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平凡サラリーマンの絶対帰還行動録  作者: JIRO
第2章【ノイ編】
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感想、ブクマ、評価ありがとうございます。日々励みになっております!

 

『まず、あの話はレアーレの実体験が元になっているはずだ。かなり昔の話だね』


 穏やかな口調でロワが語り始める。


『かなり、昔……』


『そう。ええと……蜜草の花が周期的に咲くのは知ってるかい?』


『あぁ、聞いたことあるな。何日周期で咲くんだ?』


『おおよそ500日周期だね。蜜草の花はその時期にしか収穫出来ない大事な甘味料だ。蜜草の花が咲くと各地で収穫祭が行われるくらいだよ』


『へぇ……』


 若干元の世界と日数はずれるが、蜜草が咲く周期で、異世界での1年が分かると考えればいいだろう。


『レアーレの話は……大体蜜草の花が300回咲いたくらい前の話だね』


『さ、さんびゃく……!?』


 聞き間違いかと思い、ロワにもう一度蜜草が何回咲いたのか聞き返すが、やはり300回咲くほど昔だと言われる。

 更にロワは毎年王として収穫祭に参加していたため、そんなに期間はズレていないはずだと断言される。


『……え、王として……毎年収穫祭に参加……?』


『うん』


『え、だって300回収穫祭があったってことだよな……? その全部にロワが参加してる……? え、え……?』


 レアーレの話が300年以上昔の話だということにも驚愕したが、ロワがその収穫祭全てに参加しているという点にも驚きが隠せない。

 単語の意味を取り違えているのかと思い、必死にロワの言葉をもう一度翻訳し直そうとしていると、ロワが意味深な笑みを浮かべる。


『ふふ、私は結構おじいちゃんなのさ』


『え……!? ろ、ロワは生まれてから何回くらい、蜜草が咲くのを見たんだ……?』


『ふふ、内緒』


 ロワの歳が気になり、蜜草の咲く周期で年齢を計算しようと思ったが、答えをはぐらかされてしまう。

 しかし生まれてスグに王になったり、収穫祭に参加するとは思えない。

 つまりロワは確実に300歳以上ということだろう。


 ―― やっべ、友達になったし、同い年くらいだからタメ口でいいやとか思ってたのに……


 まぁ、もうずっと馴れ馴れしく話しているのでどうしようもない。

 俺は開き直って会話を続ける。


『ロワだけじゃなくて、みんな生まれてから200回や300回、蜜草の花が咲くのを見るのが普通なワケ……?』


 髪の色は違えど、外見は俺と……元の世界の人間とそっくりだったため、てっきり成長速度や寿命も同じくらいだと思っていた。

 もしかして異世界で出会った人達は、全員物凄く年上だったのだろうかと不安になる。


『いや、普通は50回か60回ほどじゃないかな? 平民だともうすこし少ないね』


『そうなんだ……』


 俺は頭の中で必死に暗算する。

 この世界の平均寿命はおよそ70歳~80歳くらいということだろう。


『魔力が強ければ老化を遅らせることが出来るんだよ』


 ロワが補足する。

 中世程の文化レベルにしては平均寿命が長いと感じたが、どうやら魔力のおかげのようだ。

 ロワは紫の髪……一番魔力が強い髪色だ。圧倒的な魔力量で、長い時を生きているのだろう。


 ―― だから、ロワを友と呼んだ人達はもういないのか……


 長い時を生き、親しい人が段々と減っていったであろうロワの人生を想像し、少し悲しい気分になる。


『……話が脱線してしまったね。私がレアーレの話を実話だと知っているのは、実際にレアーレの子孫に会い、直接話を聞いたからだ』


『直接ぅ?!』


 仕切り直すようにロワが再度レアーレの話について語りだす。しかしまたも驚く単語が出てきて、俺は思わず声を上げてしまう。


『そう。直接』


 ロワ曰く、レアーレの住んでいた地は童話の舞台になった場所として、地元では観光地のような扱いになっているらしい。

 ロワも仕事で近くを訪れた際、観光でレアーレの家に行き、子孫に会ったそうだ。


『か、観光地……』


 いや、確かに元の世界でも童話の舞台が観光地になることはよくある。

 作者ゆかりの地、みたいな。

 その理論で行けばそりゃそうなんだが、まさか俺の旅の目的地が観光地とは……。


『レアーレ本人に話を聞いたわけではないから、私が知っている情報も童話と同じ程度だ。子孫達に代々お伽話のように語り継がれてきたそうだよ。だから女神様とやらも実在するのか分からない』


『……そっか』


『女神様が実在していたとしても、もしかしたら、もう……』


『……うん』


 ロワは俺に配慮して最後まで言わなかったが、言いたいことは伝わった。

 昔は女神様が実際にいたのかもしれない。しかしもう……いない、死んでいる可能性は高い。

 それでも俺は一縷の希望に縋るしかない。


『私が観光に行ったのも……蜜草の花が100回咲くほど前だしね』


 ロワが観光に行ったのもかなり昔のようだ。益々希望は薄いかもしれない。


『因みに、場所は覚えてる?』


『あぁ、覚えているよ。ただ……かなり遠いよ?』


『……少しでもそこに希望があるなら……俺は行こうと思う』


 俺の強い意志を感じたのかロワは少し逡巡した後、場所を教えてくれる。


『……レアーレの家があるのは、ロワイヨムという街の近くだ。ロワイヨムの辺りでは有名な観光地だから、近くまで行けば案内板が立っているよ』


『あ、案内板……。本当に観光地なんだな……』


『ノイからナーエに行き、ナーエを越えて更に道なりに進むと山がある。その山を越えた先がロワイヨムだ』


 ナーエを超えた先にあると言うことは、ディユとはまた別の山だろう。

 俺はとことん異世界の山に縁があるようだ。


『ロワイヨム、か。分かった』


『後でロワイヨムまでの地図を渡そう』


 そう言った後、ロワは俯きながら固い声で呟く。


『すまないね、トワ。君の旅の支援をして上げたいが……私が動けば貴族達に気付かれてしまう……』


『大丈夫だよ。旅の準備は殆ど終わってるし、ね』


『……そう』


 ロワは顔を上げ、再び真剣な表情で俺の目を見る。



『……トワ、君の幸運を祈っている』


『……あぁ』



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