032
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『そうだ、アルマ! 魔法のこともうちょっと詳しく教えて貰えないかな?』
俺はこれまで魔法のことをよく知らず、ただ漠然と魔力量に応じて何でも出来る万能な力と思っていた節がある。
魔法を使えないとはいえ、魔法の知識を持っておくことは大事だろう。
『俺はどっちかっていうと魔石加工専門なんだけどな……。まぁいいぜ、基本くらいは教えられる』
『あ、魔石加工専門とかあるんだ?』
『おう、試験は色々と細かく分かれてるぜ。俺は魔石加工系しか知らねぇけどな』
『ほ、本当一点集中型だね……』
俺の世界の国家試験のように、こちらの世界の国家試験も色々と種類があるらしい。
アルマが『よし、じゃあ基礎中の基礎からだな』と気合を入れた教師の顔で俺の方を見る。俺も姿勢を正し、真剣な表情でアルマに向き合う。
『まず、魔法には自分の魔力と魔素が必要だ』
『うん』
『自分の魔力って言うのは、体内に取り込まれて自分の色に染まった魔素だな』
『ふんふん』
『魔素は大気中にある、誰の物でもない魔力と言われている 』
『なるほど』
そういえばレーラーも同じように説明してくれてたなと思いながら話を聞く。
『体内の魔力を媒体にして、魔素を発現したい事象へと変換する。この時、元の魔力量や魔素量よりも大きな事象を起こすことは出来ない』
等価交換ということだろう。魔力や魔素の量が1なのに、10の事象を起こすことは出来ないということだ。
『体内の魔力量が多い奴は、媒体に出来る魔力を沢山持っている。それだけ魔素を多く変換出来る』
『へぇ……』
初めてこの世界で魔法を見せて貰った時、スティードとペール達の魔法の強さ……出せる火の強さに違いがあった。
あれはペール達よりスティードの方が体内の魔力量が多いから起こっていたのだろう。
『魔力量が多い奴は制御出来るようになるまで、とにかく魔法の暴走が多い。俺も苦労したもんだ。ま、一般的に体内の魔力は成長と共に増えるから、今みたいに成長と一緒に魔法の使い方を学ぶようになってからは、暴走事故はかなり減ったな』
『魔法の暴走とかあるんだ……』
『最近は滅多にないけどな。昔はよくあった。無意識に魔力を垂れ流しながら、頭でイメージしたことを変換しちまうんだ。魔力を制御出来ない子供に多い』
『へぇ…』
『子供の魔力は大したことがないから、普通は暴走にまで至らないんだが、子供の頃から魔力量が多い奴がそれをやると、暴走に繋がる』
子供は想像力豊かだ。子供がイメージしたものに魔素が変換されたら、それは大変なことになるだろう。
『じゃあ例えばさ、凄く魔力の強い子供が、親をイメージしながら魔力を流したら、魔素は親に変換されて、親がもう一人出来たりするの?』
俺はふと浮かんだ疑問をアルマに投げかける。
『はは、そりゃ面白いな。上手く魔素が変換出来たと仮定して、答えは脳内で思い描いていた親っぽい物体が一瞬出来るって感じだな』
『んん? 親っぽい物体が……一瞬出来る? 』
『あ―……魔素を火に変換するだろ? その火はずっと残るか? 答えはNoだ。残らない』
『う、うん……』
『じゃあ魔素を土や水に変換したとする。これもずっと残るか? 答えはNoだ。残らない 』
『あぁ……なるほど、残らないんだ……』
『魔力を与え続ければ、魔素が変換され続けて残るけどな。次から次へと新しい魔素が同じように変換されるイメージだ』
『あー……魔石の魔力を使うやつ』
『そうそう、それだ。魔石は魔力の結晶なんだ。そこに魔力を流すことで加工が出来る。ま、かなりコツがいるがな』
アルマはそう言って得意気に魔石の形を変えて見せる。
『魔石の魔力は誰のものでもない…フリーの魔力なの?』
『そうだな、そんな感じだ。魔石の成り立ちについては色々と隠されている点や謎も多い。魔石製作は素人が簡単に出来るもんじゃねぇが……万が一ってこともあるからな』
『そうなんだ…』
魔石の成り立ちも気になるところだが、あまり深くは話せないようだ。
『魔石を使わなくても、魔法が上手い奴だと最初に多めに魔力を使って、継続的に魔素を変換させ続けたりも出来る』
恐らくイメージとしては、10の魔力を最初に使い、魔素を最初に1変換する。1変換した分の魔素が無くなったら次にまた1変換する……と言った感じで、10の魔力分発現したい事象を継続させるのだろう。
『む、難しそう……』
『はは、そうだ。難しい。かなりコツがいるな』
どうやらアルマは出来るようで、笑いながら言う。
『あと親っぽい物体ってことは、魔素から人間を作ることは出来ないってことでいいのかな?』
俺が確かめるように言うと『少し語弊があるな』と前置きして、アルマがもう少し詳しく説明してくれる。
