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『……では、トワ様。あとはこの裏道を通って行けば、人目につかず平民街まで行けます』
兵士の一人が馬車を使い、貴族街を抜けて平民街の近くまで送ってくれる。
『それから、こちらがロワイヨムまでの地図になります』
兵士に布の地図を渡され、頭を下げながら受け取る。
地図と共にフード付きの外套も渡され、馬車の中で外套を身に纏う。
『外套は平民街と貴族街、両方に出回っている物ですから、返却は不要です』
『何から何までありがとうございます。ロワ……王にもそうお伝えください』
『かしこまりました』
馬車を降り、兵士が裏道に入る門の鍵を開けてくれて、俺は裏道に入ることが出来た。
兵士に頭を下げ、馬車が発進したのを見てやっと一息つく。
「はー……なんか、すごい……一日だったな……」
取り敢えず早く家に帰って……旅の準備をして……皆にお別れの挨拶をして……やらなくてはいけないことが次々と頭に浮かぶ。
「とにかく……家に帰ろう。まずはそれからだ」
……
裏道はそのまま進んで行くと、ギルドの中に繋がっていた。
もしかしたら普段はギルド職員専用の道なのかもしれない。
中に入ると休憩所のような小さな部屋に出た。部屋の電気は付いているが、誰もいない。
勝手にギルド内を通り抜けていいのか分からず、少し大きな声で中に向かって叫ぶ。
『すみませーん、誰かいますか―?』
『……その声! トワか!?』
ガタガタガタッと慌ただしい音が聞こえ、物凄い勢いでソルダが俺のいる部屋に飛び込んでくる。
『あ、ソルダ……よか『トワッ! お前……無事だったのか……!』
俺が『よかった』と言い終わる前にソルダが大声で俺の名を呼び、俺の言葉がかき消される。
『この大馬鹿野郎っ!!! 貴族に気を付けろって忠告しただろうがっ!! この馬鹿がっ!!!』
ソルダがズカズカと俺に近付いてくると、物凄い大声で怒鳴りながら右手を上げる。
殴られる!そう思った俺は、とっさに身を縮め、衝撃に備える。
『皆、どんだけ心配してと思ってんだ……』
予想していた衝撃はなく、驚くほどの優しさで頭に手を置かれる。
『本当に……無事でよかった……』
そのままわしゃわしゃと髪をかき混ぜられる。
ソルダの声が震えている気がして俺は頭を上げようとしたが、強い力で頭を押され、表情を見ることは叶わなかった。
『すみません……ご心配、おかけしました……』
『さっさと他の奴らのところにも顔出すぞ。ペールとメールなんか、今にも貴族街に殴り込みそうでな。アルマやスティードが必死に止めてんだ』
『……ペール……メール……』
あれだけ貴族に逆らうなと言っていたペール達が、俺のためにそんなことをしようとしていたのかと思うと、胸が締め付けられる。
『ほら、急ぐぞ!』
ソルダが俺の腕を掴むと、そのままズンズン外に向かって歩いていく。
ソルダの歩く速度が速いので、俺は小走りで必死にソルダに付いていく。
『おぉーい!!!! トワが帰ったぞぉ―!!! トワが帰って来たぞー!!!』
なんと、ソルダは大声で叫びながら街中を歩いていく。
俺は驚きと恥ずかしさで『な、なんで?!』と思わず叫んでしまう。
『言っただろ? 皆、心配してたんだよ。トワが帰ってきたことをさっさと知らせねぇとな!』
ソルダはニカッと満面の笑みで笑い、また『おぉーい! トワだー! トワが帰ったぞぉ―!!!』と叫び出す。
その声が聞こえたのか、歩いていた人が振り返り、家の中にいた人が窓から顔を出す。
『トワ!?』
『本当にトワか!?』
『トワ!』
『おいおいおいおい、偽物じゃねぇだろうな!?』
『トワ―!』
街の人がソルダと俺の周りに集まり、次々と声を掛けてくれる。
『心配したぞ』
『無事でよかったなぁ!』
『貴族に囚われたんだろ?』
『どうやって逃げてきたんだ?』
『貴族に逆らうなんて……!』
『この馬鹿野郎が!』
『おい! ペール達を呼んで来い!』
『他の奴等にも声かけてやれ!』
『広場だ! 広場に皆集めろ!』
色んな人にどんどん声を掛けられ、俺は『ごめん』や『ありがとう』を繰り返す。
街の人が加わり、大行列のようになりながら広場に辿り着く。
俺の帰還を聞いた街の人達が皆に伝えてくれたのか、広場には大勢の人が集まってくれていた。
『トワ……! あぁ、本当にトワなのね……!』
人だかりの中からメールが飛び出してくる。
『夢じゃないのね……!無事でよかった……!』
メールが勢いよく俺を抱きしめる。
その後ろからレイを抱いたペールも駆け寄り、メールごと俺を抱きしめる。
『本当に無事でよかった……! 心配かけさせおって……!』
『トワぁ!』
ペールとレイにも勢いよく抱きつかれ、俺は少し体勢を崩す。
そんな俺を後ろからそっと支えるように、スティードが手を添えてくれる。
『トワ、無事でよかった……』
スティードが安心したとばかりに溜息を吐き、背中を軽く叩く。
前方の人混みからはフレドとティミドが飛び出してくる。
『トワ、この馬鹿……! 人の忠告聞けよな!? 馬鹿、この馬鹿ッ! 本当に……無事でよかった……!』
『……トワの、トワの馬鹿ぁ……! ごめんなさい……私のせいでぇ……!』
フレドとティミドは口々に人のことをバカバカと罵りながら駆け寄ってくる。
その後もアルマやカルネ、レギューム達が次々に『無事でよかった』と俺の無事を祝ってくれる。
『その、勝手な行動して、ごめん、なさい……』
俺は自分が衝動に任せてどれだけ浅はかな行動を取ったのか自覚し、集まってくれた皆に対して頭を下げる。
俺が緊張しながら皆の反応を待てば、街の皆は優しい声音で次々と俺に声を掛けてくれる。
『トワが無事だったならいいさ』
『そうそう』
『無事でよかった』
『気にするな』
勿論厳しい顔で『お前の勝手な行動で平民街全体を危険にさらしたんだぞ!?』と怒鳴る人もいたが、周囲の人が『何もなかったんだからいいじゃねぇか』と宥めてくれる。
『ほら、折角トワが無事に帰って来たんだ! トワの武勇伝を聞きつつ、皆パーッと飲もうぜ!』
アルマがどこからかバカでかい酒樽を持って来て、軽々と天に掲げる。
『そりゃあいいな! 飲もう飲もう!』
『あんた達は飲みたいだけでしょうが! ま、うちの肉をつまみにしな! ほら、フレド! 肉焼いて来な!』
『えー!? 俺が焼くのかよー!?』
『じゃあうちのじゃがいもも持ってくるさね』
『……わ、私、お手伝いします……!』
アルマの提案に真っ先にソルダが同意し、カルネやフレド、レギュームやティミドがつまみを用意しようと動き出す。
『お酒、うちに在庫があったかしら?』
『あぁ、倉庫にあったはずだ。持って来よう』
『各自持ち寄るか』
メールを筆頭に、街の人達も自慢の酒を持って来ようと盛り上がり出す。
このまま飲み会が始まりそうな気配を感じ、俺は声を上げようか迷う。
『ほら、トワ。主役はお前だぞ!』
アルマの掲げた酒樽が広場の中央に置かれ、スティードが笑顔で俺を手招きする。
『さぁ、準備が出来たなら、宴の始まりだ!』




