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平凡サラリーマンの絶対帰還行動録  作者: JIRO
第8章【ドラーク編】
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日々読んで下さりありがとうございます。

感想やFA、ブクマやレビュー、本当に励みになっております!


 

 俺の言葉にフィーユは嬉しそうな笑みを浮かべた後、鞄から魔力回復薬を何本も取り出し、グビグビと勢いよく飲み干す。


『ぷはっ! まだまだ行くよっ!』


 魔力を強制的に回復したフィーユは自分の足でしっかりと地面に立つと、荒々しく口元を拭いながら、キリッとした表情で『ファーレス!』と叫ぶ。

 ファーレスはフィーユの呼びかけに『……あぁ』といつも通り答えると、突然俺とフィーユの腰に腕を回し、そのまま俺達の身体を持ち上げて荷物のように小脇に抱える。


『ファ、ファーレス!? 何してるんだ!?』


 ファーレスの突然の行動に、小脇に抱えられた不安定な体勢のまま、俺は驚いて声を上げる。

 というか幼いフィーユだけならまだしも、成人男性である俺まで片手で抱えるなんて、どんだけ力持ちなんだ、こいつは……。

 魔力による肉体強化でもしているのかもしれない。


『ファーレス、準備いいっ!?』


 フィーユが再びファーレスに向かって叫び、ファーレスも『……あぁ』と答える。


『よーし……! ファーレス、いっけ―――!!』


 フィーユの気合の入った掛け声が響く。

 その声に答えるかのように、ファーレスが俺達を抱えたまま地面を勢いよく蹴り上げる。


『ひっ……!?』


 俺の引きつった叫び声を残し、ファーレスの体が、そして俺達の体が、空高く飛び上がる。


 ―― 落ちる……!


 そう思った時にはもう、ファーレスは俺達を抱えたままは空をを走り抜けていた。

 ファーレスの魔力量では道を作れないはずなので、恐らくフィーユが空中に道を作っているのだろう。魔法で肉体強化していると思われるファーレスは、物凄いスピードで道なき道を走り抜けていく。


 一体どれほどの速度が出ているのだろう?

 人間では到底出せるはずのない速度で、ファーレスはどんどん進んでいく。


『ファーレス、もうちょっと右!』

『……あぁ』


 この凄まじいスピードに合わせ、道を作っていくフィーユの集中力もすごい。

 ファーレスに抱えられた状態で器用にバランスを取りながら、フィーユは真剣な眼差しで前を見据えている。俺もまたファーレスに抱えられた状態で、2人の姿を見つめる。


 2人は真っすぐと進むべき方向を見据え、迷いなく進んで行く。



 ―― 怖く、ないのか?



 後ろには強大な力を持つ竜がいて、一歩でも踏み出す先を誤れば、地面に真っ逆さまだ。

 魔力感知で足場の位置を感じ取れるのかもしれないが、傍から見れば何もない空間に足を踏み出していくのだ。そこに足場があると、作られると、信じて。


 ―― 無理だ。俺には無理だ。


 泣きそうな気持ちで、俺は少しでも2人の邪魔にならないよう身を縮める。


 ―― なぁ、ふたりは怖くないのか?

 ―― 俺は怖い、たまらなく怖いよ。


 2人の存在を酷く遠く感じる。

 こんなにも近くにいるのに、俺だけが別の場所にいるみたいだ。



『ねぇ、トワ……手、握ってもいい……?』



 突然、小さな声でフィーユが問いかける。

 俺は慌てて返事をして、そっとフィーユの方に手を伸ばす。



『……ありがと』



 伸ばされた俺の手を見て、フィーユが呟く。フィーユもファーレスの邪魔にならない位置でそっと手を伸ばし、きゅっと俺の手を握りしめる。



 ―― フィーユの小さな手は、カタカタと震えていた。



 ハッとしてフィーユの方を見れば、フィーユは一瞬だけ俺の方に目を向け、恥ずかしそうに笑う。


 ―― 怖いんだ。

 ―― フィーユだって、怖いに決まってる。

 ―― 当たり前だ。


 何を勘違いしていたのだろう。

 フィーユやファーレスの凄さに圧倒されて、まるで2人が遠い存在になってしまったように感じていた。でも違った、違ったんだ。


 少なくともフィーユは恐怖を感じながら、それでも俺を助けるために、勇気を振り絞ってここにいるのだ。



『……ごめん、ありがとう』



 俺はもう一度感謝を伝え、フィーユの小さな手を強く握り返す。

 フィーユは少し驚いたようにこちらを見ると、ふにゃりと嬉しそうに笑い、小さく頷く。


『ファーレスも、来てくれて本当にありがとう』


 ファーレスにも改めて感謝を伝える。

 ファーレスは足を止めずチラリと俺の方に目を向け、『……あぁ』と小さく頷く。


 フィーユからもファーレスからも、怒りや恨みといったマイナスの感情は感じらない。俺を助けに来たことは……ここにいることは、当然で当たり前といった態度だ。

 そんな2人を見ていたらまた涙が零れそうになり、俺は必死に顔面に力を込めた。


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