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平凡サラリーマンの絶対帰還行動録  作者: JIRO
第8章【ドラーク編】
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日々読んで下さりありがとうございます。感想やFA、レビュー、ブクマ、評価、本当に励みになっております!なかなか更新出来ず申し訳ありませんでした。

 

 セイよりも、強い存在。

 確かレンディスさんと初めて会った時、セイはレンディスさんを魔法で押さえつけていた。多分、セイはレンディスさんよりも強いはずだ。


 ―― てことはつまり……レンディスさんでも歯が立たない存在ってことだよな……?


 もう一度ゴクリと唾を飲み込む。自分の意思に関係なく、手が小さく震える。


 ―― もしそんな存在が暴れたら……


 ソティルさんがドラークへ来た頃とは状況が変わっている。本当に封印を解き、そんな存在を解放してしまっていいのだろうか? レンディスさんやセイの力で、そんな存在を封印し直すことが出来るのだろうか?


『もち、セイ……1回封印の外に戻ろう。皆と話したい』


『きゅ……!』


『うん……』


 もちもセイも同意してくれたので、音を立てないようにソロリソロリと後ろに下がる。



 ……



『セイ、皆に声を届けられるか?』


『この距離なら大丈夫〜』


 封印から少し離れ、セイの力を借りて仲間達と連絡を取って貰う。俺の意思を、伝える為に。



『セイ、皆に伝えてくれ。封印は、解かない。封印の中には、俺1人で行く』



 封印を解くのは、俺が中を確認し、封印を解いても大丈夫だと確信出来た時だ。

 封印に向かいながら、ずっと考えていた。本当に俺の我儘で、この封印を解いていいのかと。

 デエスの森の時は、自分だけでなくカードルさん達からの依頼という面もあった。それにセイのおかげで中に危険な存在がいないと分かっていた。しかし今回は、完全に俺の我儘だけでドラークの封印を解こうとしている。


『トワ!?』


 俺の言葉に、セイが驚愕の声を上げる。一度は危険だからとフィーユやファーレスに反対された案だ。何故そちらの案を選ぶのかと言いたいのだろう。


『俺は……元の世界に帰りたい。帰らなくちゃいけない。帰るって、決めた』


 自分の想いが曲がらないように、自分に言い聞かせるように言葉を吐く。

 本当は怖い。この島に来た時の嫌な予感、妙な静けさ、セイの言葉……。全てが俺の不安を煽る。


 行きたくない。けれど封印の中には、元の世界に帰る希望があるかもしれない。ならば俺は封印の中へ進まなくてはいけない。封印の中へ進むにしても、本当は皆と一緒に進みたい。


 俺が今しようとしている行動は、フィーユやファーレス……俺を心配してくれた皆を裏切る選択だ。

 けれど、元の世界に帰りたいというのは俺の我儘だ。俺の我儘に他の人を巻き込んで、危険な目に合わせる訳にはいかない。いや、もう充分巻き込んでしまっているのだが、これ以上巻き込みたくない。


 ―― 皆と一緒に行った方が安全じゃないか。

 ―― 皆がいれば、何かあった時に守ってくれる。

 ―― 俺ひとりで行ったって、どうせ何も出来ない。


 臆病で弱い自分が、頭の中でうだうだと言い訳を重ねている。自分に都合のいい言い訳を。


 ―― 『トワ、お前の後悔しないように生きなさい』

 ―― 『迷わずに、自分の決めた道を進みなさい』


 ノイにいた頃、ペールとメールがくれた言葉が、俺の背中を押す。臆病な俺を、一歩前に進めてくれる。


 もしも、封印の中にいたのが危険な存在だったとして。

 封印を解き、レンディスさんやセイの力でももう一度封印することが出来なかったら……俺だけではなく、皆が危険に晒されてしまうかもしれない。

 しかし俺だけが封印の中に行けば、何かあっても犠牲になるのは俺1人で済むはずだ。


『安全が確認出来たら封印を解く。もし……俺が3日経っても戻らなかったら……その時は皆ロワイヨムに戻ってくれ』


 俺はそこで一度言葉を区切り、心を落ち着けるために息を吸う。


『ファーレスに……フィーユを頼むって伝えてくれ。フィーユには……そうだな、約束きっと守るから。もし俺が戻ってこなくても、ファーレスと一緒に待ってて欲しいって伝えてくれ』


