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平凡サラリーマンの絶対帰還行動録  作者: JIRO
第8章【ドラーク編】
166/194

【番外編】Happy Halloween(★)

日々読んで下さりありがとうございます。感想やFA、レビュー、ブクマ、評価、本当に励みになっております!

ハロウィン記念小説です。懐かしい面々が出てきます。


■絶対帰還行動録【登場人物&設定集】

https://ncode.syosetu.com/n4734ep/


Happy halloween !!


※本文最後に挿絵が入っております。

苦手な方は右上「表示調整」より、挿絵を表示しないよう設定をお願いいたします。


 

『あれ? 何だか妙に騒がしいですね』


 リバーシ関連の商談で呼び出され、カードルさんとロワイヨムの街を歩いていた時だ。遠くの方でワイワイガヤガヤと賑やかな声がする。


『ん? あぁ、下町の方だろう。今日は収穫祭だからな』


 カードルさんの答えに、俺は首を傾げる。


『あれ? でも蜜草が咲く時期じゃないですよね?』


 俺がロワイヨムに来た頃、蜜草が咲き誇っていたのを覚えている。

 あれからまだ500日も経っていないし、蜜草の収穫祭にしては時期がズレ過ぎている。


『あぁ、収穫祭が行われるのは蜜草だけじゃない。この収穫祭は、ロワイヨムの下町だけで行われる小さな収穫祭だ』


 カードルさんは俺がこちらの世界の知識に乏しいことを知っているので、丁寧に解説してくれる。


 蜜草の収穫祭は各国の王族、貴族、平民、全員が祝う最も大きな収穫祭だそうだ。それに比べ今回の収穫祭は、ロワイヨムの名産品の収穫を祝い、平民のみが行う小さなものらしい。


『へぇ……そうなんですね。因みにロワイヨムの名産品って、何なんですか?』


 俺はカードルさんの話に頷きつつ、興味本位で尋ねる。

 するとカードルさんは露店の商品を眺め、一点を指差す。


『丁度そこで売っているな。アレだ』


 名産と言うだけあって、この時期は殆どの店が取り扱っているようだ。カードルさんが示した先。そこにあったのは、



「……カボチャ?」



 美しい橙色をした、大きなカボチャだった。



 ……



『味もカボチャだ……』



 折角なので異世界カボチャを買って帰り、調理してみた。

 塩で蒸しただけのシンプルな調理だが、甘味が強く滅茶苦茶美味しい。


『まさかロワイヨムの名産品がトワの世界にもあるとはな。不思議な偶然だ』


『そうですね……でもまぁ、元々食べ物は似たような物が殆どでしたから』


 そのおかげで俺の調理スキルが活かせたので、これは本当にラッキーだったと思う。


『今日の予定はもう終わりだろう? トワ達も下町の収穫祭を見て来たらどうだ? ファーレスを護衛にすれば何かあっても安全だろう』


 カードルさんの提案に、俺とフィーユが飛びつく。


『いいんですか!? ありがとうございます! 実はちょっと気になってたんです!』


『やったー! 私も一緒に行っていいよねっ?』


『3人共髪を隠し、平民の服を着ればそんなに目立たないだろう。フィーユの魔力は隠しようがないが、貴族街に1番近い下町なら平民達も強い魔力に慣れているし、他の貴族の魔力と混ざってそれほど目立たないはずだ』


