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平凡サラリーマンの絶対帰還行動録  作者: JIRO
第8章【ドラーク編】
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お久しぶりです…!更新が遅くなり申し訳ありません!

こんなにも間が空いてしまったにも関わらず、活動報告等でコメントくださった方々、待っていて下さった方々、本当に本当にありがとうございます!




『ファーレスッ!!!』


 周囲の熱気を吸い込みながら、必死にファーレスの名前を叫ぶ。恐らく竜の視線の先にファーレスがいるはずだ。フィーユに距離をとるよう促しつつ、魔石銃の引き金を引く。少しでも竜の気を引き、判断を鈍らせることが出来ればいい。

 魔力の弾が瞳に当たり、竜が憎悪に満ちた視線をこちらに向ける。

 しかし、次に大きな一撃を放てば邪魔者を一気に消せると理解しているのだろう。魔法を放つ準備を止める様子はなく、周囲の魔素を集めるように大きく息を吸い込む。竜の口内に白い光がじわじわと溜まっていく様が見える。


『トワ! 封印のとこまで……! はやく……!』


 俺が竜の気を逸らしていた間にファーレスと合流したフィーユが焦るように叫ぶ。


『分かってる!』


 フィーユの声に呼応するように叫びつつ、俺もファーレスとフィーユがいる方に走る。ファーレスは「遅い」と言わんばかりに、フィーユを脇に抱え、肉体強化した走りでこちらに近づき、俺の体も軽々と脇に抱え込む。


『ファーレス! あっち!』

『……あぁ』


 俺の体を抱えたことを確認したフィーユが、すぐに進むべき方向をファーレスに示す。短くいつもの返事を返し、ファーレスも示された方向へ即座に進んでいく。


―― 頼む……! 間に合ってくれ……!


 竜が魔法を放つ準備を整えるまでに封印の場所まで戻り、再封印を終えることが出来るかは、正直賭けだ。ファーレスもそう感じたからこそ、自分の身を犠牲にし、少しでも賭けの勝率を上げるために時間を稼ごうとしたのだろう。

 封印の準備はフィーユ達が整えてくれているが、再封印完了までどのくらいの時間がかかるかも分からない。封印に最後の魔力を通すだけだとしても、数秒はかかるだろう。その数秒、数分が俺達の命を分ける。


『……ファーレスまで、無茶、しないで……!』


 ファーレスを抱きしめるようにしがみつきながら、フィーユが泣きそうな声で呟く。


『……あぁ』


 無茶をした自覚はあるのだろう。ファーレスは走る速度は落とさないまま、少し気まずげな声音で頷く。


『ファーレス……がんばって……! すぐ封印の場所のはず……!』


 フィーユは封印がある方向を見据えながら指をさす。肉体強化をしたファーレスの足でなら、封印の場所に戻るのも早い。

 場所についたらすぐ封印へ魔力を注げるよう、一番効率的な行動が出来るよう考えているのだろう。フィーユはぶつぶつと小さな声で手順を確認するように『まずはああして……こうして……』と呟いている。魔力を持たない俺では何の力にもなってあげられないことが歯痒い。


『ファーレス! あそこ!』


 フィーユの指さす方向に様々な記号のようなものが刻まれた岩が見えてくる。封印の要となっている岩だ。フィーユやセイの話によれば、壊す前のように島の広範囲を囲む完全な封印は難しいようだが、封印対象である竜自体の魔力が減っていることもあり、範囲を狭めればある程度の期間竜を閉じ込めるくらいは可能だろうとのことだ。


『フィー……! いそ……で!』

『きゅー!!』

 

 途切れ途切れの声でセイがフィーユを急かす。焦るフィーユを応援するようにもちも必死に鳴き声を上げている。

 封印の要となる岩の前に降ろされたフィーユが、真剣な表情で岩の前に手をかざす。恐らく、封印に魔力を込めているのだろう。集中したフィーユの邪魔にならないよう、俺は両手を強く握りこみ、心の中で必死に「間に合ってくれ……!」と祈る。


 『竜……ッッ!!! まず……ッッ!!!』


 フィーユの封印の手助けをしていたであろうセイが、途切れ途切れに叫ぶ。周囲の魔素の様子から、竜の魔法の準備が整ってしまったことを察したのだろう。


『フィーユ! 間に合いそうか……!?』

『もう……ちょっと……! お願い……!』

 

 俺の問いかけに対し、フィーユが泣きそうな声で『間に合って……!』と祈るように叫ぶ。


『も……来る……ッ!!! みん……逃げてッッ!!!』


 セイの必死の叫び声が木霊する。

 周囲の大気が揺れる。

 魔素を感じ取れない俺にさえ異様な空気が伝わってくる。


 ファーレスがすぐにでもこの場から離れられるよう、俺とフィーユの腕をつかんだ瞬間だった。


『きゅ――――――――――――――ッッッ!!!!!!』


 バッと白い塊が竜のいる方向に向かって飛び出す。

 

『もちッッッ!?!?!?』


 俺は目を見開き、もちを捕まえようと手を伸ばすが、傾斜と勢いを利用しもちは物凄い勢いで転がっていく。


『もちッ!? 戻れッ! もちっ! もちッッッ!!!』


 必死に叫び、もちを追いかけようとする俺の体を、ファーレスがグイっと引っ張る。


『ファーレス! 離せ! もちが!!!』


 しかし、ファーレスは俺の体とフィーユの体を素早く抱え上げ、竜のいる方向……もちの飛び出していった方向とは逆の方向に走り出す。


『ファーレス!?』

『ファーレスッ!? 何してんだよ……! もちが……! 封印もまだ……!』


 封印が終わった様子はなかった。作業途中で抱え上げられたフィーユも目を見開き、ファーレスの方を見る。




『来る……ッッッ!!!』




 セイの必死の叫び声が聞こえる。

 周囲の景色が物凄い勢いで流れていく。



―― はるか後方で、ここまで届くはずのないもちの鳴き声が聞こえた気がした。




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