028【321~340日目】フードの男再び
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音楽プレーヤを使用した異世界コンサート、そして有志による異世界テレビ番組風動画。これらを提供したところ、リバーシ以上に大反響だった。
提供開始初日からノイの平民街で話題になり、10日経った今では、住人の会話の殆どがコンサートの内容か動画の内容になった。
俺が街を歩けば至る所で『あの "キョク" がよかった』『同じ "アーティスト" の曲はないのか』『あの "ドウガ" がよかった』『あの "ドウガ" の続きが見たい』と声をかけられ、一歩ごとに誰かにコンサートや動画の感想を言われるといっても過言ではない状態だ。
……
『いやー……大成功だな、コンサートと動画』
『そうだなー……いやー、予想以上だったな……』
『……うぅ…… 私……もう、外を歩けないよ……』
コンサートと動画の提供開始から10日目。
俺、フレド、ティミドの3人は、次の作戦会議を開いていた。
フレドとティミドは、外を歩くと皆に『ドウガ見たよ!』『素敵ね! フレド王子、ティミド姫!』等と声をかけられるらしく、フレドは平気そうだが、ティミドは恥ずかしさで死にかけていた。
スティードやソルダもファンが出来たらしく、外を歩くと女性に黄色い声を上げられたり、男性に野太い声を上げられたりすると苦笑していた。
『すごいな……まるで "芸能人" だ……』
『"ゲイノウジン" って?』
『あー……俺の故郷で動画に出て有名になった人……かな?』
『あぁ……ゲイノウジン、大変だな……』
そんな話をしつつ、俺は動画に顔出ししなくてよかったな……と安堵していた。
『で、どうする? 次の動画撮るか?』
『そうだなー……』
『は、はやく撮ろ? こ、今度は私裏方をやるから……!』
俺が次の動画の話を振れば、ティミドは早く自分の動画を過去の物にしたいようで、全力で同意してくる。
『どんな動画を撮るかが問題だよな……』
『人気あるドウガ多いしなー』
『……続き、見たいって言われるドウガ、多いよね……』
時間もタブレットのデータ容量も無限にあるわけではないので、人気動画を厳選して撮りたいところだ。
『ホールから出て来た人達に直接聞くか? 一番人気だったドウガからどんどん続き撮れば良くないか?』
『なるほど、それいいな』
『……わ、私もそれでいいと思う……』
フレドの案に俺とティミドも賛成し、動画の次回作はアンケートを取って決めることになった。
動画は方針が決まったので、俺は話題をコンサートの方に移す。
『コンサートの方って2人は顔出した?』
俺は一度様子を見るためにコンサートの方に顔を出したのだが、曲のリクエストをしたいのであろうお客さん達に周りを囲まれ、様子が全然分からなかった。
2人にコンサートの様子を聞いてみれば、ティミドは顔を出していないようで『ご、ごめんなさい……』と俯いて謝っていた。フレドの方は当然の如く顔を出したようで『あっちも繁盛してたぜ』と言いつつ、中の様子を教えてくれる。
『フレド……お前よく中に入れたな……』
『俺も囲まれたけど、コンサートの方は関わってないって言ったら散って行ったぜー』
『うわ、お前コンサートの方も結構関わってるくせに……』
流石はフレドだ。立ち回りが上手い。
『中、面白いことになってたぜ? 歌を覚えた奴が皆で歌ったりしてた』
『マジか! その人達に感謝だな……!』
コンサートのホールは動画のホールよりも少し小さめで、音楽プレイヤーの内臓スピーカー音量を最大にして再生していた。
人が沢山いたら後ろの人に音が聞こえないかと不安だったのだが、どうやら合唱のように歌ってくれる人がいるらしい。
『あとは皆からトワに伝言。好きな雰囲気のキョクだけ聞ける日が欲しいってさ。やっぱキョクによる違いが結構あるらしい』
これは俺がノイの街を歩いていた時もよく言われたことだ。クラッシックやバラード、ロックやポップス等、俺の音楽データは多岐にわたる。曲調で好みが分かれるようだ。
『これも、どの曲調が一番人気か聞くか。これまで通り色んな曲調のコンサートの日と、それぞれの曲調だけ集めた日、行きたいと思う順に番号を書いてもらう感じかな?』
『そうだなー』
『……そうだね。私も皆に聞くの、お手伝いするね……!』
俺がコンサートの方もアンケートを取る方針で行くかと問えば、2人が賛成してくれる。これでコンサートの方も動画と同様に方針が決定した。
『じゃ、質問を用意したら早速各ホールの前で待ち伏せするか!』
……
それから数日後、3人で質問内容を話し合い、アンケート用紙……ならぬアンケート板用意した。
『……ひ、人……多そうだね……』
抽選に勝った人達がホールに入っていくのを見届け、俺達3人はホールの前でこっそりと待つ。ティミドは不安げにしながらアンケート板をぎゅっと握りしめていた。
『大丈夫だよ、ティミド 。俺が付いてるだろ?』
『ハイ、ソコ、人前でイチャイチャしない!』
フレドが不安げなティミドの肩を抱く。俺は即座に2人を注意した。俺の精神のためにも、イチャイチャするのは2人っきりの時にして頂きたい。
『へーへー。……お、そろそろ皆出てくるぜ?』
フレドが声を上げる。いつの間にか動画が1本終わったようだ。
『すみませーん! 次の動画に関して質問させてくださーい!』
俺は声を上げつつ、ホールから出てきた人達に声をかける。俺の声であちらも俺達3人の姿に気付いたようで、物凄い勢いで囲まれて周りには人の壁が出来上がる。
『お、押さないで! 順番に、順番に聞きます!』
『……あ、あの……! 落ち着いてください……! あ、あの……!』
『並んで! 順番に! 囲まないで!』
次の動画と言ってしまったのが悪かったのか、皆我先にと言わんばかりに詰め寄ってくる。俺達は人の波に飲まれつつ、必死に声を上げる。
そんな時、人の壁の向こう側を1人の男が静かに通り過ぎていく。その男はこちらを一瞬見つめ、すっと目線を外して歩き出す。
「あの時の……! フードの男……!」
その男の姿は、第4回目のリバーシ大会の時、レアーレの冒険が実話だという衝撃的な情報だけ残して消えた、怪しげなフードの男にそっくりだった。
俺は今度こそ逃がすまいと必死に声を上げ、人混みをかき分ける。
『待て……! 待ってくれ……! 聞きたいことがあるんだ……!』
しかし、周りが騒がしすぎて俺の声が聞こえていないのか、フードの男はこちらを振り返ることなく、足早に立ち去ってしまう。
『待って……! 頼む……! 待ってくれ……!』
俺は周囲の人に必死に『すみません、どいて下さい、通して下さい』と繰り返し、人混みをかき分けるも、かき分けてもかき分けても次から次へと人が来て、前に進めない。
何とか人混みの外に出れた時には、フードの男の姿は影も形もなかった。
「また……話を聞けなかった……」
意気消沈しつつも、俺は状況を思い出し、本来のアンケート作業に戻る。
フードの男も動画を見に来ていたようだ。と言うことは、抽選結果に名前が残っている可能性が高い。抽選を行う際、各自の名前を控えて貰っていたのが功を奏した。
名前が分かれば街の人に聞いて、直接会いに行くことも出来るだろう。
「やっと……フードの男に話を聞けるかもしれない……!」




