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平凡サラリーマンの絶対帰還行動録  作者: JIRO
第8章【ドラーク編】
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日々読んで下さりありがとうございます。感想やFA、レビュー、ブクマ、評価、本当に励みになっております!

 

『なるほど……トワ達を助けたのは、あちら側の魔物……竜人でしたか……』


 食事をしながら、俺は自分が馬車ごと落ちていった後の出来事を説明する。

 ソティルさんは助けが間に合わなかったことを謝罪しつつ、俺の説明に頷く。


『私達のことを攻撃してきたのに……トワのことを助けてくれたの?』


 フィーユは首を傾げながら、俺に問いかける。


『……あぁ。竜人は強いものに勝負を挑み、弱いものには手を出さない主義なんだとさ……』


 逃れようのない事実だが、自ら弱いものだから見逃されたのだと口にするのは、複雑な気分だ。

 するとセイの申し訳なさそうな声が、どこからともなく聞こえてくる。


『う~……トワぁ~……ごめんねぇ~……ボクが守って上げられれば、あんな危険な目に合わせなかったのに~……』


 戦闘が終わった後、セイの声を全く聞いていないことに気付き、精霊石をどこかに落としてしまったのかと慌てたのだが、大規模魔法が広範囲で実行されたため、周囲の魔素が減り、セイは上手く魔法を使えなかったそうだ。

 人が使う魔法に比べると、精霊の魔法は魔素を大量に使用するらしい。


『セイのせいじゃないだろ? そんなに気にしないでくれよ……』


 そう言いながら精霊石を撫でるが、セイはまだ『ごめんね~……』と申し訳なさそうな声を響かせていた。


『何はともあれ、トワ達が無事でよかったじゃないですか。それに竜人なら、トワ達を助けたのも納得です』


 ソティルさんはお気に入りのプリンに舌鼓を打ちながら、あっさりとそう言う。


『えー?! なんでー?! 助けるなら最初っから攻撃しなければいいのに!』


 ソティルさんの言葉を聞き、フィーユは頬を膨らませて、『意味わかんない!』と叫ぶ。


『詳しい理由は分かりませんが……昔から竜人達は、強いものには容赦なく攻撃をしかけますが、弱いものは守ろうと行動するのです』


 だから数を減らし過ぎるわけにはいかないのだと、ソティルさんが続ける。


『あんな生き方をしていますからね……あれだけの強さを持ちながら、竜人はどんどん個体数を減らしているのです。しかし災害等が起きた時、竜人は惜しみなく力を使い、弱いものを助けてくれます。竜人達が滅びるのは、我々としても困るわけです』


 ソティルさんの説明を聞きながら、フィーユはむぅっと眉を寄せる。


『迷惑なことしたり、いいことしたり……何でそんなことするんだろ……?』


 フィーユは竜人の行動が納得できないようで、『いいことだけすればいいのに……』と呟く。


『そうですね……でも、きっと……竜人達には竜人達の、考えがあるのでしょうね……』


 ソティルさんはそう言うと遠くを見つめ、フィーユの頭を撫でる。


『フィーユもとても強い力を持っています。力の使い方には、気を付けて下さいね』


『……はい』


 ソティルさんの言葉に、フィーユが背を正して深く頷く。


『フィーユはいい子ですね』


 ソティルさんは優しい笑みを浮かべながらそう言うと、レンディスさんの方をクルリと振り返る。


『ところでレンディス? 戦闘中、守る対象に偏りがあったのは私の気のせいでしょうか?』


『そ、それは……』


 ソティルさんは先ほどと同様に笑顔を浮かべているが、フィーユに向けていた笑顔とは異なり、完全に目が笑っていない。

 レンディスさんもそれが分かっているのだろう。ビクッと肩を震わせると、焦った様子で目を逸らしている。



『少し教育が……必要みたいですね?』



 ……



 お説教のため、馬車へとズルズル引きずられて行くレンディスさんを、苦笑しながら見送る。


 ―― 強い力、か……


 ソティルさんがフィーユに投げかけた言葉を、頭の中で反芻する。



『……でも、本当さ。俺もこれまで以上に、頑張るから……。フィーユやファーレスを、守れるように……頑張るから』



 拳を握りしめ、決意を告げる。



 ―― もう置いていかれないように。

 ―― あんな悔しい思いをしないように。

 ―― 俺が皆を、守れるように。



『トワ……』



 フィーユが悲しげに、目を伏せる。


『私、トワが頑張ってるの、知ってるよ。いつも部屋に戻った後、言葉の勉強したり、訓練したりしてるもん……』


 フィーユはぎゅっと俺に飛びつき、俺の頭を優しく包み込むように撫でる。


『……頑張りすぎないでね? もっと私達のこと、頼ってね?』


『……あぁ』


 フィーユの言葉に同意するように、ファーレスも頷く。



『うん……ありがとう、2人とも……』



 俺は何だか言い表せない感情が湧き上がり、フィーユとファーレスを巻き込むように、2人に抱き着く。

 勢いよく抱き着きすぎたせいで、全員バランスを崩し、地面に倒れ込む。誰かに抱き着くなんて大人になって経験がなかったため、力加減を誤ったようだ。


『ご、ごめん……』


『もうー! トワー!』


『……いや』


 俺が慌てて謝罪すれば、フィーユが笑いながら怒ったように叫ぶ。ファーレスもいつも通りの返事をしながら、柔らかな空気を纏わせる。


『心配しなくても大丈夫~! 今度はボクが守るから~!』


 セイも声だけ元気に参戦してくる。

 セイの言葉を聞き、フィーユが叫ぶ。


『大丈夫! 今度こそ私が皆を守るもん!』


 そんなフィーユの言葉を、ファーレスが『……いや』と否定し、腰につけた剣を抜く。そのまま柄を俺とフィーユの方へ向けて差し出すと、その場に跪く。


『……剣に、かけて』


『……あれ? 前とセリフ違くないか?』


 気のせいか、前に聞いた中途半端な誓いの言葉よりも、更に短くなっている気がする。


『……さぁな』


 ファーレスがいつもの言葉でしらを切る。


『お前なぁ……』


 苦笑しながら、ファーレスの頭を小突く。



 ―― 何だかやっと、戦闘が終わったのだと実感出来た気がした。



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