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俺が所在なさげに広場中央で待っている間に、酒やつまみがどんどん用意されて行く。広場中に木箱などで簡易的なテーブルが作られ、その上に食器や飲み物が置かれる。皆適当にテーブルを囲み、飲み物を注ぎ合い、片手に飲み物を持つ。
俺にもアルマが注いでくれた、酒らしき飲み物が入った器を渡される。
『よぉーし、お前ら! 飲み物は持ったか!?』
アルマが大声で叫び、皆が飲み物の入った入れ物を天に掲げ『おー!』と勢いよく答える。
『トワ、お前が主役だからな。ほら、立て! 始まりの挨拶はお前がやれ!』
アルマがガッハッハと笑いながら、俺を無理やり立たせる。
『え!? お、俺!?』
『当たり前だろ?』
俺があわあわとアルマの方を向けば、アルマは何言ってんだとばかりに笑い飛ばす。
『トワ―早くしろー!』
『トワ―! はやくー!』
『折角の料理が冷めちまうだろー!?』
『酒も温くなっちまう!』
街の人達も飲み物を片手に口々に俺を急かす。
『え、えぇ……えっと、じゃあ……その、本日は私の軽率な行動により、皆さまに多大なご迷惑をお掛けしたにも関わらず……』
『長ぇ! 一言でいいんだよ!』
俺が緊張しながら必死に挨拶を始めると、アルマが勢いよく突っ込んでくる。
一言、と言われて俺は皆に伝えたい言葉を決める。
『じゃ、じゃあ……皆、ありがとうっ! 乾杯ッ!!』
『『『『『 乾杯ッ!! 』』』』』
俺の乾杯の言葉に続き、街の人達の声が綺麗に重なる。
……
『かーっ! うめぇ! もう一杯ッ!』
『……お、お父さん……! ほどほどにね……!』
アルマは馬鹿でかい器に入った酒を一気に飲み干すと、すぐ次の酒を注ぐ。
そんなアルマを見て、ティミドは慌てて飲みすぎるなと注意している。ティミドを適当にあしらいながら、アルマはどんどん次の酒を注いでいく。
……
『おーい! 肉がなくなりそうだー!』
『はいはいはいはい、フレド! さっさとしな!』
『やってるって! 食うペースが早すぎるんだよ!』
最初に焼いた肉は一瞬で食い尽くされたようで、カルネとフレドが追加の肉を必死に焼いている。二人とも大声で怒鳴り合っていて、こちらにまで声が聞こえてくる。
……
『スティード、何飲んでんだ? それ酒じゃねぇじゃだろ?』
『あぁ、トワが帰って来たんだ。明日から稽古を再開するなら、酒は飲まない方がいいだろう?』
『馬鹿かお前! ここで飲まねぇ奴がいるか! 飲め、俺が注いでやる!』
『やめろ、馬鹿はお前だ! まだお茶が入っているのが見えないのか!?』
真面目なスティードは明日のことを考えて、酒を控えていたようだ。ソルダはそんなスティードに対し、勝手に酒を注ぎながら絡んでいる。言い争う二人は仲が良いのか悪いのかよく分からない。
……
『レギューム、じゃがいもまだあるかしら?』
『じゃがいもは沢山あるさね。ただバターがもうないねぇ……』
『あ、バターならこっちにまだあるわ!』
じゃがバターも一瞬で消費されてしまったようで、メールとレギュームは追加の料理を準備している。二人が凄い勢いで新しい料理を完成させていく様子を見て、俺はしみじみと主婦の力は偉大だなと思った。
……
『ペール! あれ、あれ飲みたい!』
『コラコラ 、あれはお酒だ。レイはまだ飲んじゃだめだよ?』
レイは酒に興味津々なようで、ペールが必死に止めている。やはりこちらの世界でも、子供は酒を飲んではいけないようだ。
……
俺はぼんやりと皆の様子を眺めながら、慣れない味の酒をちびちびと舐める。果実酒なのだろうか。苦いアルコールの中にほんのりと甘い味がする。ワインに近い味だ。
『どうした、トワ? 変な顔をして』
ソルダから逃げてきたのか、スティードがそっと横に座り俺の様子を窺う。
『トワったらお料理何も取ってないじゃない! 貴族に連れていかれた後ちゃんと食べたの? お腹空いてない?』
後ろから来たメールが、俺が酒の器しか持っていないことに気付き、心配そうに声を掛けてくれる。
『トワ、レイがトワとお喋りしたいって言ってるぞ? ここいいか?』
『トワ―! おしゃべりー!』
ペールがレイを抱き上げながら前に座る。
『あ、トワてめぇ! お前、ずっとここで飲んでたのかよ!』
