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平凡サラリーマンの絶対帰還行動録  作者: JIRO
第8章【ドラーク編】
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 元々予定していた通り、全速力でフィーユ達のいる封印の場所まで戻る。はぁはぁと乱れた呼吸を整えながら、俺は叫ぶようにフィーユに問いかける。


『ファーレスは……!?』


『まだ……! 戻ってこないの……! どうしよう……!? 閃光弾、見えてないのかな……!?』


 フィーユは泣きそうな声でそう言うと、ぎゅっと俺にしがみつく。

 もちとセイが一緒にいたとはいえ、俺とファーレスが側にいないことが不安だったのだろう。


 俺はフィーユの頭を撫でながら、必死にファーレスと連絡を取る方法を考える。

 封印の準備が整っても、ファーレスが中にいるまま再封印なんてできない。ファーレスまで竜と一緒に閉じこめられてしまう。


『セイ……! ファーレスと会話は可能か……!?』


『ごめ……! ま……乱れ……、むり……う……!』


 途切れ途切れにセイが答える。やはり周囲の魔素が乱れていて、セイの力で連絡を取り合うのは厳しいようだ。


『フィーユ、ファーレスの魔力はまだ感じられるか? 』


『ごめん……ファーレスの魔力は小さくて……今の私じゃ……』


 フィーユは封印のために殆どの魔力を使い果たしている状態だ。普段は感じ取れるファーレスの魔力も、今は感じ取るのが難しいようだ。


『いいんだ……ごめんな。じゃあ、竜の魔力はまだ感じられるか?』


 魔力を使い果たして辛いだろうに、フィーユは真剣な表情で辺りを探る。

 通常、魔力感知は無意識に常時発動しているセンサーのようなものらしい。しかしフィーユは意識的に魔力感知を操作し、無駄を減らして感知距離を伸ばす等の鍛錬を日々重ねてきた。今も残り少ない魔力を上手く操作しているのだろう。


『大丈夫……! まだ感じられる……! あっちの方にいる……! 音と光を上げた時、竜は1回こっちに向かって来たの……でも、また遠くに行ってるみたい……』


『多分、ファーレスが遠ざけてくれたんだろうな……』


 音と光を上げることで竜が封印の方へ向かうことは予想していた。竜が封印へ来るより先に俺達が封印の外に出て、再封印出来るかは賭けだった。


 ファーレスは封印と竜の位置、そして竜の移動速度、これらを鑑みて竜が封印に辿り着く方が早いと判断したのだろう。そして竜がこちら側へ向かわないよう、封印とは逆の方へ竜を誘導してくれたのだと思う。


 ―― クソ……! 無理するなって言ったのに……! 「あぁ……」って返事したくせに……!


 恐らくファーレスは自分自身を切り捨てるつもりだ。自分ごと再封印しろと言ってるのだ。


 ―― ファーレスは封印から出られない……!


 封印に閉じ込められても、魔力のない俺なら外に出られる。封印の中に残るならば、俺でなくては駄目だ。


『フィーユはここで待機しててくれ! ファーレスはきっと竜の近くにいる! 俺がファーレスを連れてくる!』


『私も行く!』


『でも……』


 俺は魔力がないので竜に近付いても気付かれることはないが、フィーユは気付かれてしまうだろう。ただでさえフィーユは魔力を消耗している。連れて行っても危険に晒すだけだ。


『お願い……トワ! 待ってるだけはもう嫌なの……! 絶対役にたってみせるから……!』


 フィーユがカタカタと震えながら俺にしがみつく。ひとりで待っているのが余程不安だったのだろう。フィーユにとって待つという行為はトラウマとも言える。

 フィーユをここに残し、彼女だけが助かったとしても、それはフィーユにとって救いなのだろうか?



『……ずっと一緒、だもんな……』



 その言葉に、フィーユがパッと顔を上げる。俺はそっとフィーユの手を取り、安心させるように頭を撫でる。


『……ファーレスのとこへ急ごう!』


『うんっ!』



 * * *



 息をするたび、肺が熱い。

 ダラダラと流れて落ちる汗を拭いながら、フィーユの魔力感知を頼りに竜に近付く。既に竜を目視できる距離まで近づいているが、竜も疲労しているのか、怒りに我を忘れているのか、まだこちらに気付いていないようだ。


『フィーユ、もち……大丈夫か?』


『平気……すっごく熱いけど……大丈夫……!』


『きゅっ……!』


 今歩いている辺りは、竜がどデカイ一撃を放ったあとのようだ。もしかしたら魔素が乱れているおかげで、フィーユの魔力が竜に感知されていないのかもしれない。周囲の空気は熱を帯び、俺達の肌を焼いていく。


『竜がここにむけて魔法を放ったってことは……ファーレスも、この辺にいるはずだ……』


 はぁはぁと息を切らしながら、俺は言葉を紡ぐ。呼吸をするたびに体力が削られていく気がする。早急にファーレスを見つけないと俺達も共倒れだ。


『……いた!』


 神経を研ぎ澄ませ、周囲に魔力感知を行っていたフィーユがバッと顔を上げる。ファーレスを見つけたようだ。


『こっち!!!』


 疲労を忘れたように、フィーユが勢いよく走り出す。竜の様子をチラリと窺えば、竜は呪詛のように低い鳴き声を上げ、再び魔法を放つ準備をしているようだった。


 ―― でも、相当疲労してる……よな?


 明らかに最初よりも進む速度が落ちているし、なんというか竜の身体全体からぐったりとした雰囲気が伝わってくる。

 あの凶悪な一撃は竜にとっても負担が大きいのだろう。体感だが、魔法を放つ間隔も一撃放つごとに長くなっているように感じる。


 ―― 次の魔法が来るまでになんとかファーレスと合流して、封印を抜ける……!




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― 新着の感想 ―
[一言] 最近読み始めたのですが、今年の1月を最後に更新が止まっていて残念に思っています。ご無理をなさらずに、でも続きをお待ちしていますね♪
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