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俺の言葉にフィーユは嬉しそうな笑みを浮かべた後、鞄から魔力回復薬を何本も取り出し、グビグビと勢いよく飲み干す。
『ぷはっ! まだまだ行くよっ!』
魔力を強制的に回復したフィーユは自分の足でしっかりと地面に立つと、荒々しく口元を拭いながら、キリッとした表情で『ファーレス!』と叫ぶ。
ファーレスはフィーユの呼びかけに『……あぁ』といつも通り答えると、突然俺とフィーユの腰に腕を回し、そのまま俺達の身体を持ち上げて荷物のように小脇に抱える。
『ファ、ファーレス!? 何してるんだ!?』
ファーレスの突然の行動に、小脇に抱えられた不安定な体勢のまま、俺は驚いて声を上げる。
というか幼いフィーユだけならまだしも、成人男性である俺まで片手で抱えるなんて、どんだけ力持ちなんだ、こいつは……。
魔力による肉体強化でもしているのかもしれない。
『ファーレス、準備いいっ!?』
フィーユが再びファーレスに向かって叫び、ファーレスも『……あぁ』と答える。
『よーし……! ファーレス、いっけ―――!!』
フィーユの気合の入った掛け声が響く。
その声に答えるかのように、ファーレスが俺達を抱えたまま地面を勢いよく蹴り上げる。
『ひっ……!?』
俺の引きつった叫び声を残し、ファーレスの体が、そして俺達の体が、空高く飛び上がる。
―― 落ちる……!
そう思った時にはもう、ファーレスは俺達を抱えたままは空をを走り抜けていた。
ファーレスの魔力量では道を作れないはずなので、恐らくフィーユが空中に道を作っているのだろう。魔法で肉体強化していると思われるファーレスは、物凄いスピードで道なき道を走り抜けていく。
一体どれほどの速度が出ているのだろう?
人間では到底出せるはずのない速度で、ファーレスはどんどん進んでいく。
『ファーレス、もうちょっと右!』
『……あぁ』
この凄まじいスピードに合わせ、道を作っていくフィーユの集中力もすごい。
ファーレスに抱えられた状態で器用にバランスを取りながら、フィーユは真剣な眼差しで前を見据えている。俺もまたファーレスに抱えられた状態で、2人の姿を見つめる。
2人は真っすぐと進むべき方向を見据え、迷いなく進んで行く。
―― 怖く、ないのか?
後ろには強大な力を持つ竜がいて、一歩でも踏み出す先を誤れば、地面に真っ逆さまだ。
魔力感知で足場の位置を感じ取れるのかもしれないが、傍から見れば何もない空間に足を踏み出していくのだ。そこに足場があると、作られると、信じて。
―― 無理だ。俺には無理だ。
泣きそうな気持ちで、俺は少しでも2人の邪魔にならないよう身を縮める。
―― なぁ、ふたりは怖くないのか?
―― 俺は怖い、たまらなく怖いよ。
2人の存在を酷く遠く感じる。
こんなにも近くにいるのに、俺だけが別の場所にいるみたいだ。
『ねぇ、トワ……手、握ってもいい……?』
突然、小さな声でフィーユが問いかける。
俺は慌てて返事をして、そっとフィーユの方に手を伸ばす。
『……ありがと』
伸ばされた俺の手を見て、フィーユが呟く。フィーユもファーレスの邪魔にならない位置でそっと手を伸ばし、きゅっと俺の手を握りしめる。
―― フィーユの小さな手は、カタカタと震えていた。
ハッとしてフィーユの方を見れば、フィーユは一瞬だけ俺の方に目を向け、恥ずかしそうに笑う。
―― 怖いんだ。
―― フィーユだって、怖いに決まってる。
―― 当たり前だ。
何を勘違いしていたのだろう。
フィーユやファーレスの凄さに圧倒されて、まるで2人が遠い存在になってしまったように感じていた。でも違った、違ったんだ。
少なくともフィーユは恐怖を感じながら、それでも俺を助けるために、勇気を振り絞ってここにいるのだ。
『……ごめん、ありがとう』
俺はもう一度感謝を伝え、フィーユの小さな手を強く握り返す。
フィーユは少し驚いたようにこちらを見ると、ふにゃりと嬉しそうに笑い、小さく頷く。
『ファーレスも、来てくれて本当にありがとう』
ファーレスにも改めて感謝を伝える。
ファーレスは足を止めずチラリと俺の方に目を向け、『……あぁ』と小さく頷く。
フィーユからもファーレスからも、怒りや恨みといったマイナスの感情は感じらない。俺を助けに来たことは……ここにいることは、当然で当たり前といった態度だ。
そんな2人を見ていたらまた涙が零れそうになり、俺は必死に顔面に力を込めた。