【番外編】異世界クリスマス
日々読んで下さりありがとうございます。
クリスマス番外編です!(本編が凄いところで止まってるのに番外編が先ですみません…)
時系列的には永久達がまだロワイヨムにいた頃のお話になります。楽しんで頂ければ幸いです!
Merry Christmas!
『すっげ……あの人、まるでサンタみたいだ……』
フィーユとファーレスと共にロワイヨムの街で買い物をしていると、全身真っ赤な服を着た、白いひげを生やした恰幅のいい男が目の前を通り過ぎていく。
目立つ。凄く目立っている。
あんな真っ赤な色の服、売っているのか……と思いながら、思わずサンタに似た男の姿を目で追ってしまう。
『サンタ? ってなぁに?』
手を繋いで歩いていたフィーユには俺の呟きが聞こえていたようで、不思議そうな顔でこちらを見上げながら問い掛ける。
『あー……そうか、こっちの世界にはクリスマスとかサンタとかないのか……』
俺はざっくりとクリスマスやサンタについて説明した後、世の中の親達の大半が言っているであろう言葉を、冗談っぽく付け加える。
『いい子にしてたら、サンタさんがプレゼントを届けてくれるんだよ』
フィーユはその言葉を聞き、『プレゼント!』と目を輝かせた後、何かに気付いたようにスッと目を伏せる。
『……私のとこには来てないだけで、他の子のところにはサンタさん、来てるのかも……』
『え?』
『だって私、いい子じゃないもん……』
悲しそうに、フィーユがぽつりと呟く。
フィーユは過去に魔力暴走を起こし、親に捨てられている。その時のことがトラウマになっているのだろう。時折、自分は誰にも必要とされない悪い子なのだと落ち込むことがある。
俺は慌てて『フィーユはいい子だよ! サンタはこの世界にいないんだよ。フィーユのとこだけに来ない訳じゃないから大丈夫だよ!』とフォローを入れる。『いい子にしてたら~』というのは完全に失言だった。
『うん……ありがとう、トワ』
まだ少し悲し気な雰囲気で、フィーユが小さく頷く。俺は他の人にも『サンタはいない』と証言して貰おうと、ファーレスの方を見る。
『ファーレスだってサンタなんか来たこと……』
『ないよな?』と問いかけようとして、自分がまた失言を重ねたことに気付く。
カードルさんから聞いた話によれば、ファーレスも親に捨てられ、騎士団に預けられた身だ。フィーユと同様に、その時のことがトラウマになっていてもおかしくない。心なしかいつもの無表情も、どこか寂し気に見える……気がする。
『あ、いや……その、なんでもない!』
『……あぁ』
俺はサッとファーレスから目を逸らし、自分の発言を悔いる。
―― プレゼント、用意しよう。
気まずい雰囲気のまま部屋まで戻りながら、俺は心の中で決意する。
この世界にサンタがいないなら、俺がサンタになればいい。
―― よ、喜んでくれるかな……? 喜んでくれるといいな……
あまり人にプレゼントを上げるという経験がないため、貰った相手がどんな反応をするのか分からない。取り敢えずプレゼントを用意するため、カードルさんに話があると言って1人で部屋を抜けだし、もう一度街へ向かう。
―― プレゼントって……何を上げたらいいんだ……?
……
プレゼント選びは困難を極めた。
俺にプレゼント選びのセンスと経験がなさすぎるからだ。
「……まず、後々残る物の方がいいのか……? 残らない物の方がいいのか……?」
学生時代、友人にプレゼントを上げたこともあるが、大体その辺で買ったお菓子等だ。
「そういやお前今日誕生日じゃん。おめでと~」
くらいの軽いノリで上げたことしなかい。
俺が最後にまともなプレゼントを選んだのなんて、初任給で母へ贈り物をした時くらいだ。あの時も悩みに悩み、周囲の意見やネットの意見を参考にし、様々な商品レビューを眺めながら、物凄く時間をかけてプレゼントを選んだ。今回は意見やレビューという頼もしい存在もない。
あとはホワイトデーの時に女性社員達へのお礼の品を選んだこともあるが、あれは個人的な贈り物ではないため、カウントされないだろう。因みにその時も滅茶苦茶困り、迷った。
そんな俺だ。
幼い少女やイケメンに送るプレゼントなんて見当もつかない。
「身につけるものは好みがあるよな……」
好みに合わない物を贈ってしまったら、逆に迷惑だろうか?
