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平凡サラリーマンの絶対帰還行動録  作者: JIRO
第2章【ノイ編】
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感想、レビュー、ブクマ、評価、本当にありがとうございます。日々励みになっております!

 

 俺が所在なさげに広場中央で待っている間に、酒やつまみがどんどん用意されて行く。広場中に木箱などで簡易的なテーブルが作られ、その上に食器や飲み物が置かれる。皆適当にテーブルを囲み、飲み物を注ぎ合い、片手に飲み物を持つ。

 俺にもアルマが注いでくれた、酒らしき飲み物が入った器を渡される。


『よぉーし、お前ら! 飲み物は持ったか!?』


 アルマが大声で叫び、皆が飲み物の入った入れ物を天に掲げ『おー!』と勢いよく答える。


『トワ、お前が主役だからな。ほら、立て! 始まりの挨拶はお前がやれ!』


 アルマがガッハッハと笑いながら、俺を無理やり立たせる。


『え!? お、俺!?』

『当たり前だろ?』


 俺があわあわとアルマの方を向けば、アルマは何言ってんだとばかりに笑い飛ばす。


『トワ―早くしろー!』

『トワ―! はやくー!』

『折角の料理が冷めちまうだろー!?』

『酒も温くなっちまう!』


 街の人達も飲み物を片手に口々に俺を急かす。


『え、えぇ……えっと、じゃあ……その、本日は(わたくし)の軽率な行動により、皆さまに多大なご迷惑をお掛けしたにも関わらず……』

『長ぇ! 一言でいいんだよ!』


 俺が緊張しながら必死に挨拶を始めると、アルマが勢いよく突っ込んでくる。

 一言、と言われて俺は皆に伝えたい言葉を決める。



『じゃ、じゃあ……皆、ありがとうっ! 乾杯ッ!!』


『『『『『 乾杯ッ!! 』』』』』



 俺の乾杯の言葉に続き、街の人達の声が綺麗に重なる。


……


『かーっ! うめぇ! もう一杯ッ!』


『……お、お父さん……! ほどほどにね……!』


 アルマは馬鹿でかい器に入った酒を一気に飲み干すと、すぐ次の酒を注ぐ。

 そんなアルマを見て、ティミドは慌てて飲みすぎるなと注意している。ティミドを適当にあしらいながら、アルマはどんどん次の酒を注いでいく。


……


『おーい! 肉がなくなりそうだー!』


『はいはいはいはい、フレド! さっさとしな!』


『やってるって! 食うペースが早すぎるんだよ!』


 最初に焼いた肉は一瞬で食い尽くされたようで、カルネとフレドが追加の肉を必死に焼いている。二人とも大声で怒鳴り合っていて、こちらにまで声が聞こえてくる。


……


『スティード、何飲んでんだ? それ酒じゃねぇじゃだろ?』


『あぁ、トワが帰って来たんだ。明日から稽古を再開するなら、酒は飲まない方がいいだろう?』


『馬鹿かお前! ここで飲まねぇ奴がいるか! 飲め、俺が注いでやる!』


『やめろ、馬鹿はお前だ! まだお茶が入っているのが見えないのか!?』


 真面目なスティードは明日のことを考えて、酒を控えていたようだ。ソルダはそんなスティードに対し、勝手に酒を注ぎながら絡んでいる。言い争う二人は仲が良いのか悪いのかよく分からない。


……


『レギューム、じゃがいもまだあるかしら?』


『じゃがいもは沢山あるさね。ただバターがもうないねぇ……』


『あ、バターならこっちにまだあるわ!』


 じゃがバターも一瞬で消費されてしまったようで、メールとレギュームは追加の料理を準備している。二人が凄い勢いで新しい料理を完成させていく様子を見て、俺はしみじみと主婦の力は偉大だなと思った。


