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『ア……アルマが!? 国家魔術師!?』
人を見た目で判断するのは良くないが、アルマは完全に脳筋タイプ……いや、物理攻撃タイプだと思っていた。まさかアルマが魔法タイプ……しかも国家魔術師レベルの魔術師だったとは驚きだ。
レーラーは俺の驚きようを見ながら『まぁ、アルマは魔術師に見えませんからね』と笑っていた。
『貴族街では国家魔術師なのに平民街に住む変人として有名なのですが……平民街ではあまり知られていないんですよね 』
元平民街出身だったレーラーも、貴族街に行ってからアルマの異端さを知ったらしい。国家魔術師は貴族街や城に住んでいることが一般的なのだそうだ。
色んな意味で凄い情報をくれたレーラーに再度お礼を言いつつ、レーラーと別れた俺はその足ですぐさまアルマの元へ向かう。
『アルマ! アルマいる!?』
『ん? なんだ、トワか。そんなに慌ててどうした?』
武器屋に飛び込めば、いつも通りアルマは魔石を加工したり、武器を製作したりしていた。
『あ、アルマって……国家魔術師なの……?』
レーラーの話を信じていない訳ではないのだが、思わず確認するように聞いてしまう。
『ん? あぁ、そうだな』
アルマは何でもないことのように軽く肯定する。
『す、すごい……国家魔術師ってそう簡単になれるものじゃないだろ……?』
『んぁ? まぁー……確かに筆記試験だ実技試験だ面接だ……色々と面倒だったな』
『め、面倒なんて一言じゃ済ませられないと思うけど……』
『俺は昔っから試験は外さねぇんだ。勘で大体9割は取れるな』
『勘で!? 9割!?』
ガッハッハと大口開けて笑いながら、アルマは自信満々に断言する。アルマ曰く、筆記試験は勘で9割以上正解し、実技試験は元々得意で、面接は普通に喋っていたら受かったらしい。凄すぎる。
武器の話をしている時も思ったが、恐らくアルマはとにかく集中力が高いのだろう。知識を持っているからこそ、試験も実技も直感が働くのだと思う。
『ま、そもそも国家資格がない奴は魔石加工を請け負えないからな。俺は昔っから魔石が好きでな、どうしても魔石加工の職に就きたかったんだ』
アルマは懐かしむように今の職に就いた経緯を語ってくれる。言われてみれば魔力の塊である魔石を、素人が簡単に加工出来るとは思えない。
『なるほど……! すごいな……アルマは夢を叶えたんだ……!』
『まぁ……そうなるか?』
アルマは勘だと言っていたが、流石に勘だけで全ての試験を突破は出来ないだろう。アルマは困難であろう夢を自分の力で叶えたのだ。
『すごい……! 尊敬だ……!』
『よせよ、照れるだろ?』
俺が何度も『すごい、すごい』と繰り返していると、アルマは照れ臭そうに頭を掻く。
『この話はもう終わりだ! トワ、お前俺が国家魔術師かどうか聞きに来たのか? 何か用があったんじゃねぇのか?』
アルマは半ば強引に話を終わらせ、本題に入ろうとする。俺は本題……魔素減少の事件について、話を切り出す。
『実はアルマに聞きたいことがあって……』
『おう、なんだよ?』
『300日くらい前、魔素が急激に減少した事件があって、その調査にアルマも参加してたってレーラーに聞いたんだけど……』
俺の言葉を聞き、アルマは顎に手を当てながら思い出したように言う。
『あぁ、あったな、そんなこと。確かに参加したぜ』
『その事件について、どんな些細なことでもいい。覚えてる限り全部教えてほしいんだ……!』
俺がそう頼めば、アルマは顎を撫でながら、困った様子で続ける。
『あ―……? んー……そうだなぁ……守秘義務っつうか、話しちゃいけねぇことも多いんだけどよ、そもそも話せることが全然ないんだよな』
『え?』
『あー……事の始まりは王族とか俺とか……まぁ魔力の多い奴等が、魔素の乱れというか……魔素が急激に減ったのを感じたわけだ』
『魔素が減ったのを……感じた?』
『ん? あぁ、そうか。トワは魔力がねぇからな。その感覚が分かんねぇか……』
アルマは気温を例えに出し、暑さや寒さを感じるように、魔素も濃さや薄さが何となく感じられるのだと教えてくれる。一般的に、魔力の多い人ほど魔素の濃度を感じやすいそうだ。
『で、これはおかしいぞとなってな、緊急招集がかかったりして、魔素が減った地域を調査しに行ったわけだ』
『因みに……魔素が減った地域って?』
『あー……それは一応話しちゃいけねぇことになってる。悪ぃな』
『いや、大丈夫……』