うんうん唸りながら、店に並ぶ品物を眺める。
「でも食べ物や消耗品だと……ちょっと特別感がないか……?」
何か気合の入ったお菓子でも作ろうかと考えるが、そんなのサンタが自分だとバラしているようなものだ。
クリスマス用のラッピングなどがあるわけでもないので、消耗品というのもなんとも味気ない。元の世界だとクリスマス限定品等も多く出ていたので、ちょっとした小物でも特別なプレゼント感があった。
「うーん……」
俺は頭を抱えながら、店先をうろうろする。
『唸り声を上げている不審者がいるかと思えば……トワじゃないか。何をしているんだ?』
ふと声を掛けられ、顔を上げれば荷物を抱えたカードルさんの姿があった。
『あ、どうも……』
軽く挨拶を交わした後、カードルさんの荷物が重そうだったため手伝いを申し出て、そのまま雑談しながら2人で市街を歩く。
『――…… とまぁそんな訳で、フィーユとファーレスにプレゼントを贈りたいな、と』
『なるほどなぁ……』
俺はプレゼントを贈ろうと思った経緯と、何を送るか困っていることをカードルさんに話す。
カードルさんは深く頷いた後、俺と同じように唸り声を上げる。
『フィーユは何を贈っても喜んでくれそうな気がするが……逆にファーレスは正直……反応が想像つかんなぁ……』
カードルさんの言う通りだ。俺も同じことを感じていた。
恐らくフィーユは何を贈っても……それが要らないものだったとしても、喜んでくれそうな気がする。しかし逆にファーレスは何を贈っても、何の反応もしない気がする。何ならプレゼントした物をすぐに失くしそうな気さえする。
『カードルさんは誰かにプレゼントを贈ったことありますか? どんな物を贈りました?』
差し支えなければ教えてくださいと頼めば、カードルさんは『そうだなぁ……』と言いながら、思い出すように空を見上げる。
『魔物の素材を加工したものが多いな。部下の昇進祝い等には、それぞれの特性に合った武器や防具を贈ったりな』
『なるほど……』
カードルさんは騎士団の団長なだけあって、贈り物の内容も戦闘に特化している。部下ひとりひとりのことをしっかり見ていないと贈れない、カードルさんらしい良い贈り物だ。自分が部下だったら、上司からそんな物を貰えたら滅茶苦茶嬉しいだろう。
『加工……か。ちょっとアイデアが浮かんだ気がします。すみません、武器屋に寄ってもいいですか?』
『あぁ、構わない。私の経験が参考になったなら良かった。まぁ贈り物は何を贈るかより、贈りたいと思う気持ちが一番大事だと思うがな』
カードルさんは笑みを浮かべ、『2人が喜んでくれるといいな!』と言って俺の背を叩く。
『はい! ありがとうございます!』
……
カードルさんの話を聞いて浮かんだアイデアというのは、魔石の加工だ。
魔石は宝石のような美しさもあるし、綺麗に加工してもらえばアクセサリーのようになるだろう。魔力も籠っているので、いざという時役に立つこともあるかもしれない。
木の板に図案を描き、この柄を魔石に刻んでくれと武器屋に依頼する。
……
―― 我ながら、結構いいデザインじゃないか?