『想像力の問題だな。人体の仕組みを理解し、魔素を丁寧に一つ一つ変換すれば、限りなく人間に近い物も変換出来る。理論上はな。ま、そんなこと出来る奴は聞いたことないけどな!』
なるほど。要は一つ一つしっかりと再現することが大事なのだろう。
何となくだが、魔力と魔素の関係が掴めた気がする。
『ちょっと気になったんだけど、体内の魔力量ってどう決まるの?』
俺はもう一つ気になった点をアルマに聞いてみる。
子供の頃から魔力量が多い人もいれば、少ない人もいる。成長で魔力が増えても、ペール達より若いスティードの方が魔力量が多い場合もある。
魔力量がどうやって決まるのか気になったのだ。
『生まれた時には決まってると言うのが近いな。あまり詳しいことは言えねぇが、それぞれ体内に溜められる魔力量の上限が決まってるんだ。上限以上は取り込めねぇ』
話を聞く限り、体内に魔力を溜めるタンクのようなものがあるイメージが近いだろう。
生まれた時にタンクの大きさが決まり、最初はタンクに少しだけ魔力が溜まっている。成長と共にどんどん魔力を取り込んでタンクに溜めていくが、タンクの上限以上は溜まらない。
『上限って分かるものなの?』
『感覚的には分かんねぇな。ただこれまでの研究で、大体の目安はある』
『目安?』
『そう。体毛……ま、髪の色だな』
『へえぇ! 髪の色で上限が分かるの?』
アルマは棚から木の板を取り出し、俺の前に置く。木の板には様々な色と文字が書かれていた。
『この図の通り、魔力量はおおよそ12段階に区分けされている』
『おぉ―……』
『この図は上から魔力が強い順に並んでいる』
アルマが見せてくれた図には上から、紫色、紺色、濃い桃色、青色、赤色、青緑色、橙色、緑色、茶色、黄緑色、山吹色、銀色の12種類が並んでいる。
俺は身近な人の髪の色を思い出す。
アルマは赤色なので5番目に魔力が強い髪色だ。ティミドは緑色なので8番目、スティードやフレドは若干色味が違うが二人とも茶色なので9番目、ペールやメール、レイは黄緑色なので10番目だ。
『あれ……? 黒は? この図に当てはまらない人もいるの?』
多くは見かけないが、数人黒色の髪の人も見かけた。この図にない色も有り得るのだろうかと思い、アルマに質問する。
『勿論この図以外の色もある。色味も皆少しづつ異なるしな。ただ黒はちょっと特殊でな……』
アルマは少し歯切れ悪く、そこで言葉を区切る。
『特殊?』
俺が先を促せば、アルマは少し言いにくそうに続ける。
『あー……トワは生まれた時から、天然で黒なんだよな?』
『あ、うん。そうだけど……何か変なの? 』
『一般的に黒はな、人工的な色なんだ。魔力量の偽装防止のため、髪の色を染めるのは禁止されているんだが、唯一例外として、黒に染めるのは許可されている』
『へー……何で黒だけ染めていいの?』
『目的としては、自分の実力を隠すためだな。例えば戦士が、戦う前から髪の色でおおよその強さが分かったらやりにくいだろう? 魔力の強い奴が強さを隠すために染める場合もあるし、逆に魔力の弱い奴が弱さを隠すために染める場合もある』
『あぁ……なるほど』
『魔力の弱い奴が迫害を受ける場合もあるしな……ま、強い奴が妬まれる場合もあるんだが』
『面倒ごとを避けるために染める人もいそうだね』
『そうだな。ま、染めてたら染めてたで「実力を隠す卑怯者」なんて言う奴もいるけどな』
『うわぁ……面倒くさい……』
『ま、世の中は何でも面倒くさいもんだ』
アルマと笑い合いながら、ふと外を目を移せば日が暮れていた。かなり長い間アルマと話し込んでいたようだ。
『あ……ごめん、アルマ! 仕事中だったのに……!』
俺は慌てて立ち上がり、アルマに謝罪する。
『ん? あぁ、気にすんな。そんな急ぎの仕事でもないしな』
アルマはガッハッハと笑いながら、見せてくれた木の板を棚に戻す。
『あ! 最後に一つだけ聞いてもいい? 魔法を使うのに、コツとかある?』
俺がそんな質問をしたのには理由がある。
今はまだ魔法を使えないが、異世界に滞在することで俺も魔素を体内に取り込み、魔法が使えるようになるのではないかと思ったからだ。
『コツ、コツか……そうだな……』
アルマは自分が魔法を使う時の感覚を思い出してくれているのだろう。考え込むように一度言葉を区切る。
『こう……火を出したい時はボウッ!と、水を出したい時はバシャーン!と、風を出したい時はブワッ!とイメージする感じだな』
そして身振り手振りを交え、凄く真剣な表情で答えてくれた。
―― そうだった……アルマは知識も勿論あるが、完全に直感型……感覚で魔法を使う派なのだった。
『あ、ありがとう……参考にする……』
異世界生活342日目、アルマが教えてくれた魔法のコツを試してみたものの、結局魔法は使えなかった。