表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平凡サラリーマンの絶対帰還行動録  作者: JIRO
第8章【ドラーク編】
187/194

173

日々読んで下さりありがとうございます。感想やFA、レビュー、ブクマ、評価、本当に励みになっております!更新が遅くなってすみません!




 

『だから……最後まで一緒に頑張ろう?』


 フィーユは右手できゅっと俺の手を握り、反対の手でファーレスの手を握る。そのままそっと小指を絡めると、『……約束』と小さく呟く。


『考えてる時間もないし、考えたって答えなんてきっと出ないし……やるだけやって、ダメだったらその時考えよっ!!』


 フィーユが殊更明るい声で俺の背中を押す。

 分かっている。悩んでいたって状況が良くなるわけではないし、寧ろ状況は悪化していく。


『……でも、やっぱり……皆は逃げ――』


 逃げてくれと言葉を続けようとしたところで、もちが突然俺の足にガブリと噛みつく。いきなり過ぎるもちの行動に戸惑っていると、正面からフィーユの拳が俺の腹を目掛けて飛んでくる。それで終わりかと思えば、最後にファーレスから頭部にチョップを食らった。


『もーっ!! しつこーいっ!!!』


 ボスっと俺の腹をもう一度叩き、フィーユが叫ぶ。


『トワ、うだうだしすぎ! 行くぞって格好良く私達を引っ張ればいいのっ!』


『け、けど……皆を巻き込むのは……』


『いーのっ!!』


 俺の言葉をかき消すように、フィーユがキッと俺を睨みつけて言葉を重ねる。


『なんとかしたいって思ってるんでしょ?! 行動したいって思ってるんでしょ!? ならやるだけやってみよ! やらなかったらきっと後悔する! あの時こうしとけば良かったって……きっと思う!  ううん、絶対思う!』


 絶対に意思を曲げないと主張するように、フィーユが強い眼差しで俺を見つめる。俺は何度も言葉を言いかけては止め、迷い、躊躇った後、ポツリと呟く。


『……本当に、いいのか?』

 

『いいって言ってるでしょーっ!!』


 もう一度フィーユに『しつこいっ!』と怒られ、ファーレスにも呆れたように軽く頭を叩かれる。


『……ごめん』


 ―― 覚悟を決めるのが遅くてごめん。

 ―― 決断するのが遅くてごめん。

 ―― 情けない奴でごめん。


 ―― 逃げようとして、ごめん。

 

 そんな俺の様々な気持ちが含まれた謝罪に対し、フィーユが二っと笑う。


『いーよっ!』

 

 ファーレスもフィーユの言葉に同意するように、俺の背中をポンっと叩いて押し出す。

 

『きゅっ!』


 もちも今度は俺の足を噛むことなく、応援するように飛び跳ねてくれる。

 

『あ、でも、危ないって思ったらすぐ逃げようね! 私達だけでなんとかならなかったら、他の人の力を借りよ!  すっごく怒られちゃうかもだけど……私たちも一緒に怒られるから!』

『……あぁ』

 

 逃げてもいいんだからねと伝えるように、フィーユが冗談めかして笑う。

 ファーレスも一緒に怒られてくれるという意味なのか、任せろという雰囲気で頷く。何故か怒られることに対して、妙に自信満々に見えるのは気のせいだろうか?

 

『ま~主に怒られるのは封印壊したボクだと思うけどね~』

『きゅー!』


 セイがふわふわとした口調で口を挟む。自分も同罪だというように、もちも大きく鳴き声をあげる。


『今回はたまたまセイが封印を壊したけど、私も同じ立場ならきっと壊したし……ファーレスだってそうでしょ?』


『……あぁ』

 

『ほら、だからみんな同罪っ!』


 フィーユは明るい口調でそう言った後、俺の手を握り締め、静かな声で言う。


『だからね……トワが悪いんじゃないよ。トワだけが悪いなんて……そんなんじゃないよ 』

 

 フィーユの方を見れば、目が潤み、かすかに声が震えている。

 幼い少女に庇って、慰めてもらって、情けない気分になりつつも、心の中が温かいもので満ちていくのが分かる。



『……ありがとう』



 俺の言葉にフィーユは驚くほど大人びた表情で微笑んだかと思うと、『よーしっ!』といつも通りの幼さの残る可愛らしい表情で気合の入った声を上げ、もう一度俺とファーレスの小指に強く自身の指を絡める。


『……約束っ!』


 満面の笑みを浮かべ、フィーユが「ゆびきりげ~んまん」と歌い出す。


『あ~仲間外れは寂しいなぁ~!』

『きゅっ!』


 セイともちが冗談交じりに不満げな声を挟む。もちはセイを口にくわえ、混ぜて混ぜてと言わんばかりにぴょんぴょん飛び跳ねている。

 フィーユはそんなもちの姿を見て笑顔を深め、もちを抱き上げると俺の方をビシッと指差す。


『ほら! セイともちもトワに怒ってるよっ!』

『えぇ……?』


 重苦しかった空気が和らぐ。

 俺は苦笑を浮かべ、もちの頭を撫でながら『ごめんな……?』と謝る。もちはしょうがないなぁといった様子で『きゅっ!』と鳴き声を上げ、俺の頭の上にぴょんっと飛び乗った。慣れ親しんだもちの重さが心地良い。


『大体さ~レンディスが突然いなくなるから皆動揺するんだよぉ~! まぁ魔力の詰まった魔石は残していったし~あんな奴いなくたってボク達だけで余裕余裕ぅ~!』


 セイは相変わらずレンディスさんのことがあまり好きではないようで、レンディスさんに対して辛辣だ。


『封印試してみて……無理そうだったら全力で逃げればきっと大丈夫だよ!』


『……あぁ』


『そうそう~! 駄目だったらカードル達もいるんだし~! ザソンとかもこき使えばいいよぉ~!』


『きゅっ!』


 フィーユ、ファーレス、セイ、もち、それぞれが俺の背中を押すように声を掛けてくれる。小指を絡め合ったまま、フィーユが拳を突き上げるように腕を上げる。



『じゃあ今度こそ、突撃ーっ!』




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