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平凡サラリーマンの絶対帰還行動録  作者: JIRO
第8章【ドラーク編】
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あけましておめでとうございます。

日々読んで下さりありがとうございます!

なかなか更新出来ず申し訳ありません…!



 

 俺が視認出来たのはそこまでだった。

 周囲が真っ白な光に包まれ、眩しさの後に来たのは圧倒的なまでの熱だった。


 熱い。

 熱い。

 熱いッ!


 全身が火傷を負いそうなほどに熱い。これまでの人生でこれほどの熱を感じたことなんてない。もしも火山に投げ入れられたとしたら、こんな感覚なのかもしれない。


『ト……! だ……じょぶ……!?』


 途切れ途切れにセイの声が聞こえる。

 俺は眩しさで思わず閉じていた目を薄く開き、状況を確認する。


 俺の周囲5メートル程は、セイが展開してくれたと思われる半透明の障壁で囲まれている。この障壁のおかげで生き延びたようだ。


 障壁の外は……焼け野原だった。

 先程までは四方に木々が並び、鬱蒼とした緑深い森だったのに、今は大きなクレーターのようにポッカリと、一部分だけ森が消滅している。

 正確な大きさは分からないが、少なく見積もっても半径数100メートル以上は消し飛んでいるだろう。


 ―― 竜の魔法、なのか……? たった一撃で……これ程の広範囲を、消し飛ばした……?


 セイが守ってくれなかったら、俺は欠片一つ残らず消えていたはずだ。


『ごめ……! ……そが……乱れ…………、まほ……まく、つ…………ない……!』


 セイがぶつ切れながらも必死に言葉を伝えてくれる。


 ―― 「ごめんね、魔素が乱れてて、魔法がうまく使えない」


 断片的な言葉を繋ぎ合わせ、意味を理解していく。


『セイは……! セイは大丈夫なのか!?』


 先程セイの魔力が回復できないと聞いたばかりだ。障壁を張るのにどれ程の魔力を使用するのか分からないが、この凄惨な光景を見る限り、少量の魔力で防げるような魔法ではないだろう。


『だ……じょぶ! い……から、は……って!』


 セイの叫びとともに、障壁が消える。


 ―― 「大丈夫! いいから、走って!」


 多分、封印まで走れということだろう。


『セイ……! ごめん、ありがとう……!』


 俺はセイにそう叫びながら、クレーター部分の地面を踏みしめ、再び走り出す。かなり走りにくいが、走れないことはない。


 ―― 森が残ってる部分まで行かないと……!


 竜がこんな広範囲に魔法を放ったのは、俺が何処にいるか分からなかったからだろう。竜に見つかってから1度目の魔法が来るまでに、少し時間があった。あれだけ大きな魔法は、ホイホイ撃てるようなものではないのだろう。


 ―― 大規模魔法を使った後は周囲の魔素が減る……! もう一度魔法を放つには時間がかかるはずだ……!


 魔素が感じ取れないため、希望交じりの考えではあるが、この予想は大きく外れていない……と信じたい。


 ―― クソ……ッ! どうしてこうなった!? どこで選択を間違えた!?


 走りながら過去を振り返り、自らの選択を呪う。

 封印の中に入らなければ、ドラークに来なければ……そんな思考が脳内を埋め尽くす。



 ―― そもそも元の世界に帰りたいと考えなければ……



 そこまで考えたところで、俺は走りながら頭を振る。


 ―― 『俺は……元の世界に帰りたい。帰らなくちゃいけない。帰るって、決めた』


 格好つけてもちとセイに宣言したくせに、もう後悔している。ダサすぎだ。


 ―― 帰る、帰る、帰る……! 仲間のもとに、そして元の世界に……!


 後悔を振り切るように、足を踏み出す。

 まずは逃げきって、とにかく生き延びる。


 俺は大きく息を吸い込み、大声で叫ぶ。


『話をっ!! 聞いてくれっ!! 敵対する意思はないっ!! 話をしたい……だけなんだ……っ!!』


 どうせ俺の姿は丸見えだし、広範囲魔法がくれば避けようがない。竜にこの声が届くかは分からないが、必死に叫び続ける。


『頼む……っ!! 話を聞いてくれ……っ!!!』


 周囲には熱が残っているため、喉が焼けるように痛い。呼吸もままならない。しかし必死に足を動かしながら、叫び続ける。


『お願いだ……っ!! 話を聞いてくれ……っ!!』


 熱のせいなのか恐怖のせいなのか、涙と鼻水で顔面をぐちゃぐちゃにしながら、叫ぶ。


 叫んで、叫んで、叫んで。

 叫び続けても、竜は遥か上空から動かない。


『頼む、頼むから……っ!!』


 俺の叫びをかき消すように、竜が再び憎しみに満ちた鳴き声を上げ、大きく口を開く。


『やめてくれ……! 話を……! お願いだから……!』


 封印は、まだ遠い。

 俺は絶望的な気持ちで竜を見上げる。


『頼む……! やめてくれ……っ!!』


 足から力が抜け、ふらふらと後ずさる。



『嫌だ……! お願いだ……! やめてくれ……! 嫌だ、嫌だああぁあああぁぁああぁあぁあっっ!!!!』



 もちを抱え込むようにうずくまり、叫ぶ。


 ―― 怖い、嫌だ、死にたくない……!


 もちも恐怖を感じているのだろう。俺の下で震えている。


『もち……! ごめん……! ごめんな……!』


 もちを抱きしめ、泣きながら謝る。

 縄で縛りつけてでも、封印の外に置いてくれば……いや、そもそも旅に連れてこなければ、もちはこんなところで死ぬこともなかった。


 ―― 怖い、怖い、怖い……!


 この世界に来て何度か死の恐怖を味わい、その度に強くなりたいと思った。けれどいざ命の危険が迫れば、その気持ちは恐怖に上書きされる。


『やめてくれ……!! 嫌だ、話を、お願いだから……っ!!』


 祈るように、縋るように、天を見上げる。



 ―― しかし無様な俺を嘲笑うように、竜の口内から、白い光が放たれた。



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