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『なるほど……トワ達を助けたのは、あちら側の魔物……竜人でしたか……』
食事をしながら、俺は自分が馬車ごと落ちていった後の出来事を説明する。
ソティルさんは助けが間に合わなかったことを謝罪しつつ、俺の説明に頷く。
『私達のことを攻撃してきたのに……トワのことを助けてくれたの?』
フィーユは首を傾げながら、俺に問いかける。
『……あぁ。竜人は強いものに勝負を挑み、弱いものには手を出さない主義なんだとさ……』
逃れようのない事実だが、自ら弱いものだから見逃されたのだと口にするのは、複雑な気分だ。
するとセイの申し訳なさそうな声が、どこからともなく聞こえてくる。
『う~……トワぁ~……ごめんねぇ~……ボクが守って上げられれば、あんな危険な目に合わせなかったのに~……』
戦闘が終わった後、セイの声を全く聞いていないことに気付き、精霊石をどこかに落としてしまったのかと慌てたのだが、大規模魔法が広範囲で実行されたため、周囲の魔素が減り、セイは上手く魔法を使えなかったそうだ。
人が使う魔法に比べると、精霊の魔法は魔素を大量に使用するらしい。
『セイのせいじゃないだろ? そんなに気にしないでくれよ……』
そう言いながら精霊石を撫でるが、セイはまだ『ごめんね~……』と申し訳なさそうな声を響かせていた。
『何はともあれ、トワ達が無事でよかったじゃないですか。それに竜人なら、トワ達を助けたのも納得です』
ソティルさんはお気に入りのプリンに舌鼓を打ちながら、あっさりとそう言う。
『えー?! なんでー?! 助けるなら最初っから攻撃しなければいいのに!』
ソティルさんの言葉を聞き、フィーユは頬を膨らませて、『意味わかんない!』と叫ぶ。
『詳しい理由は分かりませんが……昔から竜人達は、強いものには容赦なく攻撃をしかけますが、弱いものは守ろうと行動するのです』
だから数を減らし過ぎるわけにはいかないのだと、ソティルさんが続ける。
『あんな生き方をしていますからね……あれだけの強さを持ちながら、竜人はどんどん個体数を減らしているのです。しかし災害等が起きた時、竜人は惜しみなく力を使い、弱いものを助けてくれます。竜人達が滅びるのは、我々としても困るわけです』
ソティルさんの説明を聞きながら、フィーユはむぅっと眉を寄せる。
『迷惑なことしたり、いいことしたり……何でそんなことするんだろ……?』
フィーユは竜人の行動が納得できないようで、『いいことだけすればいいのに……』と呟く。
『そうですね……でも、きっと……竜人達には竜人達の、考えがあるのでしょうね……』
ソティルさんはそう言うと遠くを見つめ、フィーユの頭を撫でる。
『フィーユもとても強い力を持っています。力の使い方には、気を付けて下さいね』
『……はい』
ソティルさんの言葉に、フィーユが背を正して深く頷く。
『フィーユはいい子ですね』
ソティルさんは優しい笑みを浮かべながらそう言うと、レンディスさんの方をクルリと振り返る。
『ところでレンディス? 戦闘中、守る対象に偏りがあったのは私の気のせいでしょうか?』
『そ、それは……』
ソティルさんは先ほどと同様に笑顔を浮かべているが、フィーユに向けていた笑顔とは異なり、完全に目が笑っていない。
レンディスさんもそれが分かっているのだろう。ビクッと肩を震わせると、焦った様子で目を逸らしている。
『少し教育が……必要みたいですね?』
……
お説教のため、馬車へとズルズル引きずられて行くレンディスさんを、苦笑しながら見送る。
―― 強い力、か……
ソティルさんがフィーユに投げかけた言葉を、頭の中で反芻する。
『……でも、本当さ。俺もこれまで以上に、頑張るから……。フィーユやファーレスを、守れるように……頑張るから』
拳を握りしめ、決意を告げる。
―― もう置いていかれないように。
―― あんな悔しい思いをしないように。
―― 俺が皆を、守れるように。
『トワ……』
フィーユが悲しげに、目を伏せる。
『私、トワが頑張ってるの、知ってるよ。いつも部屋に戻った後、言葉の勉強したり、訓練したりしてるもん……』
フィーユはぎゅっと俺に飛びつき、俺の頭を優しく包み込むように撫でる。
『……頑張りすぎないでね? もっと私達のこと、頼ってね?』
『……あぁ』
フィーユの言葉に同意するように、ファーレスも頷く。
『うん……ありがとう、2人とも……』
俺は何だか言い表せない感情が湧き上がり、フィーユとファーレスを巻き込むように、2人に抱き着く。
勢いよく抱き着きすぎたせいで、全員バランスを崩し、地面に倒れ込む。誰かに抱き着くなんて大人になって経験がなかったため、力加減を誤ったようだ。
『ご、ごめん……』
『もうー! トワー!』
『……いや』
俺が慌てて謝罪すれば、フィーユが笑いながら怒ったように叫ぶ。ファーレスもいつも通りの返事をしながら、柔らかな空気を纏わせる。
『心配しなくても大丈夫~! 今度はボクが守るから~!』
セイも声だけ元気に参戦してくる。
セイの言葉を聞き、フィーユが叫ぶ。
『大丈夫! 今度こそ私が皆を守るもん!』
そんなフィーユの言葉を、ファーレスが『……いや』と否定し、腰につけた剣を抜く。そのまま柄を俺とフィーユの方へ向けて差し出すと、その場に跪く。
『……剣に、かけて』
『……あれ? 前とセリフ違くないか?』
気のせいか、前に聞いた中途半端な誓いの言葉よりも、更に短くなっている気がする。
『……さぁな』
ファーレスがいつもの言葉でしらを切る。
『お前なぁ……』
苦笑しながら、ファーレスの頭を小突く。
―― 何だかやっと、戦闘が終わったのだと実感出来た気がした。