数日後、武器屋の店主から渡された加工済みの魔石を眺めながら自画自賛する。
どんな柄を刻もうか迷ったが、幸運のお守りとなるよう、四葉のクローバーを元にデザインしてみた。なかなかお洒落でいい柄になった……と思う。
魔石に開けて貰った穴に紐を通し、シンプルなペンダントのような形にする。
「よし!」
あとは綺麗にラッピングして、夜皆が寝静まった後に枕元に置いておくだけだ。2人の分だけ用意すると俺が贈ったことがバレバレなので、一応自分の分も用意した。完璧だ。
俺は2人に贈る魔石のペンダントをぎゅっと握りしめ、2人の幸福を祈る。魔力を込めることは出来ないが、想いだけはしっかりと込めた。
……
翌朝。
正直2人の反応が気になりすぎて、一睡も出来なかった。狸寝入りをしつつ、2人の反応を窺う。
先に反応を示したのは、予想通りフィーユだった。
『あれ? 枕元に何か置いてある……なんだろ、これ?』
『……さぁな』
フィーユもファーレスもペンダントの入った袋を手に取り、かさかさと振ってみたりしている。
『あ、あぁ! それは! サンタからのプレゼントじゃないかっ!? 今日は丁度、俺の世界でサンタが来る日だしっ!』
かなりわざとらしいが、俺は今気づきましたとばかりに声を上げる。
『……サンタさん、この世界にはいないのに?』
フィーユはペンダントの入った袋を見ながら、『誰がいつ置いたんだろ……?』と不安げな声を上げる。
『き、きっと……俺と一緒にサンタもこっちの世界に来たんだよ。ほ、ほら! 俺にプレゼントを届けるためにさ!』
適当な言葉を並べつつ、俺はフィーユを安心させるように言葉を重ねる。
『俺がいい子にしてたかどうか見てるときに、フィーユとファーレスのことも見てたんじゃないか? 2人共いい子だから、プレゼントを貰えたんだよ!』
かなり苦しい言い訳だが、俺は表面上自信満々に言い切る。
『……そうなのかな?』
『そう!』
『……本当に?』
『そう!』
『……そっか』
『そう!』
『トワがそう言うなら、きっとそうだよね!』
『そうそう!』
半ば強引に、フィーユを納得させる。
本当に納得してくれたのかは分からないが、フィーユは少し嬉しそうに『えへへ、中身なんだろうね?』と笑う。
『なんだろうなー? よーし、開けてみよう―』
俺は答えを知っているのだが、知らないふりをしてフィーユと一緒に袋の口を開ける。
『えへへ……こういうの、何かワクワクするね……!』
『……あぁ』
『そーだなー』
―― ふと、自分の幼い頃を思い出す。
まだ純粋に、サンタを信じていた頃のことを。
25日の朝、枕元に置かれたプレゼント。
包みを開ける瞬間の高揚感と、少しの緊張。
包みを開ければ、口に出していないはずなのに、自分の欲しい物がしっかりと入っていた。
それがとても不思議で、でもとても嬉しくて、魔法みたいだった。
『……綺麗』
ペンダントを目にしたフィーユが、キラキラと目を輝かせながら小さく呟く。
『……あぁ』
心なしか、ファーレスも喜んでいるように見える。少なくとも俺の選んだプレゼントは、2人を落胆させることはなかったようだ。少し肩の力が抜け、ほっと安堵の息を吐く。
『あ! 皆、同じプレゼントだ!』
フィーユが俺とファーレスのプレゼントを覗き込み、大きな声を上げる。
―― ぜ、全員同じプレゼントはまずかったか……!?
ギクリと、肩を震わせる。それぞれ別のプレゼントを用意した方がよかったのだろうか?
俺があわあわとそんなことを考えていると、フィーユが続けて明るい声を上げる。
『お揃い! 皆でお揃いだねっ!』
とても嬉しそうに、それはそれは満面の笑みで、フィーユが飛び跳ねる。
『皆でお揃いのもの、欲しかったの……! 何で分かったんだろう!? サンタさん、すごいっ! 魔法みたいっ!』
皆でつけようねと、フィーユがはしゃぐ。
ファーレスもペンダントを眺めながら『……あぁ』と頷く。見間違いかもしれないが、一瞬だけうっすらと笑みを浮かべて。
―― どうやら、クリスマスの魔法は俺にも使えたようだ。




