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『起こっちまったもんは仕方ないでしょう! 今はこれからどうするのか、それを考えないと!』
『カルネの言う通りだ。トワ、ノイを出る以外に方法はないのか?』
カルネの言葉に同意するよう、スティードが真剣な表情で俺に問いかける。
俺は首を横に振り、答える。
『多分……ないと思う。もし俺がノイに残って貴族に見つかったら……皆に迷惑をかけるかもしれない』
『か、隠れて家から一歩も出なければ……!』
『何より俺は……防具が完成したらノイを出るって決めてたんだ』
『それは……』
『それが少し、ほんの少し早まっただけだよ』
カルネもスティードも、俺がもうすぐノイを出るということを知っていたのかもしれない。気まずげに目線を逸らし『だけど、こんな、急に……』と口籠る。
『……旅の準備は、間に合っているのか?』
静かにレイの頭を撫でながら、ペールが俺に問いかける。
『うん……前から準備してたから、大体終わってる。最後の確認はするけど』
『そうか……』
ペールが言葉少なに頷けば、フレドがペールに詰め寄る。
『ペール……それだけかよっ!? トワが……トワが行っちまうんだぞ……! トワはまだ弱ぇし……もう会えなくなるかもしれないんだぞ!?』
『ふ、フレド……! 落ち着いて……!』
フレドは俺の旅立ちがもっと先だと思っていたのだろう。
ちゃんと準備を整えて、きちんと気持ちに整理を付けて、万全の状態で旅に出ると考えていたのだと思う。ペールに詰め掛かるフレドをティミドが必死に止める。
『……フレド、トワの覚悟を、決断を、信じようじゃないか』
ペールがそっとフレドの肩を叩く。
フレドは何かを言いかけたが途中で止め、無言で後ろを向いてしまう。そんなフレドを支えるようにティミドが寄り添う。
その様子を眺めながら、ソルダも俺に語り掛ける。
『……トワ、俺ぁ正直……お前が旅に出て、生き残れるとは思えねぇ。せめて……もう少し訓練を積んでからじゃダメなのか?』
『……すみません。貴族がいつ動くか分からない今……俺は少しでも早く、ノイを出ようと思ってます』
『……そうかよ』
ソルダは少し躊躇った後、仕方ないといった様子で頭を掻きながら言う。
『分かった。一番長距離まで行ける護衛を、明日までに探してやる』
ソルダの言葉を聞き、スティードも『俺も仕事に代役を頼み……行けるところまでだが、トワを守ろう』と同意する。
二人の気持ちは嬉しいが、俺はそれを受け入れないと決めている。
『二人とも……ありがとう。でも、ごめん。俺以外の誰かが、俺のせいで貴族に目を付けられるのは嫌なんだ。だから……明日は一人で出発しようと思ってる』
俺の言葉を聞き、ソルダとスティードが再び目を見開く。
『ば、馬鹿言ってんじゃねぇ!』
『そうだトワ! そんなの無謀すぎるぞ!?』
ソルダとスティードは俺の考えを必死に止めようとしてくれる。
心配してくれているのだろうが、ここまで全否定されるとちょっと男としてのプライドがズタズタだ。
『大丈夫、大丈夫。目指すのはナーエだし。ナーエまではほら……そんなに危険じゃないんでしょ?』
俺は苦笑しながらこれ以上心配をかけないように、道中向かう予定であるナーエを目的地のように告げる。本当の目的地……ロワイヨムの名前は出さない。『だが……』と言い募る二人を安心させるため、俺は更に言葉を重ねる。
『それに俺、ノイに来るまで100日近く1人で生き抜いて来たし!』
『そ、そうなのか……? だが、なぁ……』
『大丈夫、大丈夫。とっておきの武器もあるし!』
