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平凡サラリーマンの絶対帰還行動録  作者: JIRO
第8章【ドラーク編】
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日々読んで下さりありがとうございます。感想やFA、レビュー、ブクマ、評価、本当に励みになっております。


 

 返事が、出来ない。

 俺は声の出し方を忘れてしまったみたいに、ただ黙り込む。


『お前みたいにさ、説教くせぇことを言う奴はよくいるぜ。でもよくよくそいつらを見てれば、俺達と同じように他の命を簡単に奪ってんだよな』


 赤髪の竜人はそう言って、俺の目を覗き込む。


『なぁ、お前は自分の身勝手な理由で命を奪ったことも、他の奴を傷付けたこともないのか?』


 俺は思わず、赤髪の竜人から目を逸らす。


『そ、れは……』


 真っ直ぐと俺を見る赤髪の竜人を、直視出来ない。

 赤髪の竜人は俺の反応を見て、軽い笑い声を上げる。


 俯きながら、俺は現実から目を逸らすように言葉を重ねる。


『け、けど……それは、自分の身を守るためだったり、食べるためだったり……理由が、あって……』


 例えば小さな虫の命だったり。

 例えば食卓に並ぶ動物の命だったり。

 例えば行く手を阻む魔物の命だったり。


 異世界に来る前も来てからも、俺は沢山の命を奪って来た。

 そんな俺が赤髪の竜人を責めるなんて、心底自分を棚上げしている。


 ―― 『何、自分は違うみてぇな顔してんだ?』


 言外に、そう言われた気がした。

 俺の言葉を受け、赤髪の竜人は更に笑う。


『じゃあ聞くけどよ、俺が上の奴等に勝ったとして。俺が奴等の死体を食えば、お前は「食べるためなら仕方ない」ってなんのかよ? ならねぇだろ?』


 脳裏に、貪り食われるフィーユ達の姿が浮かび、俺はその想像をかき消すように勢いよく頭を振る。


 ならない。なるはずがない。

 竜人達を恨み、嫌悪し、復讐をも考えるかもしれない。


『結局、お綺麗な理由をつけるかつけないか、それだけの違いだ。殺される側からしてみりゃ、殺される理由なんざ関係ねぇんだよ』


 赤髪の竜人はそう言うと、俯く俺の顔を覗き込む。


『おいおい、そんなヘコんだ顔すんなよ。俺は別に、お前を責めてるわけじゃねぇよ』


 赤髪の竜人はグイッと俺の頭を掴み、無理矢理上を向かせる。


『食うためだったり、自分の身を守るためだったり、誰だって身勝手な理由で命を奪ってるもんなんだよ。誰だって知らねぇ奴より、自分や身内の方が大事なんだ。当然だろ?』


 赤髪の竜人は、迷いのない声で断言する。



『俺には俺の理由がある。だから俺は強ぇ奴をボコる。迷わずな』



 ハッキリと、前を見据えて、断言する。


『お前も弱ぇくせにゴチャゴチャ迷ってんなよ』


 赤髪の竜人はまるで鼓舞するようにそう言うと、『あー……長居し過ぎた。戦闘が終わっちまう』と頭を掻きながら、俺に背を向ける。


『まぁ、巻き込んじまった詫び分くらいは付き合ってやっただろ。じゃあな』


 赤髪の竜人は背中を向けたままヒラヒラと手を振ると、馬車から離れ、再び空に飛び立つ。



 ―― 『弱ぇくせにゴチャゴチャ迷ってんなよ』



 その言葉に背中を押されるように、俺は魔石銃を握りしめる。

 あの男を、迷いなく戦いを続けようとするあの竜人を、戦場に戻しては駄目だ。


 竜人の背に、狙いを定める。


 赤髪の竜人との距離は3メートルもない。この至近距離なら、ダメージが通るかもしれない。

 敵がこんなにも近くにいて、こちらを警戒していなくて、背を向けていて……そんなチャンス、多分二度と訪れない。


 ――  助けて貰った相手を撃つなんて!


 頭の中で、平和ボケした俺が叫びを上げる。

 そう、そうだ。赤髪の竜人は俺やもち、エクウスを助けてくれた命の恩人だ。自分より弱いものは守るべきという、正義の味方みたいな一面もある。


 ―― だけど。


 俺は赤髪の竜人より、仲間の方が大事だ。

 赤髪の竜人が戦闘に参加すれば、仲間達がそれだけ危険に晒される。



 ――  パンッ



 鈍い銃声が小さく響き、魔石銃から弾が発射される。


 撃った。撃ってしまった。

 もう後には戻れない。


 ―― 頼む、倒れてくれ……!


 祈るように、目を瞑る。

 同時に、自分のやったことから目を逸らしたかったのかもしれない。



『あぁ……?』



 赤髪の竜人が、ゆっくりと振り返る。

 ダメージを受けた様子は、ない。


 ――  駄目か……


 そんな気はしていたので、あまり絶望はなかった。

 ただ、ここで殺されるのかな……とぼんやり考える。


 ―― やっぱ止めときゃよかったな……

 ―― 折角助かったのに、なに命を捨てるような真似してんだ、俺は……


 後悔の念が頭をよぎる。


 ―― でも、皆が上で頑張ってくれてんのに……俺だけ逃げれないだろ……!


 効かないかもしれない。

 自分の命が危険に晒されるかもしれない。

 分かってはいた。

 でも、だからといってあれ程のチャンスをみすみす逃すなんて出来なかった。


 ―― 死ぬのか、俺。


 あまりにも恐怖に晒され続けて、感覚が麻痺してしまったのかもしれない。

 赤髪の竜人から目を逸らすこともなく、ただぼんやりと相手の動きを待つ。


 ―― 魔法で消し飛ばされるのかな……

 ―― 頭を握り潰されるのかな……

 ―― 身体に穴を開けられるのかな……


 俺が攻撃されても巻き込まれないように、もちをそっと馬車の隅へ追いやる。


 ―― 多分、赤髪の竜人はもちとエクウスを見逃してくれるはず……


 そんな確信がある。

 赤髪の竜人は自分の中のルールと言うか、ポリシーを曲げない人物だと感じた。攻撃した俺は別として、赤髪の竜人よりずっと弱いもちやエクウスのことは、攻撃しないはずだ。


 赤髪の竜人が、ゆっくりとこちらに向かって来る。


『……上でちまちま当たってウザかったヤツ。あれ、お前だったのか』


 確認すると言うよりは、今気づいたというように、赤髪の竜人が呟く。


 ―― 怖い。


 恐怖は麻痺したと思っていたが、そんなことはなかった。

 赤髪の竜人が近づくにつれ、身体が勝手に震えだす。


 土下座して、謝って、見逃して貰えるなら何でもするという気持ちになって来る。謝罪と言い訳の言葉を紡ごうにも、唇が震えてまともに声が出せない。


 赤髪の竜人が、

 近付く。

 近付く。

 近付く。


 とうとう赤髪の竜人が、目の前に立つ。

 俺は断罪を待つ罪人のように、(こうべ)を垂れた。




そういえば昨日ハロウィン記念イラストをUP致しました。

頑張って描いたので、こちらも見て頂ければ嬉しいです!


■絶対帰還行動録【イラスト集】

https://ncode.syosetu.com/n4742ep/



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