『おう、トワ! 飲んでるかぁ!?』
『……お邪魔、してもいい?』
肉焼きから解放されたのか、フレドが文句交じりに近付いてくる。
その後ろからべろんべろんのアルマと、アルマを支えるティミドもやって来る。
『トワ! あんたうちの肉一個も食べてないでしょう? ほら、持ってきてやったよ!』
『うちのじゃがバターも持ってきたさね。ほら、食べなさい』
山盛りの肉を持ったカルネと、山盛りのじゃがバターを持ったレギュームがこちらに向かって歩いてくる。
『おっ! なんだなんだ、皆も料理も集まってんじゃねぇか!』
人だかりと料理に惹かれたのか、ソルダも酒を片手にふらふらとやって来る。
―― 俺を囲む皆の顔を見て、じんわりと実感が湧いてくる。
「……なんか、うん。俺、帰って、来たんだな……」
―― やっぱりここは優しい。温かい。気持ちいい。
そうだ、みんな集まっているし丁度いいじゃないか。
言え。早く言え。
俺には皆に伝えなきゃいけないことがある。
「……みんな、大好きだ。本当にありがとう」
俺の俯きながらの呟きに、横にいたスティードが『ん?』とこちらを向く。
『あのさ、俺、明日の夜には……ここを出ようと思ってるんだ』
今度は皆に伝わるよう、こちらの言葉で伝える。
『『『『『 ……え? 』』』』』
ワイワイ騒いでいた皆が一斉に喋るのを止め、こちらを振り向く。
『ど、どうして!? 防具作り終わるまではノイにいるんでしょう!? ぼ、防具はまだ作り終わったって言ってないはずよ!?』
メールが悲鳴に近い声で俺に詰め寄る。
俺はそっとメールに微笑み、アルマの方を向く。
『アルマ……本当はさ、防具、完成してるんだろ?』
『いや……それは……その……』
俺が苦笑しながら問いかければ、嘘が下手なアルマはごにょごにょと誤魔化す。
『ま、まだよねっ!? アルマっ!』
『お、おう! まだだ、まだまだだ! まだ全然かかるな!』
メールの強い口調に合わせるよう、アルマは目を泳がせながら大声で叫ぶ。
『ねっ、ほら、まだかかるわ? もう少しゆっくりしても、いいんじゃないかしら?』
事情を知らないメールは、優しく微笑み俺の両手を掴む。
『ごめん、駄目なんだ。俺、貴族に目を付けられちゃって……貴族の手が俺に届く前に、ノイから出なきゃいけないんだ』
『……そんな』
俺に詰め寄っていたメールは、茫然自失といった様子でふらふらと座り込む。
『貴族に!? 無事に帰って来たからてっきり……貴族の怒りが収まって、お前は許されたのかと……』
『そ、そうだよ! 貴族に目を付けられてんなら、そもそもお前を逃がすはずないだろ!?』
『……と、トワが心配しすぎ、なのかも……?』
スティードやフレドは驚いた様子で、ティミドは少し冷静に言葉を吐く。
『……俺、あの時王様の友達だって嘘を吐いただろ? その後、本当にたまたま……運よく王様に助けられたんだ。王様が俺を庇ってくれて……だから貴族は渋々手を引いた』
『お、王に!?』
皆が俺の言葉を聞き、目を見開く。
『王様はあの貴族が俺に目を付けてるだろうって言ってた。俺もそう思う。俺は死にたくないし、それに……いや、だから俺は、明日ノイを出ることに決めた』
俺が真剣な表情で言葉を紡げば、皆貴族の恐ろしさが身に染みているからか、一様に口をつぐむ。
『トワ……ごめんなさい……! 私の、私のせいだよね……!』
ティミドが目に涙を溜め、震えながら必死に謝ってくる。
『違うっ!! ティミドのせいじゃない! 寧ろ……俺が最初貴族に跪かなかったから、後ろにいたティミドが目を付けられて……本当にごめん……!』
『ち、違うよ! トワのせいじゃないよ……! わ、私が……』
俺は必死に否定して悔し気に言葉を吐けば、ティミドも必死に俺を庇って言葉を吐く。そんな俺達を見て、フレドが泣きそうな声で叫ぶ。
『トワとティミドのせいじゃない……! 俺のせいだ……! 俺があの日アンケートを取りに行こうなんて言わなければ……!』
『それこそ違うだろ!? そもそも俺が、俺があんな……貴族に目を付けられるような、目立つ真似したから……!』
フレドのせいじゃないと俺が必死に言葉を重ねる。
お互い自分を責め合っていると、見かねたカルネが大声で俺達を叱りつける。
『いい加減にしなっ!! あんた達っ!!』