表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平凡サラリーマンの絶対帰還行動録  作者: JIRO
第8章【ドラーク編】
184/194

170

日々読んで下さりありがとうございます。

感想やFA、レビューやブクマ、本当に日々励みになっております!


 

『封印が……ない……?』


 俺はあまりの事態に現実を受け止めきれず、ただ呆然としながら呟く。


『と、トワぁ……ごめんねぇ……あの時は魔素が乱れてて、ボクの力が使えなくて……封印を壊して助けを呼ぶことしか、思いつかなくて……』


 セイが途切れ途切れにその時の状況を説明してくれる。

 俺がセイ達を逃がした後、セイともちは何とか俺を救えないかと色々考えてくれたそうだ。そして辿り着いた方法が、内側から封印を壊し、外へ助けを求めることだった。


『トワが……それを望んでないのは……分かってた……! でも、ボクは……!』

『きゅー……!』


 セイともちが申し訳なさそうに言葉を紡ぐ。俺にセイ達を責めることなんて出来ない、出来るはずがない。セイともちのおかげで俺は今ここにいるのだ。


『セイ達のせいじゃない。ごめん……俺が、後先考えずに突っ走ったせいで……!』


 封印に入る前、もっとちゃんと考えればよかった。

 結論を急いで、色んなものから目を逸らして……その結果がこれだ。


『封印を……もう一度封印をし直すことは出来ないんですか……!?』


 俺はとにかく打開策を考えないとと、自分の頬を叩く。出来ることがあるならなんだってやる。一縷の望みをかけて問いかけるが、ソティルさんが少し俯く。


『……ここにいる全員の力を合わせても……もう一度あの竜を封印出来る可能性は……かなり低いです……』


 それだけあの竜の力は強大なのだとソティルさんが語る。


『そんな……』


 ガクリと膝をつき、悔しさで拳を握る。


『……俺のせいだ……! 俺のせいで……皆が……!!!』


 ここにいる人達だけじゃない。

 ノイやナーエ、ロワイヨムの人達……この世界の全ての人達に、危険が迫っている。俺の考えが足りなかったせいで。


 あの竜が島の外に出て、街に辿り着いてしまったらどうなるのだろう?

 一体何人の人が、犠牲になるのだろうか?


 俺の頭の中に、昔プレイしたゲームの1シーンが浮かぶ。


 暴れまわる竜。

 崩壊する街並み。

 逃げまどう人々。


 ―― そして、世界を救う、選ばれし勇者。


 ゲームは良い。

 どんなに強い敵が出て来ても、倒せない敵なんて出て来ない。何度やられたってリセットして、ロードして、リベンジして。

 ストーリーの進行上、プレイヤーが勝てないように設定されている戦いがあったとしても、それはただのイベントの一つだ。負けたって、決められたストーリーが進むだけだ。


 だけどこの世界は違う。

 竜が暴れまわれば大勢の人が死ぬし、街が崩壊すれば皆住む場所を失う。


 ―― そして、世界を救う、選ばれし勇者なんて、いない。


 今ほど自分に特別な力があったら……と思ったことはない。神でも、悪魔でも、魔王でも、なんでもいい。



「……何で俺には、何の力もないんだよ……っ!」



 自分の無力が憎い。

 思わず日本語で叫びながら、地面に拳を叩きつける。


「……つっ!」


 尖った小石にでもあたったのか、叩きつけた拳からタラリと赤い血が流れる。それを見たフィーユが俺の名を呼びながら、血の流れる拳をその腕に抱え込む。



『トワのせいじゃない……! トワのせいじゃないもん……!』



 俺の拳を抱きしめながら、フィーユが泣きそうな声で叫ぶ。



『トワの()()、なんて……! 俺の()()、なんて……言わないで……っ! 私は……! 私だって、セイの立場だったら同じことをしたもん……! トワの()()かもしれないけど、トワの()()じゃないもん……!』



 フィーユは目に涙を浮かべ、大きく息を吸って叫ぶ。



『私は私の意志で……! セイだってセイの意志で……! トワを助けたいって、助けるって決めたんだもん……!』



 いつも我儘らしい我儘も言わないフィーユが、まるで駄々をこねるように、この考えは譲らないとばかりに叫ぶ。俺を庇うように、守るように、フィーユがレンディスさんを睨みつける。


『……そうですよ、トワの責任ではありません。そもそもここにトワを導いたのは私ですから』


 ソティルさんがフィーユを落ち着かせるようにそっと撫でながら、穏やかな声で割り込む。更には自分にも責任があると示すことで、レンディスさんに対する牽制の意味も込めてくれたのだろう。


『それに、諦めるのは早いです。可能性は低いですが……ゼロではありません。相手の魔力を減らせば活路が見出だせるはずです。皆で協力すれば、きっと……!』


 ソティルさんはそう言って拳を握る。


『そ、そうだよぉ〜! 絶対成功するとは言えないけどぉ〜……試してみなきゃ分かんないもん〜!』


 セイもソティルさんの言葉に力強く同意する。


『きっと大丈夫だよぉ〜! 元々の封印式も使えるはずだし……周りの精霊も協力してくれるかもだし~!』


 暗い空気を吹き飛ばそうとしてくれているのか、セイはいつもの明るい調子で声を張り上げる。フィーユやファーレス、もちもセイ達の言葉に同意するように力強く頷く。


『そうだよ……! やってみなきゃ、分かんないもん……! やる前から諦めてちゃダメだよ……!』


『……あぁ』


『きゅっ!』


 状況は変わっていない。けれど確実に先程までと空気が変わった。皆が前を向き、竜に立ち向かおうと顔を上げる。俺もその空気に背中を押されるように、立ち上がり拳を握る。


 しかしそんな雰囲気を叩き壊すように、レンディスさんが苛ついた様子を隠さずに鼻で笑う。


『で? 試して駄目だったらどうするんだ? 先生も巻き込んで全員死ねと?』


 ソティルさんの姿を俺達から隠すように自身の方へ引き寄せながら、レンディスさんが前に出る。



『俺は御免だな、そんな馬鹿げた賭け!』



 ギロリと俺達を睨みつけ、レンディスさんが声を荒げる。


『レンディスッ! 何故貴方はそうやって憎まれ口ばかりたたくんですか!』


 ソティルさんが嗜めるようにレンディスさんの名を呼ぶ。

 いつもの光景だ。


 レンディスさんが悪態をついて、ソティルさんが叱る。いつもだったら、レンディスさんは俺達を睨みつつもソティルさんの意志に従う。ソティルさんの意に背くことなんて、絶対にしない。



 ―― そう、いつもだったら。



『先生は、黙っていてください』



 冷たい声で、レンディスさんがソティルさんに言い放つ。


『レン……ディス……?』


 ソティルさんの、戸惑った声が辺りに木霊する。




『……もう一度言います。先生は、黙っていてください』






すずみ様よりブクマ1000件記念のFAを頂きました!

すずみ様、素敵なイラスト本当にありがとうございました!m(_ _)m

イラスト集にUPさせて頂きました。

楽しそうにワイワイ野営するトワ達、見ていて本当に癒されます(*´ω`)


■絶対帰還行動録【イラスト集】

https://ncode.syosetu.com/n4742ep/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