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『はー……平和だー……』
竜人達を退けた後の旅は、驚く程平和だった。
レンディスさんの圧倒的な魔力のおかげか、襲ってくる魔物もいない。
『竜人がどんだけ非常識な存在だったのか……よく分かるな』
常識的に考えて、自分よりも強いものに喧嘩を吹っかけるなんて危険な真似、普通はやらない。
『何であんな死にたがりみたいなことするんだろうねー?』
『……あぁ』
『……だな』
フィーユの問い掛けに、ファーレスと俺が短く答える。
『セイは竜人について何か知ってるか?』
『ボク〜? 知らな〜い』
精霊という、長い時を生きて来たであろうセイも、竜人に関する情報はないらしい。
『動けるようになったらまた襲ってくるのかな……?』
フィーユが不安げに後ろを振り返る。竜人が追いかけて来ていたらどうしようと、疑心暗鬼になっているのだろう。
俺はそんなフィーユの頭をぽんぽんと撫で、『大丈夫だよ』と勇気づけるように言う。
『ソティルさんも言ってただろ? 竜人達は数日まともに動けないはずだし、動けるようになっても怪我人の手当や魔力の回復……すぐに戦闘出来る様な状態じゃないって。だからその間にガンガン先に進んどけば、追い付かれることはないよ』
『……うん』
竜人達に追いつかれないよう、エクウスとソティはフル稼働で走ってくれている。ソティルさんが定期的に回復魔法を掛けているとはいえ、エクウス達には無理をさせていて申し訳ない。
『ごめんな、エクウス。もうちょっと頑張ってくれ』
『ヒィン!』
荷台からエクウスに声を掛ければ、エクウスが力強い鳴き声を返してくれる。
『無理をさせてるって言えば……レンディスさん、大丈夫かな……?』
俺はもう1つの馬車を見ながら、ぽつりと零す。
レンディスさんは戦闘終了後、ほぼ休みなしで道を作り続けている。体力は勿論だが、魔力の方も大丈夫なのだろうか?
『レンディスさんなら大丈夫だと思うよ。だってすっごいすっごい魔力だもん……』
『……そうなんだ』
フィーユはそう言いながら、『あんな魔力量……私だったら怖くて絶対に扱えないよ……』と怯えたようにレンディスさん達が乗っている馬車の方を見る。
『怖くてって?』
『……魔力量は多ければ多い程、コントロールが難しいんだよ。あの魔力量で暴走なんかしちゃったら、辺り一帯吹き飛んじゃうよ……』
フィーユは自分が魔力暴走を起こした時のことを思いだしているのかもしれない。目を瞑り、恐怖から逃れるように身を縮こませる。
『そっか……確かに。それは怖いな……』
レンディスさんも、魔力の扱いに苦労したのだろうか?
きっと俺が知らないだけで、強い人には強い人の苦しみや葛藤があったのだろう。
―― でも、それでも、俺は強くなりたい……
……
『あ! もうすぐドラークが見えてくるって~!』
最低限の休息だけ取りつつ、走り続けて20日目。
セイの明るい声が馬車の中に響く。
『本当!?』
フィーユが喜びに満ちた声を上げ、窓に駆け寄る。俺もフィーユの後を追い、窓にかじりつく。
『あれが……竜の棲む地、ドラーク……』
ドラークは正に絶海の孤島だった。
紺碧の海にぽつりと存在するその島は、緑豊かな美しい島だ。しかし周囲は断崖絶壁で囲まれており、もしも船で来ていたら上陸することさえ叶わなかっただろう。
『何だか……怖いね……』
フィーユが怯えたように呟く。
俺と同様に、島から漂う、人を寄せ付けない拒絶のオーラを感じているのかもしれない。
『大丈夫だよ……。ソティルさんが言ってただろ? ドラークは竜達がのびのびと暮らす、素敵な場所だったって』
『うん……そうだよね……』
俺はフィーユを安心させるためにそう言いながら、妙な胸騒ぎを抑えられないでいた。
―― 何でこんなに美しい島なのに……心がざわざわするんだ……?
『……レンディスさんが島に道を繋げてくれてる。……降りよう』
……
『エクウス、ソティ、お疲れ様。しっかり休んでくれ』
『『ヒィン!』』
ドラークの地へ降り立ち、殆ど休息なく走り続けてくれたエクウス達を労わる。エクウス達は一役終えたとばかりに小さく鳴くと、その場に伏せて休息モードに入っていた。
『無事ドラークにつけて何よりです。そろそろレンディスも休ませて上げたいですし、いったん休憩しましょうか』
ソティルさんの言葉に、レンディスさんは『俺はまだまだ大丈夫です!』 と反論していたが、若干顔色が悪い気がする。
魔法で肉体強化していたのかもしれないが、レンディスさんも20日間殆ど休息なく魔法を使い続けていたのだ。そりゃあ体力も魔力も限界だろう。
『そうですね。レンディスさんやエクウス達のおかげで、竜人達からも大分離れたと思いますし……ゆっくり行きましょう。エクウス達もいい加減しっかり休ませて上げたいですし』
『えぇ。ここは魔素が濃いですから、回復も早いでしょう』
どうやらドラークは、かなり魔素の濃い地のようだ。ということは、出てくる魔物も強いのだろう。
レンディスさんの力を頼りきりにするつもりはないが、主戦力であるレンディスさんが本調子じゃない状態で進むのはリスクが高すぎる。
レンディスさんもそれが分かっているのだろう。渋々といった様子で、その場に腰を下ろす。
『……それにしても……妙な島だな……』
ぼそりと、レンディスさんが独り言のように零す。
俺はその言葉が気になり、レンディスさんに問い返す。
『……妙って、何がですか?』