 カードルさんはそう言いながら、近くの棚から少しボロくさい服を取り出す。


『騎士団の業務で、平民街の見回りをする時に着る服だ。貸してやろう』


 下町で悪事を働いている者がいた時、騎士団が来たと分かれば逃げられてしまう。そのため魔力の弱い団員がこの服を着て、平民に紛れて行動することがあるそうだ。


『フィーユには少しサイズが大きいか? まぁ後ろを縛れば問題ないだろう』


『平気っ!』


 フィーユは早く着ようとばかりに、勢いよく頷く。

 俺もカードルさんにお礼を言いつつ、服を受け取った。



『じゃ、着替えようか』



 ……



『わー! 賑やかだねー!』


 フィーユはキラキラと目を輝かせながら、物珍しげに下町を見回す。

 下町は至るところにカボチャが飾られ、お祭り騒ぎだ。屋台なども沢山出ている。


『あ、トワ! あれ! あれ、食べたい!』


 フィーユは串焼きのようなものを指さしながら、はしゃいだ声を上げる。


『分かった分かった。すみません、これ3つ下さい』


『はいよ!』


 屋台のおっちゃんが威勢の良い声を上げる。

 その様子に、俺はノイにいた頃を思い出す。


 ―― 懐かしいな……リバーシ大会の時もこうやって、皆で店を出してたっけ……


 色んな人を巻き込み、ああでもないこうでもないと話し合い、リバーシ大会の計画を立てた。


 ―― ノイの皆、元気かな……


 空を見上げてぼんやりとしていると、道行く人と肩がぶつかる。


『おい! どこ見て歩いてんだ!』


『す、すみません!』


 通行人に怒鳴りつけられ、一気に現実へ引き戻される。

 慌てて道の端に寄り、辺りを見渡す。



『……あれ? フィーユとファーレス、どこ行った……?』



 ……



 ぼんやりと人波に流されているうちに、いつの間にかフィーユ達とはぐれてしまったようだ。


「……手でも繋いどくんだったな……」


 この歳になってまさか迷子になるとは思わなかった。

 そんなに時間は経っていないので、それほど遠くに行っていないだろう。

 キョロキョロと周囲を見渡し、フィーユとファーレスの名前を呼んでみる。


「返事なしか……困ったな……」


 ファーレスは背が高いし、すぐに見つかるだろうと楽観視していたが、予想以上に人が多く、その場に留まっていることも難しい。


 なんとか人波に逆らっていると、グイッと腕を引かれ、路地に引っ張られる。

 表の通りから少し路地に入るだけで、驚く程人がいない。

 表通りの喧騒が嘘のように、路地は薄暗く、静かだ。


 勢いよく腕を引かれた拍子にバランスを崩し、尻餅をつきながら、腕が引かれた方を振り返る。



『トワ! 久しぶり!』



 懐かしい、声がする。

 ここにいるはずのない人の、優しい声が。



『……メ、メール!?』



 俺は驚きに目を見開き、何度も確認するようにメールを見る。


『久しぶりだな、トワ』


『レイもいるよ!』


『元気にしてたか?』


『俺らのこと忘れてねーだろーなっ!?』


『……わ、忘れてたら、怒るよ……?』


 メールに続き、ペール、レイ、スティード、フレド、ティミド、アルマやソルダ、カルネにレギュームと、懐かしい顔が続々と現れる。


『み、みんな……何でいるの……?』


 目の前の光景が信じられず、俺は呆然と呟く。

 するとメールが優しく笑う。



『皆でトワに会いに来たのよ』



 ……


 メールの話によると、俺がノイを出て少し経ち、貴族による監視の目が緩まったらしい。

 そのため自由に行動出来るようになったノイの人達は、ソルダを筆頭としたギルドの協力の元、俺に会うためナーエに向かったそうだ。


『ナーエについて驚いたぞ! ミーレスに聞けば、トワは山を越えてロワイヨムに向かったと言うじゃないか!』


 ソルダは俺の背中を勢いよく叩き、よく無事だったなと笑う。


『本当に無事で良かったわ……』


 メールが目に涙をため、俺の手を取る。


『心配かけてばっかりでごめん……』


 俺もメールの手を握り、頭を下げる。


『ガッハッハッ! 無事だったんだ、もっと胸をはれ!』


 今度はアルマが俺の背を叩く。

 あまりの勢いによろけた俺を見て、カルネが心配そうに声を掛ける。


『トワ、あんたちゃんと食べてる? ノイを出てからちょっと痩せたんじゃない?』


 カルネに同意するようにレギュームも頷き、『ほら、じゃがいも食べなさい?』とホクホクのじゃがいもを差し出す。


『そうそう! トワに食べさせてあげようと思って、皆色々持ってきたのよ? ホラ!』