『……トワ』


 セイが不安げな声を上げる。


『ソティルさんとレンディスさんには、巻き込んですみませんでした。ここまで付き合ってくれてありがとうございましたって伝えて欲しいかな』


『トワッ!』


 まるでお別れの挨拶のような言葉を並べる俺に、セイが怒ったように叫ぶ。


『何でそんなに……! 最初っから諦めてるのさぁっ! 何かあってもボクがトワを守るもんっ! だから……! そんな覚悟を決めたみたいな顔しないでよぉ……!』


 最初は怒るように、最後は悲し気に、セイが俺を叱る。


『ボクはね、トワにすっごくすっごく感謝してるんだよ? 石になる前も、石になった後も、ボクは多分……ずっと寂しかった。つまらなかった。ボクにも心はあるはずなのに、ふわふわしてて、なんにもないみたいだった』


 精霊であるセイが過ごした長い長い時間、俺にはセイがどんな風にその長い時を過ごしたのか、想像も及ばない。精霊石になる前は、他の精霊と共にいたのだろうか? 楽しいことを求め、色々なところを彷徨っていたのだろうか? 精霊石になった後は、動けない体で色んな人の手を渡り、どんなものを見たのだろうか? それとも長い間、どこかにずっとしまわれていたのだろうか?


『でもね、トワに会ってからは、誰かを大切に想ったり、色んなところに行ったり、誰かとワイワイ話したり……これまでのボクが知らなかったことを、いっぱいいっぱい知ったんだよ!』


 だからね、とセイが続ける。


『トワはボクが守るから、安心して、自信満々にしてればいいのっ! そんな不安いっぱいで、別れを覚悟したりしなくていいのっ!』


 封印の中にいる存在を感じ、不安に思っていたのはセイも同様の筈だが、俺を励ますためか力強い声で、セイが言う。

 俺はセイの本体である精霊石を撫でながら、『……ありがとな』と感謝を伝える。


 この世界にも言霊という思想があるのか分からないが、「良いことを言えば良いことが、悪い事を言えば悪い事が起こる」とよく聞く。自分が大丈夫だと思っていなければ、上手く行くこともきっと上手く行かない。


『そうだよな、弱気はよくないよな。セイももちも付いてるんだし、自信満々で行かなきゃな!』


『きゅっ!』


『そうそう~!』


 俺の言葉に、もちとセイが元気に返事をする。


『一応、本当にいちお~、皆にトワの言葉を伝えるけど~……どうせレンディス以外は大反対だよ~? 絶対フィーユに怒られるよ~?』


 セイは冗談っぽく『本当にいいの~?』と俺に問いかける。多分、俺の不安を感じて、最終確認をしてくれているのだろう。


『伝えてくれ。それからフィーユ達が反対しても……俺に伝えないでくれ』


 フィーユ達の言葉を聞いたら、また迷ってしまうかもしれない。甘えてしまうかもしれない。


『……いいの~?』


 何かあれば、これが最後のやりとりになるかもしれないと、セイも分かっているのだろう。きちんと言葉を交わさなくていいのかと、俺に問いかける。


『いい。だってほら、説教は1回で充分だろ?』


『……あ~! 確かに~!』


 俺が笑いながらそう言えば、セイも嬉しそうに『そうだね~!』と同意してくれる。



『あ、じゃあセイ、皆に追加でもう一言! 行ってきますって伝えてくれ!』


『了解~!』



 異世界生活592日目、セイの明るい返事を聞きながら、俺はもう一度封印の中へ向かった。





すずみ様よりファーレスのFAを頂きました!

すずみ様、素敵なイラスト本当にありがとうございました!

イラスト集にUPさせて頂きました。物凄く格好いいので必見です!


■絶対帰還行動録【イラスト集】

https://ncode.syosetu.com/n4742ep/


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