俺が手で銃の形を作りながら力強く頷けば、ソルダとスティードは困ったように少し怯む。
『ガッハッハ! 行かせてやれ、行かせてやれ! どうせトワは止めたって勝手に行くだろ!』
アルマが豪快に笑いながら俺の背中を力強く押す。
『俺の作った武器と防具があるんだ。この辺の魔物や盗賊の攻撃で死ぬこたぁないだろ!』
『その言い方……やっぱり防具、完成してるんじゃないか』
アルマの言葉に俺は少しジト目で突っ込みを入れる。
『う、うっせぇなぁ! 明日までに超特急で仕上げてやんだよ! 感謝しやがれ!』
アルマは気まずそうに目を逸らし、適当な言い訳を吐きながら残った酒を飲み干す。酒を飲み干したアルマは、ふと魔法のことを語った時のような真剣な眼差しで俺を見据える。
『いいか、トワ。迷うなよ。迷わずに自分が決めた道を突き進めば、結果は必ず付いて来る』
アルマは迷わず突き進み、夢を叶えた男だ。
俺は深く頷きながら、その言葉を胸に刻みつける。
アルマと俺の横で座り込んでいたメールは少し顔を上げ、悲しそうに呟く。
『……私、覚悟を決めるって言っておきながら……トワの覚悟を迷わせようとしてたわね……。ごめんね、トワ』
『メール……』
俺はメールの方を見ながら、言葉に詰まる。
そんな俺達の様子を見て、レギュームが笑いながらメールの背中をさする。
『男はいつだって身勝手なもんさね。うちのじいさんも昔はよくどっか行っちまったさ』
レギュームの旦那さんらしき人が、人混みの中でギクッと飛び上がり、そそくさとどこかに逃げていく。その様子を笑いながら見つめ、レギュームが続ける。
『けどねぇ、今はこうやって、私の傍で畑を耕してる』
『……レギューム』
『だからね、メール。きっとトワも大丈夫さね。うちのじいさんよりずっといい男だしねぇ』
メールの背中をさすりながら、最後は冗談めかしてレギュームがニコニコと笑う。レギュームの言葉にメールも思わず吹き出しながら、もう一度俺を見て言う。
『そうね。トワは、大丈夫よね』
メールが笑ってくれたので、俺もやっとメールに笑いかける。
『うん。俺は大丈夫』
……
その後は俺がどんな旅の準備をしているかスティード達に事細かに聞かれ、あれこれアドバイスを貰った。
ナーエまでの道の注意点や、旅で気を付けることなど、次から次へと叩き込まれ、俺は必死に記憶していく。
真面目な話が終わった後は、浴びるように酒を飲み、皆で笑い合う。
『おらぁ、トワ! 俺の酒が飲めねぇってのかぁ?』
アルマが酒を片手に絡む。
『酒だ―! ありったけの酒をトワに持ってこぉーい!』
ソルダも酒を片手に叫ぶ。
『いい加減にしろ、お前ら! トワ、お前はもう飲むな!』
スティードが酒の席でも生真面目に俺達を叱る。
『とわぁ―! ふふっ、とわのかお、おかしぃー! あははははは』
ティミドが狂ったように笑う。
『とわぁ……ぶじにかえってこいよぉ……』
フレドが鼻水をたらしながら泣く。
『あんた達、いい加減にしなさいよぉ?』
カルネが呆れたように溜息を吐く。
『まぁまぁ、今日くらいはいいさね』
レギュームがニコニコと笑う。
『とわぁ……? おはなしのつづきはぁ……?』
レイが寝ぼけまなこでむにゃむにゃと俺の名前を呼ぶ。
『トワ、本当に体に気をつけるのよ? お酒も今日みたいに飲みすぎちゃダメよ?』
メールはまだ不安そうに俺を心配する。
『メール……何回目だね? いい加減にしなさい。でもまぁ……トワ、本当に体に気を付けるんだぞ?』
ペールも酔っているのか、何回目か分からない言葉を俺にかけてくれる。
『もうむり……もうむりらから……もうのめな……ぃ……』
異世界生活432日目、賑やかな宴の中、俺は夢の世界に旅立った。