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平凡サラリーマンの絶対帰還行動録  作者: JIRO
第8章【ドラーク編】
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日々読んで下さりありがとうございます。感想やFA、レビュー、ブクマ、評価、本当に励みになっております!更新が遅くなり申し訳ありません!





 

 * * *


『――…… じゃあ、手筈通りに……』


 俺の言葉に、フィーユ達が頷く。封印のある場所まで戻って来た俺達は、フィーユとセイをその場に残し立ち上がる。

 フィーユ達には再封印を担当して貰うので、この場所で作業をして貰う必要がある。幸い、竜の進行速度は早くないようで、まだここまでは来ていないようだった。


『行こう、ファーレス』

『……あぁ』


 では封印担当ではない俺達はどこで何をするのか?

 答えは簡単だ。竜が封印の外に出ないよう、囮になるのだ。


 折角封印を直せたとしても、竜が中にいなくては意味がない。竜を封印に近付けないよう、そして竜が封印の外に出ないよう、竜の位置を調整する。


 再びファーレスに運んでもらい、竜がいるであろう方向へ進んで行く。

 封印のある場所から離れ、高台を選んで移動し、時々魔石銃のスコープを望遠鏡代わりに覗き込む。


 ―― いた……!


 相手がデカブツだったのは幸いと言えるかもしれない。まだスコープ越しでも小さいが、竜の姿を捉えることが出来た。ファーレスに竜の発見を伝え、一度地面に降ろしてもら。


『ファーレスの魔力感知内には入ってるか?』

『……いや』


 俺はその返答に頷きながら、スコープ越しに見えた竜の位置を手早く伝える。


『もう少し近付くか?』

『……あぁ』


 魔力感知内に入っている方が相手の動きを把握出来て動きやすいだろうが、 フィーユに比べるとファーレスの魔力感知範囲は狭かったはずだ。

 ファーレスの魔力感知内に入るということは、それだけ竜がファーレスに近付くことになる。近付けば近づく程、危険も多いはずだ。


 俺もファーレスについていこうとしたが、お前の位置はここだと言わんばかりに、そっと肩を押さえられる。

 確かに俺の魔石銃ならここからでも射撃は可能な上、近付くメリットはない。

 近付いたところで足を引っ張るだけだとは分かっている。分かっているが、危険な場所に進むファーレスを見送ることしか出来ないことが、ただ歯がゆい。


『……無理は、するなよ?』

『…………あぁ』


 無理をするつもりがあったのか、ファーレスが少し間を開けていつもの返事をする。「あぁ」というたった二言なのに、心なしか返事からも動揺を感じる。

 なんというか嘘の付けないその態度に、思わず笑みがこぼれる。


『じゃあ……またあとでな』

『……あぁ』


 今度は迷いなく強く頷くと、ファーレスの姿が消える。

 いや、消えたのではない。動きが早すぎて、消えたように見えただけだ。



「俺も……俺の仕事をしないとな……!」



 * * *



「……この辺でいいだろ」



 少し移動した場所で再度魔石銃を構え、スコープを覗き込む。先程よりも鮮明に、竜の姿がスコープ内に映る。

 ふぅ……っと息を吐き、深呼吸するように大きく息を吸い込んだ後、引き金を引く。


 ―― パンッ!


 森の中に鋭い銃声が響き、俺の撃った弾が竜の瞳にヒットする。

 ダメージを受けたような反応はないが、魔力の弾がヒットした瞬間、目にゴミが入ったかのようにほんの少しだけ不快気な態度を見せていた。


 俺の銃声を合図とするように、ファーレスがいる方向からもピィッ!と鋭い笛の音が響く。

 ファーレスは自分の存在をアピールするように、笛の音を響かせながら森の中を移動していく。まるで竜を煽るかのように鳴り響く笛の音に、竜は怒りに満ちた鳴き声を上げ、笛の音が響く方へ眼を向ける。


 ―― 釣れた!


 作戦通り、竜は囮である笛の音……ファーレスに気を取られ、進行方向を変えていく。人と同じ言葉を操るはずの竜が、言葉にならぬ低い鳴き声を上げ、笛の音がするほうへ進んで行く。恐らく怒りで我を忘れているのだろう。


 俺は魔石銃のスコープを覗き込み、再び竜の巨大な眼球に照準をあわせる。


 俺の放つ一撃なんて、竜にとって何のダメージもないだろう。

 けれど、それでも、目にゴミが入ったら異物感に気を取られ集中が途切れるように、ほんの少しでも竜の気を逸らすことが出来ると信じて、俺は狙いを定め、引き金を引く。


 緊張と恐怖で手が震える。この一撃で、竜がファーレスの方ではなく、俺の方に来たらどうする?


 自分が狙われた場合、ファーレスと違い俺には逃げる手段がない。

 フィーユとセイは再封印の作業中で遠くにいるし、ファーレスは俺と逆方向に竜をおびき出そうと走っているため、万が一俺が狙われても助けは間に合わないだろう。ゴクリと唾を飲み込む。酷く喉が渇く。


 ―― 大丈夫、大丈夫、大丈夫……


 自分に言い聞かせ、手の震えを無理やり押さえつけながらまた引き金を引く。


 ―― パンッ!


 いつもと同じ銃声が、いつもより大きく聞こえる。

 この音は竜にも聞こえているのだろうか?


 ―― 人と竜の間に……何があったんだ……?

 ―― 何であの竜はあんなにも……人を憎んでいるんだ……?


 銃を構えながら、竜について考える。


 ふと、ノイの街にいた頃、言葉の練習をかねてレイに読み聞かせていた物語を思い出す。女神様の出てくるレアーレの冒険……そして別の物語にあった、勇者や竜の出てくるお話。レアーレの冒険に出てきた "女神様" は、多少の違いはあれど実在した。


 ―― もしかして、勇者や竜の物語も……実際にあった話なのか……?


 あの時は帰還の参考になりそうな情報を中心に探していたので、気にも留めていなかった。よくある作り話だとしか思っていなかった。


 ―― 思い出せ……あれは、どんな話だった……?


 必死に海馬を唸らせる。

 よくある話だと、どこの世界でも似たような話が多いんだなと感じた話を、必死に必死に記憶の底から引っ張り上げる。


 ―― 昔々から始まる、よくある勧善懲悪の話。良い行いをすれば幸せになり、悪い行いをすれば罰が当たる……そんな話だった。


 記憶を、繋ぎ合わせる。



 ―― あぁ、そうだ……思い出した。




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