……


『ペール! あれ、あれ飲みたい!』


『コラコラ 、あれはお酒だ。レイはまだ飲んじゃだめだよ?』


 レイは酒に興味津々なようで、ペールが必死に止めている。やはりこちらの世界でも、子供は酒を飲んではいけないようだ。


 ……


 俺はぼんやりと皆の様子を眺めながら、慣れない味の酒をちびちびと舐める。果実酒なのだろうか。苦いアルコールの中にほんのりと甘い味がする。ワインに近い味だ。


『どうした、トワ? 変な顔をして』


 ソルダから逃げてきたのか、スティードがそっと横に座り俺の様子を窺う。


『トワったらお料理何も取ってないじゃない! 貴族に連れていかれた後ちゃんと食べたの? お腹空いてない?』


 後ろから来たメールが、俺が酒の器しか持っていないことに気付き、心配そうに声を掛けてくれる。


『トワ、レイがトワとお喋りしたいって言ってるぞ? ここいいか?』


『トワ―! おしゃべりー!』


 ペールがレイを抱き上げながら前に座る。


『あ、トワてめぇ! お前、ずっとここで飲んでたのかよ!』


『おう、トワ! 飲んでるかぁ!?』


『……お邪魔、してもいい?』


 肉焼きから解放されたのか、フレドが文句交じりに近付いてくる。

 その後ろからべろんべろんのアルマと、アルマを支えるティミドもやって来る。


『トワ! あんたうちの肉一個も食べてないでしょう? ほら、持ってきてやったよ!』


『うちのじゃがバターも持ってきたさね。ほら、食べなさい』


 山盛りの肉を持ったカルネと、山盛りのじゃがバターを持ったレギュームがこちらに向かって歩いてくる。


『おっ! なんだなんだ、皆も料理も集まってんじゃねぇか!』


 人だかりと料理に惹かれたのか、ソルダも酒を片手にふらふらとやって来る。



 ―― 俺を囲む皆の顔を見て、じんわりと実感が湧いてくる。




「……なんか、うん。俺、帰って、来たんだな……」




 ―― やっぱりここは優しい。温かい。気持ちいい。



 そうだ、みんな集まっているし丁度いいじゃないか。

 言え。早く言え。

 俺には皆に伝えなきゃいけないことがある。




「……みんな、大好きだ。本当にありがとう」




 俺の俯きながらの呟きに、横にいたスティードが『ん?』とこちらを向く。


『あのさ、俺、明日の夜には……ここを出ようと思ってるんだ』


 今度は皆に伝わるよう、こちらの言葉で伝える。


『『『『『 ……え? 』』』』』


 ワイワイ騒いでいた皆が一斉に喋るのを止め、こちらを振り向く。


『ど、どうして!? 防具作り終わるまではノイにいるんでしょう!? ぼ、防具はまだ作り終わったって言ってないはずよ!?』


 メールが悲鳴に近い声で俺に詰め寄る。

 俺はそっとメールに微笑み、アルマの方を向く。


『アルマ……本当はさ、防具、完成してるんだろ?』


『いや……それは……その……』


 俺が苦笑しながら問いかければ、嘘が下手なアルマはごにょごにょと誤魔化す。


『ま、まだよねっ!? アルマっ!』


『お、おう! まだだ、まだまだだ! まだ全然かかるな!』


 メールの強い口調に合わせるよう、アルマは目を泳がせながら大声で叫ぶ。


『ねっ、ほら、まだかかるわ? もう少しゆっくりしても、いいんじゃないかしら?』


 事情を知らないメールは、優しく微笑み俺の両手を掴む。


『ごめん、駄目なんだ。俺、貴族に目を付けられちゃって……貴族の手が俺に届く前に、ノイから出なきゃいけないんだ』


『……そんな』


 俺に詰め寄っていたメールは、茫然自失といった様子でふらふらと座り込む。


『貴族に!? 無事に帰って来たからてっきり……貴族の怒りが収まって、お前は許されたのかと……』


『そ、そうだよ! 貴族に目を付けられてんなら、そもそもお前を逃がすはずないだろ!?』


『……と、トワが心配しすぎ、なのかも……?』


 スティードやフレドは驚いた様子で、ティミドは少し冷静に言葉を吐く。


『……俺、あの時王様の友達だって嘘を吐いただろ? その後、本当にたまたま……運よく王様に助けられたんだ。王様が俺を庇ってくれて……だから貴族は渋々手を引いた』


『お、王に!?』


 皆が俺の言葉を聞き、目を見開く。


『王様はあの貴族が俺に目を付けてるだろうって言ってた。俺もそう思う。俺は死にたくないし、それに……いや、だから俺は、明日ノイを出ることに決めた』


 俺が真剣な表情で言葉を紡げば、皆貴族の恐ろしさが身に染みているからか、一様に口をつぐむ。


『トワ……ごめんなさい……! 私の、私のせいだよね……!』


 ティミドが目に涙を溜め、震えながら必死に謝ってくる。


『違うっ!! ティミドのせいじゃない! 寧ろ……俺が最初貴族に跪かなかったから、後ろにいたティミドが目を付けられて……本当にごめん……!』


『ち、違うよ! トワのせいじゃないよ……! わ、私が……』


 俺は必死に否定して悔し気に言葉を吐けば、ティミドも必死に俺を庇って言葉を吐く。そんな俺達を見て、フレドが泣きそうな声で叫ぶ。


『トワとティミドのせいじゃない……! 俺のせいだ……! 俺があの日アンケートを取りに行こうなんて言わなければ……!』


『それこそ違うだろ!? そもそも俺が、俺があんな……貴族に目を付けられるような、目立つ真似したから……!』


 フレドのせいじゃないと俺が必死に言葉を重ねる。

 お互い自分を責め合っていると、見かねたカルネが大声で俺達を叱りつける。




『いい加減にしなっ!! あんた達っ!!』




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