 メールが明るい声を上げ、沢山の食料が入った袋を取り出す。


『俺が焼いた肉もあるぞ!』


 フレドもいつの間にか串に刺さった肉を両手に持ち、満面の笑みで掲げてみせる。


『酒もたっぷりだ!』


 ソルダとアルマが、誇らしげに酒樽を持ち上げる。


『さぁさぁ! 折角トワに会えたんだ! 宴にしよう!』


 皆、酒樽や空き箱をテーブル代わりにして、持ち寄った食料や酒をどんどん並べていく。



『乾杯しよう、トワ!』 



 いつの間にかなみなみと酒が注がれた杯を渡され、受け取ろうとした時だ。

 片手に持ったまま忘れていた、3本の串焼きが目に入る。



 ―― あ、フィーユとファーレス……



 ノイの人達に囲まれ、2人を探していたことをすっかり忘れていた。

 まだ近くにいるはずだ。折角なら2人のことも皆に紹介したい。



 旅の仲間が出来たのだと。

 大切な仲間なのだと。



『ごめん、皆に紹介したい人がいるんだ。探してくるから、ちょっとだけ待っててくれないか?』


 俺の言葉に、メールが優しい笑みを浮かべる。


『後でもいいじゃない。まずは乾杯しましょう?』


 メールの言葉に同意するように、ペールも笑う。


『そうだぞ、トワ。美味しい料理が冷めてしまう』


 レイも、フレドも、ティミドも、皆が、笑う。


『トワ、おなかすいた! はやく食べよ?』


『そうそう! ほら、パンも焼き立てだぜ?』


『……ね、ほら、食べよう? トワ……』


 紹介なんて後でいいじゃないかと、皆が酒や料理を勧めてくる。



『でも……』



 飲み始めれば、ついつい時間も忘れて飲んでしまう気がする。

 時間がたてば、フィーユ達が遠くに行ってしまう可能性もある。



『や、やっぱり俺は……仲間を、フィーユはファーレスをちゃんと皆に紹介してから、皆で一緒に宴を始めたい……!』



 我儘かもしれない。

 でも、この機会を逃したくない。



『……ヮー! トワ―!? どこー!?』



 遠くで、泣きそうなフィーユの声が聞こえる。

 どうやら表の通りで俺を探してくれているらしい。



『近くにいるみたいだ! 連れてくるよ!』



 俺はそう叫び、表通りに飛び出す。



 ……



『トワッ!』



 路地を出ると、丁度 目の前に手を繋いだフィーユとファーレスがいた。


『フィーユッ!』


 俺の声に気付いたフィーユが、こちらを振り向き、人混みを掻き分けてこちらへ走ってくる。


『トワッ! 何処行ってたのっ!? 突然いなくならないでっ!』


 フィーユはぎゅっと俺に抱き着くと、そのままポカポカと俺の胸を叩く。


『心配かけてごめんな……』


 そっとフィーユの頭を撫でながら謝れば、フィーユが顔を上げ、涙目のままふにゃりと笑う。


『……ちゃんと会えたからいいよ』


『……ありがとう』


 フィーユを抱きしめたまま、ファーレスの方へ向き直る。


『ファーレスも、ごめん』


『……あぁ』


 ファーレスがいつもの返事をくれる。

 いつも通りのやり取りが、妙に胸にしみた。


『そういえばトワ、ひとりで何処行ってたの?』


 フィーユも落ち着いて来たのか、俺から離れて不思議そうに尋ねてくる。


『あ、そうだった! 2人に紹介したい人達がいるんだ!』


 俺はそう言って、先程までいた路地を振り返る。




『……あれ?』




 ない。

 ないのだ。

 先程まで俺がいたはずの路地が。

 ノイの皆がいるはずの路地が、ない。


 道なんて最初からありませんよと主張するように、石造りの壁があるだけだ。



『な、なんで!? さっきまでそこに道が……あ、あったよな!? あったよな!? なぁ、フィーユ!』



 俺は思わず叫びながら、フィーユの方を振り返る。


『え……? 道……? そこに道なんて、なかったと思うけど……』


 フィーユは困惑した表情で『私が見た時、トワは壁の前に立ってたよ?』と首を傾げる。




『……え?』




 ……



 結局、フィーユ達と共にノイの皆を探したが、誰一人見つけることは出来なかった。



 皆、帰ってしまったのだろうか?

 それとも、最初から全て、虚像だったのだろうか?



『昔から、収穫祭の夜は不思議なことが起きると言われているんだ』



 カードルさんが、俺の話を聞きながら笑う。



『人ならざる者に、化かされでもしたんじゃないか?』



* Happy Halloween *



挿絵(By みてみん)


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