言葉を濁されてしまったが、俺が異世界転移してきた地……ディユの森の辺りなのではないかと思う。遠い場所ならノイに住むアルマが魔素の減少を感じられるとは思えないし、調査にも駆り出されれないだろう。
『ま、調査に行ったはいいものの、魔素が減ったせいなのか強い魔物共が暴れまわったりして全く調査にならず、何とか調査を続行したものの結局原因は分からなかった』
『大規模魔法が使われた痕跡とかなかったの?』
『なかったな。例えば火の魔法なら辺り一面吹き飛んでたり、大規模魔法は結構な痕跡が残るもんだ。調査に行った地域は、魔素が減った以外は辺りに変わった様子もなかった』
―― 変わった様子……俺が異世界からこの世界に来ていることが、その魔法の結果なのではないだろうか。
そう思い、改めてアルマに異世界のこと、俺が異世界から来たのがその魔素減少に関係しているのではないかと聞いてみる。
『あのさ……前にも話したけど、俺はこの世界とは異なる、別の世界から来たんだ。その、魔素が急激に減った事件で……誰かが異世界とこの世界を繋ぐような魔法を使ったんじゃないかな? それで魔素が急激に減って、俺がこの世界に来たんじゃないかと思ったんだけど……』
俺の考えをアルマに話すも、アルマは眉を寄せ、納得できないという顔をしている。
『確かにトワが言ってた時期とタイミングはあう。魔素の減少とトワがこっちの世界に来たことは、きっと何か関係してるんだろうとは思う。けど俺は、魔法でトワがこの世界に来た可能性は低いと思っている』
『魔素の減少と俺の異世界転移が関係してると思うけど……魔法ではない?』
アルマの言っている意味がよく分からず、俺は首を傾げる。
『魔法っつーのは、体内にある魔力と大気中にある魔素を使って起こす現象だ。例えば火を出したい時は、体内の魔力を使って魔素を火に変換する』
『なるほど……火に変換された魔素はなくなるってことだよね?』
『そうだ。だから大規模魔法を使った後は魔素が薄くなる』
例えば物凄く大きな火を出そうとしたら、それだけ魔素を変換するということだ。火を出し終われば、一時的にその場の魔素は減少する。
『で、だ。トワの言ってる異世界転移だが、魔素を一体どうやって変換するんだ? 俺が知ってる限り、知らない物に魔素を変換することは出来ない。別の世界にいるトワをどうやって魔素で変換するんだ? トワの世界には魔法がないんだろう? どうやってトワの世界とこの世界を繋げるんだ?』
次々と疑問を投げかけられ、頭が混乱する。
『いいか、トワ。魔力や魔法は何でも出来る万能な力というわけではないんだ。ちゃんと法則があって、その法則に則って魔素が変換される。トワが言っているような魔法は有り得ない 。非現実的だ』
アルマ曰く、魔素は見えにくいだけで確かに存在する物質とのことだ。そして様々な法則に従い、その状態を変化させるものらしい。
魔法のある世界で "非現実的" と言われると思わなかったが、そう説明されると反論出来ない。
『あー……だからアルマはレアーレの冒険に出てくる、女神様がレアーレを家に帰した魔法も有り得ないって言ったのか……』
『そうだ。あれはお伽話だろう』
アルマには一度、レアーレの冒険のことも、その中に出てくる女神様が使ったレアーレを家に帰した魔法のことも質問している。その時もアルマは『お伽話だろう』『そんな魔法は有り得ない』と言っていたのだ。
街の人達にも同じことを言われたため、深く気にしていなかったが、アルマには有り得ないと言うだけの知識と根拠があって発した言葉だったようだ。
『で、でも、レアーレの冒険は実体験を元に書かれているって言ってる人がいたけど……』
フードの男の言葉を信じるなら、レアーレの冒険は実話のはずだ。ならばアルマが有り得ないと言っている、レアーレを家に帰した魔法も存在するのではないだろうか?
『実体験んんん? 誰がそんなこと言ってたんだ?』
『いや……それは……その……通りすがりの……人?』
『何だそりゃ? 大体本当に全部実体験なのか? 一部創作とかじゃなくてか?』
『う……そ、そこまでは分からないけど……』
アルマは胡散臭げにこちらを見ながら、質問を重ねる。詳細を聞く前にフードの男がいなくなってしまったため、どこからどこまでは実体験だったのかまでは分からない。
『ま、本当にそんなことが出来るなら、世の中便利になるだろうな』
アルマはまるで信じていないようで、空想上の夢物語のように話す。少し残っていた希望まで粉々に砕かれた気分で、反論したいのだが反論出来るネタがなく、少し悔しくなる。
―― く、くそ……! フードの男、次に会ったら絶対根掘り葉掘り聞き出してやる……!
俺は心の中でフードの男に思いっきり八つ当たりをした。