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『ではレンディス、よろしくお願いします』
『はいっ!』
ソティルさんの声に、はりきった様子のレンディスさんが、やる気に満ち溢れた返事をする。
次の瞬間、目の前に長い半透明の板の様なものが現れる。これが魔法で作られた道のようだ。ソティルさんは透明な道を作っていたが、どこに道があるか分かるよう可視化してくれたらしい。
道幅は馬車が余裕を持って通れるほどあり、長さは……どれくらいだろうか?
少なくとも俺の目には道の終端が見えない。ソティルさんの話によれば、馬車が通り過ぎた部分の道は消しながら、どんどん先を伸ばしていくようだ。
「すごい……」
俺は空中に現れた半透明の道を、ただただ呆然と眺める。
正真正銘、物理的に後戻り出来ない道だ。
魔法で作られた道を眺めていると、ソティルさんが馬車に乗り込みながら全員に声を掛ける。
『さあ、行きましょう』
皆、それぞれの馬車に乗り込む。
『また頼むな、エクウス……!』
『ヒィーン!』
エクウスの鳴き声が高らかに響き渡る。
こうして俺達のドラークへの旅が始まった。
……
『暇だなー……』
『暇だねー……』
『……あぁ』
『きゅー……』
『ヒマヒマ〜』
出発してから10時間程経過しただろうか?
ドラークへの旅は、驚く程緊張感に欠ける旅だった。
道に迷うこともない。
襲ってくる敵もいない。
最初は空の旅ということもあり、テンション高く馬車の窓から外を見渡していた。しかしロワイヨムが見えなくなった後は、どこまでも果てしなく雄大な自然が広がるばかりだ。正直、代わり映えのない景色に飽きてしまった。
常時魔法で道を維持してくれているレンディスさんや、馬車を引いてくれているエクウスには申し訳ないが、俺達は馬車に乗っていることしか出来ない。
『トワー、ソティルがそろそろ休憩にしようだって〜』
ぼんやり外を眺めていると、セイがソティルさんの言葉を伝えてくれる。
下を見れば、馬車を停めるのに丁度良さそうな平野が広がっていた。
『了解ー』
地面に降り、適当な場所に馬車を停める。
しっかりとした地面の感触を感じ、妙に安心する。
「うーむ、地に足がつくとは正にこのこと……」
地面を踏みしめていると、馬車から降りたソティルさん達も近づいてくる。
『どうでしたか? 空の旅は』
『なかなか慣れないですね……』
ソティルさんの問い掛けに対し、苦笑しながら答える。
そのまま少し雑談していると、ソティルさんの後方から殺気を感じる。レンディスさんだ。
『あ! レンディスさん、道作りありがとうございました』
『チッ……』
お前に礼を言われる筋合いはないと言わんばかりに、舌打ちを返される。
若干気まずい空気が流れるが、その場を和ませようと、フィーユがレンディスさんに笑顔で話しかける。
『そ、それにしてもレンディスさんは凄いね! ずっと魔法を使ってたのに、全然疲れてない!』
話しかけられたレンディスさんはといえば、馬鹿にしたように『ハッ……!』と鼻で笑う。まるで『お前とは違うんだよ』と言わんばかりの態度だ。
フィーユはビクッと肩を揺らしたあと、隠れるように俺の背中にぎゅーっと抱きつき、『やっぱりあの人嫌い……』と零す。
俺はフィーユの頭をそっと撫でることしか出来なかった。
『レンディスの魔力量ならまだまだ余裕だと思いますよ。今回の休憩もこの子達の為ですから』
ソティルさんの位置からはレンディスさんの様子が見えなかったようで、エクウス達を撫でながら話を続ける。
因みにレンディスさんは、撫でられているエクウス達のことも睨んでいた。
『そういえばこの子の名前も決まったんですよ。レンディスがどうしても自分が名付けたいと言って、道作りをしながら名前を考えてくれたんです』
ソティルさんの言う "この子" とは、ソティルさん達の馬車を引いている魔物のことだ。
エクウスとよく似た魔物で、橙色の美しい毛並みをしている。毛並み的にエクウスより魔力が強そうだ。
しかしレンディスさんが名前を付けたがるとは思わなかった。
動物……いや、魔物が好きなのだろうか?
―― どんな名前をつけるんだろう……?
ちょっとワクワクしながら次の言葉を待てば、レンディスさんは少し躊躇いつつ名前案を発表する。
『名前は……ソティにしようと思います』
……完全にソティルさんを意識した名前だった。
―― ソティルさんのこと、愛称で呼びたかったのかな……
俺はぼんやりとそんなことを思いつつ、ソティルさんの様子を窺う。
ソティルさんは自分の名前に似ていることなど全く気にした様子もなく、『いい名前ですね』と言ってソティの頭を撫でる。
『これからよろしくお願いしますね、ソティ』
『ヒィン!』
……
エクウスとソティを休ませつつ、俺達も食事の準備をする。
俺の作る元の世界の料理は、ソティルさんにも大好評だった。
『美味しいですね……! 旅をしながら様々な料理を食べましたが、こんなに美味しい料理は初めてです!』
ソティルさんはプリンを食べながら幸せそうな笑みを浮かべる。
ソティルさんに褒められた俺は、案の定レンディスさんに憎々しげに睨みつけられた。
―― 勘弁してくれ……
ビクビクとレンディスさんの様子を窺っていると、ソティルさんが目を離した一瞬に、レンディスさんが低い声でボソリと命令してくる。
『……おい、後でこの料理の作り方を教えろ』
『ハイ……』
俺の料理教室は、こんなところにも需要があったようだ……。
……
『それにしても……空の旅って平和ですね。道に迷う心配もないですし、魔物に襲われることもないですし……』
食事も終わり、なんとなく雑談モードになったので空の旅の快適さを話題に上げてみる。暇だ何だと言っていたが、そう感じられるのは道中が平穏で平和だったからだ。
まぁ陸路を進んでいたとしても、圧倒的な魔力量を持つレンディスさんがいるので魔物に襲われる心配はなかったのかもしれない。
『あー……でもこれは束の間の平和、だと思いますよ。街から遠ざかると厄介な魔物が多いんです』
俺の言葉に、ソティルさんが不穏な言葉を吐く。
『厄介な魔物……ですか?』
俺が聞き返すと、ソティルさんは苦笑を浮かべながら "厄介な魔物" について簡単に説明してくれる。
『戦闘狂……と言うんですかね? 相手が自分より強かろうが関係なく襲いかかって来るんです。寧ろ自分より強いものに挑むことを誇りにしているというか……』
ソティルさんも旅をしていた頃は、その魔物によく襲われたそうだ。
『そ、そんなヤバイ魔物が……』
『なかなか強い上に、集団で襲いかかってくるんですよ』
『うわぁ……』
ソティルさんの話によれば、ノイやナーエ、ロワイヨム等、各街はそういう厄介な魔物が少ない地域だからこそ、発展することが出来たそうだ。
その為街から離れれば離れるほど、厄介な魔物が多くなる傾向にあるらしい。
『まぁそういう魔物に襲われた場合は、広範囲で焼き払えば問題ありません』
ソティルさんがなかなかに恐ろしい言葉をサラリと吐く。
虫一匹殺したこともなさそうな優し気な美貌を持つ割に、意外に脳筋タイプと言うか、魔力ゴリ押しで物事を解決するタイプのようだ。
『や、焼き払うんですか……』
『はい。あ、勿論加減はしますよ?』
『は、はぁ……』




