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平凡サラリーマンの絶対帰還行動録  作者: JIRO
第8章【ドラーク編】
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日々読んで下さりありがとうございます。感想やFA、レビュー、ブクマ、評価、本当に励みになっております!


「きゅっ!!」


「もち……頼むから言うこと聞いてくれよ……」


 封印に入る直前、セイの本体である精霊石と共に、もちを封印の外へ置いていこうとした。しかしもちは何度言い聞かせても精霊石を口に咥えて俺の後を付いて来てしまう。いつもはちゃんと言うことを聞いてくれるのに、今回は何度説得しても聞く耳を持たない。


「はぁ……何かこのやり取り、もちと出会った時のことを思い出すな……」

 

 あの時も、俺が何度「付いて来るな」と言っても、もちは付いて来てしまった。それを何度か繰り返し、諦めてもちを連れて行くことにしたのだ。


「本当……俺はもちに甘えてばっかりだな……」


「きゅっ!」


 もちがぴょんっと飛び跳ね、再び俺の頭の上に乗る。その動作からも、絶対に一緒に行くという強い意志が感じられる。


「ありがとな……もち」


「きゅっ!」


 俺がもちを抱きしめ、ふにふにと撫でていると、どこからか恨みがましい小さな声が聞こえてくる。


『ボクもいるからね~? 忘れないでね~? あとボク、もちのよだれでベタベタだから拭いて欲しいな~……なんて~……』


『わ、悪い……すぐ綺麗にしてやるから……』


 セイの言葉通り、もちのよだれでベタつく精霊石を布で拭いながら、今度こそ封印の中へ入る。



 ……



『う~……強いのがいっぱいいるぅ〜……』


 封印に入り直し、セイがビクビクとした様子で小さく呟く。しかし怯えつつも、大きな魔力があるという方へ俺を案内してくれる。


『きっと大丈夫だよね〜……? 竜達がのんびり暮らしてるだけだよね〜……?』


 不安げな様子でセイが問いかける。俺もそう信じたい。信じたいが、それならば何故昔はなかった封印があるのだろうか?


 封印を施す理由……パッと思いつくのは、何かを閉じ込めたい時。漫画とかでよくあるやつだ。手に負えない化物を暴れさせないように封じるとか。あとは身を隠したい時だろうか?


 後者であって欲しいが、何故隠れる必要が出たのかを考えても、結局答えが出ない。切実に某名探偵達のような推理力が欲しい。小さなヒントとヒントを繋ぎ合わせ、答えに辿り着きたい。


「やっぱ前者なのかなぁー……」


 頭を抱えてブツブツ言いいながら、セイの意見も聞いてみる。


『ん〜……後者じゃない〜? だってこんな強い存在を封印するなんて、なかなか出来ないよ〜? 生半可な封印じゃ壊されちゃうもん〜。自分達で封印を作ったんじゃないかな〜?』


『あー……なるほど……言われてみれば、そうだよな……』


 人の中では類を見ないほど強いというレンディスさん、そしてそのレンディスさんをも上回るセイ。そんな2人よりも強いという存在を、そう簡単に封印出来るとは思えない。誰かが無理やり封じ込めたのではなく、強い存在が身を隠すために自ら封印を作ったと考える方が自然だ。

 ソティルさんの例を見ればよく分かる。強い存在というのは、それだけで他者を引き付ける。


『静かに暮らしたいだけの存在なら、友好的な話し合いで終わりそうだよな……』


 少し安堵の溜息を吐きながら、歩を進める。

 少なくとも、ソティルさんが交友を深めた竜が何匹かいるはずだ。突然現れた俺に対し不信感を抱かれたとしても、きちんと事情を説明し、ソティルさんの名を出せば追い出されたりはしないだろう。多分……。


『ソティルさんの話によれば、竜にも言葉が通じるみたいだしな』


『言葉は大事だよね〜』 


 人の言葉を覚えるまで意思疎通が出来ず、色々と大変だったのだろう。セイがしみじみと相槌を打つ。今回といい、竜人の時といい、言葉が通じるというのは本当に幸運だった。


『普通は各地でそれぞれの言語が発展していくもんだけど……この世界は何で単一言語なんだろうな?』


『そうなの〜?』


 セイにしてみれば知らない世界の話だ。不思議そうな声で相槌を打っている。俺自身、『普通は~……』なんて語ってみたものの、1つの世界……自分がいた元の世界ではそうだった、というだけの話だ。2つ目の世界では違ったのだから、元の世界が特殊だったのかもしれない。


