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平凡サラリーマンの絶対帰還行動録  作者: JIRO
第8章【ドラーク編】
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日々読んで下さりありがとうございます。なかなか更新出来ず、申し訳ありません…!

感想やFA、レビュー、ブクマ、日々励みになっております!

誤字報告下さった方、本当に助かりました。ありがとうございました!


 

 意図がバレバレなのは少し照れくさいが、セイが嬉しそうなので良しとする。


『あー……練習して完璧に発音してみせるから、楽しみにしててくれ』


『えへへ~! うんうんっ! 楽しみにしてるね~!』


 若干、自らハードルを上げてしまった気がする。格好つけた自分の発言をちょっとだけ後悔しつつ、精霊語を習いながら先へ先へ進んでいく。

 セイは既に実体化をやめ、声だけの状態に戻っている。傍から見れば、俺はひとりでぶつぶつ言ってる怪しい人物だ。


『ところで……セイは何で実体化やめちゃったんだ? この辺は魔素もたっぷりあるんだろ?』


 俺としてはやはり声だけより、姿も見えていた方が何となく話しやすい。表情や仕草から受ける印象と言うのは、コミュニケーションにおいて結構大事だ。


『ん~……ちょっと魔力を温存しとこうかな~と思って~』


『温存?』


『そう〜。これから魔力をいっぱい使うかもしれないし~……ボクは魔力を回復するすべを持たないからね〜……少しでも節約しないと〜!』


『……え?』


 軽い気持ちで問いかけたのだが、思いの外深刻な理由を告げられる。


『ボクって魔力を結晶化した存在でしょ~? 今ある魔力を使い切ったら~……多分魔力を回復出来ないと思うんだよね~』


 セイが自力で魔力を回復出来ないなんて、考えたこともなかった。言われてみれば魔石の魔力も自動回復なんてしない。使い切ってしまえばそれで終わりだ。


『じゃあ……もし魔力がなくなったら……セイはどうなるんだ……?』


 俺は恐ろしい可能性に気付き、震える声で問い掛ける。

 本当はこんな質問したくない。

 けれど、もしかしたら……もしかしたら良い答えが返ってくるかもしれない。いつもみたいにふわふわと『大丈夫だよ〜!』と笑って欲しい。


『さぁ〜?』


 セイはふわふわとした声で、さらりと答える。

 そりゃあそうだ。セイにだって答えなんか分かるはずない。


『そ、ソティルさんやレンディスさんなら……セイに魔力を補充出来るんじゃないか……?』


『そうかもね〜……でもさ〜……他の魔力が混ざったら〜……それってボクなのかな〜?』


 セイの言葉に、俺は再びハッとさせられる。


『それ、は……』


 前にセイが『精霊の魔力は無色透明な感じで、人の魔力は色が付いてる感じ』と表現していた。つまり精霊の魔力と人の魔力は性質が異なるのだろう。

 単純に考えるならば、無色透明なものに色付きのものを混ぜたら……それはもう透明ではなくなってしまう。


 俺は言葉を失い、深く澄んだ色をした精霊石を見つめる。この石には、あとどれくらい魔力が残っているのだろうか?


『な~んてねっ!』


 セイが明るい声で『考えても分かんないし、この話はおしま〜い!』と笑う。


『……セイ』


『不安がっても仕方ないよ〜! なるようになるなる〜! ボクの魔力はまだまだたっぷりあるし〜! 全然だいじょ〜ぶッ!』


 セイはそう言うと話題を変えてしまう。俺はセイの話に相槌を打ちながら、漠然とした不安が消えないままだった。

 やはりセイだけでも封印の外へ置いて来てしまおうかと考えるが、セイの性格からして、恐らく実体化した身体で精霊石を持って追いかけて来るだろう。限りある魔力を無駄遣いさせてしまうだけだ。



 ―― セイが大量に魔力を使わざる得ない状況が……どうか来ませんように……



 俺は神に祈るように空を見上げる。

 結局、神頼みしか出来ない自分が酷く情けなかった。



 ……



『トワ、近いよ〜……もうスグそこ……!』



 少し気まずい空気のまま歩き続けていると、セイがふと緊張した声を上げる。俺は無言で頷き、木の影に隠れて前方の様子を伺う。



「すごい……」



 思わず、小さく感嘆の声を上げてしまう。


 竜。本物の竜だ。


 全長10メートルはあるだろうか?

 正に物語やゲームに出て来そうな竜が、森の中にのっそりと横たわっている。幼い頃、博物館で恐竜の模型を見た時のような、憧れ、畏怖、そんな思いが俺を満たす。


 竜の身体を纏う鱗が、日の光を反射して鈍く光る。濡羽色……と言うのだろうか?

 一見艶のある黒色に見えるのだが、よく見ると青や紫……様々な色の光沢を帯びて見える。


 竜は眠っているのか、瞳を閉じていて全く動かない。

 俺は大きく息を吸い込み、木の陰から足を踏み出す。


 カサリと、足元の葉が大きな音を立てる。その音に反応して、ゆっくりと竜の目が開かれる。爬虫類を思わせる黄金の瞳と、まっすぐ目が合う。


 視線が交わった刹那、次の行動は竜の方が早かった。カッと目を見開き、信じられないものを見るように、俺の姿を凝視する。


『……人?』


 低く、地の底から響くような声が、俺の鼓膜を震わせる。


『は、はい……! 俺、いえ、私はヨム・サルヴァトーレ・ソティルの友人で、渡永久と――』


 慌てて挨拶をしようとしたが、俺の言葉を遮るように竜が凄まじい咆哮を上げる。


『人……ッ! ヒト、ヒト、ヒト……ッ! よくも……よくも我が前にその姿を晒せたな……ッ!!』


 目の前の竜がゆっくりと身体を起こし、再び憎しみに満ちた鳴き声を上げる。天を裂く雷鳴のような鳴き声に、鼓膜だけでなく身体全体が震える。


『ま、待って下さい……! 敵対する意思はありません……! 話を……!』


 俺が必死に声を上げるが、竜の耳に届いている気配はない。正に聞く耳持たないといった様子だ。


『トワ……! なんか、なんかヤバイよ……! 周囲の魔素がザワザワしてる……! 早く逃げよう……!』


 セイが話し合いを諦めて逃げるよう俺を促す。魔素なんて感じられない俺でも、危険な空気はヒシヒシと伝わってくる。


『あ、あぁ……!』


『ボクが魔法で囮を作るから! 早く!』


 セイはそう叫ぶと、俺に似た人影を幾つも実体化させ、様々な方向へ解き放つ。俺が逃げた方向を分かりにくくするためだろう。


 俺は混乱した頭で、とにかく封印がある方へ走る。走りながら、竜の言葉や態度について必死に考える。


 ―― 竜と人の間で何かあったんだ……何かは分からないけど、多分よくないことが……!


 荒い息を吐きながら、もと来た道を走り抜ける。


 ―― どうする? どうすればいい? どうしたらこちらに敵対する気はないと伝わる……!?


 この島に来た時の嫌な予感は的中した。

 竜とまともにやりあえば、死ぬ未来しか見えない。


 ―― とにかく……! 今は逃げるしかない……!


『トワッ! 来るよッ!』


 セイが短く叫ぶ。

 来る、来るって何がだ?

 竜はその巨体を空に浮かべている。



 そして大きく口を開き――



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