの精度があるわけではなく、結局伝書鳩のような魔物を使い、詳細を書いた手紙……小さな板を相手に届ける必要があるそうだ。
例えば今回の許可証発行も、共鳴する魔石……共鳴石を使用して「ノイからナーエに業務連絡あり」ということだけ事前に伝え、詳細を伝書魔物で連絡したそうだ。
その後、共鳴石を使用して「ナーエがノイからの詳細を受け取った」と連絡し、許可証自体は盗難や流失防止のため、ソルダとミーレスが直接落ち合い手渡ししたらしい。
『そ、それは……大変ご迷惑をおかけしました……』
『ふっ……気にするな。私も久々にソルダに会えて楽しかったからな』
便利だと思った共鳴石も、よくよく聞けばギルドマスターの体内に直接埋め込まれているそうだ。
これにより共鳴石自体の紛失や盗難、第三者の悪用を防ぐと共に、ギルドマスターが死亡した等の緊急事態も共有出来るらしい。
『ひ、ひえぇ……た、体内に』
『ははっ、トワは反応が良いからついからかいたくなるな』
あまり一般的ではなく高価だが、平民でも伝書魔物や、飛脚のようなサービスを使って連絡を取り合うことが可能だとミーレスが教えてくれる。
『……俺も、ノイに手紙を出せますか?』
『ふっ……特別にギルド所有の伝書魔物を貸してやろう』
ミーレスが優しく笑いながら俺に告げる。その言葉を聞き、俺の心に喜びが湧き上がってくる。
一方通行かもしれない。でも、もう二度と会うことも、言葉も交わすことも出来ないと思っていたノイの人達に、言葉を届けられるのだ。
『はい、ありがとうございます!』
俺は逸る気持ちを抑え、満面の笑みで礼を言った。
……
その後、ミーレスは 『募る思いもあるだろう。手紙が書き終わったらまたギルドに来い』と言い、先にナーエの中を案内してくれることになった。
『まず、ノイに比べるとナーエは治安が悪い。警備兵に目を付けられないよう注意しろ』
『警備兵?』
ギルドを出て、街を歩きながらミーレスがナーエについて教えてくれる。
確かにノイに比べるとナーエは少し活気がなく、どんよりした雰囲気だ。いつも明るく賑やかだったノイと違い、街の人の声があまり聞こえないからだろうか?
『街の至る所に、少し豪華な鎧を身に纏った兵士がいるのが分かるか?』
ミーレスに言われ街を見渡してみると、確かに所々に豪華な鎧の兵士がいる。
『本当だ……結構いますね』
『……彼等はナーエの治安向上のため、貴族に配置された兵士だ』
『……貴族に、ですか』
貴族と聞いて少し嫌な予感がする。
『きちんと仕事をしてくれる兵もいる。まぁ……大概は加害者も被害者も問題を起こした者として全員牢屋に入れるか……殺すか、だがな』
『そんな……! 貴族は人の命を何だと思ってるんだ……!』
『彼等にとって平民は人ではないんだろうさ……。トワ、お前に関しては私が身元保証人となろう。ノイのギルドマスターの知り合いとなれば、流石に殺されることはないだろう』
『……はい。ありがとうございます』
俯きながら返事をする俺に対し、ミーレスは苦笑しながら慰めるように肩を叩く。
『っと、宿が見えてきたな。トワ、あそこが宿だ』
ミーレスは空気を変えるように殊更明るい声で1軒の大きな建物を指差す。
宿屋に入るとミーレスの顔見知りらしい宿屋の主人が出迎えてくれて、俺はそのまま2階の部屋に通された。
『ここの主人は信頼出来るが、宿泊客までは分からない。貴重品は持ち歩け。扉や窓の鍵を忘れるなよ?』
そう言ってミーレスから小さな魔石を渡される。
何の魔石か分からず『これは?』と聞けば、ミーレスは少し呆れたような表情で『まさか使ったことがないのか?』と言いながら、説明してくれる。
ミーレスの説明によれば、この魔石は扉の魔石と対になっていて、魔石同士をかざすことで鍵の開閉が出来るらしい。
電子錠ならぬ魔石錠といった物のようだ。
『へー……便利ですねー……』
『なくすと弁償だ。かなり高価なものだから気をつけろよ?』
まるで子供に言い聞かせるように注意される。鍵の使い方も知らないおこちゃまだと思われたようだ……。『な、なくしませんよ!』と反論し、貴重品以外の荷物を部屋に置く。
『さて、身軽になったようだし、このまま広場の方も案内してやろう』
しっかりと鍵をかけ、宿の外に出る。
背負っていた荷物がかなり減り、俺は凝り固まった肩をぐるぐる回しながら頷く。
『はい、お願いします!』