『まぁ……俺の世界はそうだったってだけだけど……』


『ふ〜ん……でも精霊は人と違う言語? だよ〜?』


『あー……そうか……』


 セイが流暢に人の言葉を操るのでついつい忘れがちだが、言われてみればこの世界でも、精霊は人と異なる言語を使用している。


『……セイも本当は精霊語? が母語なんだよな?』


 俺は母語の意味を交えつつ、セイに問いかける。


『うん~そうだね~』


『俺も練習したら精霊語が分かるようになるかな?』


 最初こちらの世界に来た時、辞書もなく通訳してくれる人もいないのに、言葉の習得なんて無理ゲーだろ……と思っていたが、生活習慣が元の世界と似ていることもあり、案外何とかなった。

 精霊語ならセイという通訳もいるので、もっと早く習得出来そうな気がする。知っている言語は多いに越したことがないし、何よりセイの母語で伝えたい言葉もある。


『う〜ん……トワは魔素が操れないから~……無理、かも〜……?』


 セイは少し考えた後、申し訳なさそうに答えを返す。精霊の言葉は音の響きではなく、魔素の揺らぎが意味を持つらしい。


『人が喋るときも魔素は揺らぐから〜……こう、意味が通じるように魔素を揺らせば〜……精霊に意思を伝えることは出来るかも〜?』


 魔素の揺らぎが見えない以上、精霊が意図的に音で表現してくれない限りは、精霊の言葉を聞くのは無理だと言われる。

 しかしこちらから言葉を発し、魔素の揺らぎを作ることによって、精霊に意思を伝えることは可能ではないかと言う。


 セイはいつも人の言葉で、俺達に合わせて意思を伝えてくれる。

 俺も精霊の言葉を覚え、セイの言葉で話せたら……と思えたのだが、なかなか道のりは険しいようだ。


 ―― セイに……セイの言葉で「ありがとう」って伝えたかったんだけどな……


 俺には魔素の揺らぎが見えないので、正しく発音……魔素を揺らせているのか確認することが出来ない。


 ―― セイの発音を録音させて貰って……こっそり練習すれば、なんとかなる、かな……?


『あー……聞き取りが出来ないのは残念だけど、知ってたら役に立つこともあるかもしれないし……折角だから精霊語、教えてくれないか?』


『そう~? まぁいいけど~』


 セイは『役に立つかな~?』と言いながら、先生役になるのは満更でもないようで、『何から教えよっか~?』と少し楽しそうだ。

 まだ大きな魔力を持つ存在まで距離はあるそうだし、言葉の勉強はいい気晴らしになる。

 本人に聞くのは少し照れくさいが、俺は何食わぬ顔でセイに問い掛ける。


『えっと、じゃあさ……精霊の言葉で「ありがとう」ってどう表現するんだ?』


『ありがとう〜?』


 セイは俺の意図に気付いてないのか、不思議そうに言葉を繰り返す。


『挨拶とか〜自己紹介とか〜そっちを先に覚えた方がよくない〜?』


 セイは俺が他の精霊と会話するときの事を想定しているのか、そんなアドバイスをくれる。


『いいからいいから! 最初はコレって決めてんの!』


 セイが俺の意図を察する前に、早く教えてくれと急かす。しかしその不自然な態度は、逆にセイの思考を刺激してしまったようだ。

 突然セイは実体化すると、ぴょんっと俺に抱き着いてくる。


『ふふ~! トワ、「XXXXX」!』


 不思議な、聞いたことのない響きの言葉。

 ノイでペッシェの冥福を祈った時の言葉に、少しだけ似た響きを持つ言葉。

 多分、これが精霊語の「ありがとう」なのだろう。


 俺は慌ててスマートフォンを取り出し、録音アプリを立ち上げる。


『セイ、ごめん! もう1回頼む!』


『いいよ~何度でも言うよ~!』


 実体化したセイが、嬉しそうに、楽しそうに、ふよふよと空を舞う。



『トワ、 "アリガトウ" !』



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